第八話 「ハイデーモン/キングデーモン」
《第七 傲慢の領域》
生きとし生けるものは、淘汰された空間。
余計なノイズはない。
ただし常に焦燥観念に囚われ、心が満たされることもない。
全ては、自分以外が在ることを許さないと下した、地獄の王の趣意ゆえ。
日が昇らない極夜の空。
閉ざされた領域には、闇に溶け込むように黒い城だけが息を潜んで佇む。
――オワシスのない渇いた大地の上に。
閑静な城内。
王が座すは、黒き玉座のある中央広間。
荘厳たる暗黒のオーラ。
片肘ついて脚を組む男がそこにはいた。
「Whoo〜みんな時間通り」
伏せられた赫い瞳が開くと、男の前には七人の悪魔が円を描くように跪いていた。
一人の、黒髪のおかっぱ頭の幼女を除いて。
「それで?エバの器に魂が宿ったらしいな。
し・か・も、アスモがあろうことかそちらについた。
あ〜、まあアイツは放っておいていいだろう。契約されたようだしねぇ」
「エルブラッド様。お言葉ですが!!」
王の眼差しは、強欲の悪魔に注がれる。
銀髪に、青と緑のオッドアイ。
ゴスロリ調のワンピースに身を包んだ彼女は、必死な剣幕で王へ訴えかける。
「余に、色欲とその一味を任せていただきたいのです。あれは、貴方にとって脅威になり得る。ならば、その芽を摘むのが我ら上級悪魔の勤め!」
赫い瞳は細められ、品定めるように強欲を見据えた。
ただ見られていると言うだけで、彼女の瞳孔は定まらず冷や汗を流す。
「そうは言うけどねぇマモン?
アスモを呪縛ったのは、いただけない。しかも、領域の権限まで奪ったろ。
……俺が、いつ、それを許したんだ?」
空気が、一変。
まるで、この場にいるものを拒絶するように、静電気が張り巡り全身を刺した。
「……い、いえ。
その、余は……。余はただ!」
「何だ、言ってみろ」
「ッく!!
いえ、何も……ありません。
しかし、必ずや挽回致します。
早速、その準備にかからねばなりませんので、余は失礼します」
まるで、尋問のような重い会話に居た堪れなくなった強欲は、逃げるように姿をくらました。
王はため息一つ溢し、他の悪魔たちへ目線を移した。
「……白か黒か。
どちらだと思う?お前たち」
「挙手!妾は、グレーだと思うぞ」
黒髪の幼女が、我先にと片腕を上げて主張する。
それに王の口元は緩み、弧を描いていた。
「グレーか。まあ、仲間を疑いたくはないし、ここはしっかりと精査しないとだよな?」
「そうじゃな。身内で争うなど、天界だけで十分だと、妾思うぞ」
「まあ、何かあればお前たちが何とかしてくれるだろう?頼りにしてる」
『地獄の王のご随意のままに』
五人の悪魔は、声高らかにその忠誠を露わにする。
しかし王は肩をすくめた。
まるで、そんな言葉を期待していないように。
「はいはい。これで定期会議はオシマイ。堅っ苦しくて仕方ないねぇ。
……それじゃ、みんなでお茶にしようか」
* * * * * *
《第二 強欲の領域》
「何故だ!!何故あのような男が!!!
いや、余は、あのような奴とは違う!余は完璧なのだ。余は目的のためなら、手段は選ばない、はは!そうだ!」
傲慢の領域から帰還した、強欲の支配者は悔しくて仕方がなかった。
「ッ!!!!」
ガシャァァアン
彼女は戻るや否や一室にある家具や布、ありとあらゆる物を破壊していく。
「ぁあああっ!!クソ、っはぁはぁ。
思い出すだけで、感に障る。……図に乗りやがって!!」
ベッドにドスンと座り、貧乏ゆすりに爪を噛みしめて心を安定させようと必死になる。
「ッそうだ、もう少しなのだ。
余が、余こそが!!全てを掌握するのだ!
今に見ていろエルブラッド!!」
何かを思い出したかのように部屋を後にし、手下を呼びつける。
全身黒ずくめの偵察隊の悪魔が、颯爽と姿を現す。
「ふ、善は急げと言う。
……おい、例の件はどうなっているのだ?」
「ハッ、マモン様。
アリザと、色欲はどうやらこちらに向かっているようです」
「ニンゲンの方に変わりはないか?」
「それについては、骨が折れているようで不憫そうにしているとの報告がありましたが、いかがいたしますか?」
「……使えるな。
よいか?計画通りに、アレを用意するのだ」
「アレですね。かしこまりました」
一人残された強欲の支配者は、その威厳と自信を取り戻す。
「クク、ハハハハハハ!
待っておれよ、ニンゲン!!余が必ずや、必ず!射止めてやるのだからなぁ!!」
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今回八話前半、次回八話後半となります。
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