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第六話 「あくまがなかまになった!」


「……私は、一体何なの」


 得体の知れない力と、それを咄嗟に扱えてしまった自身への恐怖。

対峙していた悪魔の首に、いつの間にか装着されたチョーカー。

そのチョーカーは、私の瞳の色と同じ藍。


 先ほどの戦闘中に、私ではない誰かが表に出てきてアリザと、確かに呼んだ。

その声の感覚に、思わず身震いした。


「……あぁ、ダメだ……。

クラクラ、してきた」


 頭から滴る血液に、足元が濡れていく。

アスモデウスの拳がめり込んだ腕は、赤く腫れ、全身も痙攣けいれんし始めて限界を迎えていた。


「息の根を、止めないと……」


 霞む視界から、うっすらだが見えるのだ。

私とアスモデウスの間に、確実に繋がれた藍の糸が。

その糸から伝わる悪魔の脈動。

これを止めないとならない。

そう、私の中の勘が焦らせる。


(……っ、出来ない。

クソ!!クソクソくそっ!!)


 しかしあと一歩、届かない。


「ん……」


 そのせいで、アスモデウスの瞳が開かれてしまう。

悪魔と目が合う。

しかし何が面白いのか、彼は微笑んでいた。


「ふふ、最悪な目覚めだよ女王様?いや、ご主人様の方がしっくりくるかな?

いずれにせよ、この僕が人間と契約する時が来るだなんて、信じられないよ」

「契約?何を言ってるの!?」

「そうだろうね。なんせこの僕ですら、いまだに理解出来ていないのだから」

「……殺さないのか」

「……ふふ、まあね。

ちなみに、やらないんじゃない、出来ないのさ。契約のせいでね」

「……もしかして、この糸がお前にも見えるの?」

「あぁ。君がやってみせたのは契約の反転だ。

どんな小細工を仕掛けたのかと聞きたい所だけど、今は逃げようか!アイツに勘付かれた」

「え?な!なんで抱えて!降ろせ!」

「シーィ。死にたくないなら、僕の言うことを聞け。大丈夫、悪魔は約束けいやくを破らない」



 アスモデウスが察したのは、単なる危険ではなかった。

森を囲むように松明を掲げた悪魔兵の、その数の多さ。

そして、その各々のスペックが強力であることを知っていたから。


(……いつの間に、こんなに囲まれていだんだ!?しかも、出会ってきた今までの悪魔兵よりも強い……)


 私がそれに気づいたのは、抱えられた後。

松明の明かりの多さに、言われた意味がようやく分かった。


 何より、肌を突き刺す殺気。

歴戦の戦士を彷彿ほうふつとさせる強者たちのオーラが、恐怖を煽る。

これは、まともに戦ってはいけない相手たちだ。



 アスモデウスに抱えられながら、

私はハーフマントを千切り止血する。

何もしないよりは、マシだろう。

ふと、目線が悪魔の足に止まる。


(っ私が刺した傷が、ない……。これが上級悪魔の力?)


「僕の足を熱心に見つめるのはいいけど、お仲間がどこにいるのか、先に教えて欲しいな」

「あ。………突き当たりにある、洞穴にいるはず……」

「りょーかい」


 アスモデウスは加速して、私の指示通り突き当たりを目指す。

口を開けば舌を噛み千切りそうな、目にも留まらぬ速さ。



「着いたよ」

「……えっ、もう!?速!!」

「お褒めに預かり光栄だ。

けれど誰もいないようだよ?」

「そ、そんなはずない!!」


ここは確かに、アデルをかくまっていた洞穴だ。それは間違いない。

しかし、アスモデウスの言う通り誰も居なかった。



「……?何これ……」


 カラン

 足元に触れたポーションの空瓶が転がる。

そして、点々と何かがこぼれた跡。

その先にあったのは――血溜まりだった。



「嘘……でしょ」

「まだ生温かい。新鮮な血液だよ」

「っ!!冗談でもやめて!!」


 それを指ですくいとって、舐め上げるアスモデウス。

彼はまるで愉快そうに、最後の一滴まで指を味わう。



「これは失礼。けれどこちらの壁に、何か文字が書いてあるみたいだね?」



 悪魔が指し示す場所には、確かに荒々しい文字が描かれていた。

しかし、こちらの住人ではない私には到底読み上げられない。


 歯を食いしばり、悪魔の胸ぐらを掴んだ。


「お前には、読める。

……そうだな?」

「あぁ!そうだともご主人様。でも、イケナイ人だ。

先に手が出るタイプだとは思わなかった!」

「御託はいい。さっさと読み上げろ」

「残念だよ。それが、モノを頼むときの礼儀だと言うなら、対応できかねるよ」

「……ッく、このへらず口。

…………分かった、頼めばいいんでしょ!頼めば!」



 手を離し、頭を下げる。

髪が無造作に揺れて、溢れた血痕に思いを馳せた。

そうこれは、アデルとルルディアのため。

そう何度も言い聞かせた。



「………お願い、アスモデウス。

壁の文字を……呼んでほしいの」

「ああいいよ、お安い御用さ。

でも一つ、僕の目的も手伝ってくれないかい?」

「……目的?何を企んでるの」



 底知れぬ紫の瞳は、深淵しんえんを覗いているようでがんじがらめにされそうだ。

そう、まるでマリオネットのように。



「僕を玩具おもちゃのように、こき使った悪魔がいてねぇ。

なに、一泡吹かせてやりたいのさ」

「なるほど、復讐ってことか。

分かった、それ手伝うよ」

「さすが、僕のご主人様!!懐の深いお方で助かるよ。

ならこれからは、そう…僕らは仲間だ!対等な……ね?」

「そうだね。私も、そっちの方が助かる。

よろしく、アスモデウス」



 メガネの奥でにっこりと弧を描く目と、口。

そして差し出された手を握り返した。

悪意が込められた握手に、ミシミシと悲鳴をあげる。

私も負けじとやり返した。



 きっと過ちを重ねているだけかもしれない。

それでも私を助けてくれた人を、今度は私が救う番だ。



「で、これは何て書いてあるの?」


《貴様の仲間は、生け取りにした。

五日後に処刑の予定だ。

助けたくば余を倒して見せろ?無謀なその勇気で、震えながら領域へ来るがいい。

愚かな人間と裏切りの色欲よ! 

                強欲の支配者》



「……はぁ、実にナンセンスだ。こんな奴に僕が……クソ。

ハラワタが煮えくり返りそうだよ」



 ドゴォオン

 そう言ってオーラで拳を生み出し、壁を思い切り粉砕した。

砂埃が舞い、それを吸い込めば砂利が口内で苦味を帯びた。


「……ちょ!ぺっぺ!やめなさい!バレるから!!」

「あははは!!クソ!

どんな手を使ってでも勝つぞ……いいな?」

「わかったから!!」



 笑いながらも、その声音はドスが効いた低音を奏でていた。

相当ご立腹な様子のアスモデウスに、早速先が思いやられる。

けれど、悪魔の言う通りなのだ。



 どんな手を使ってでも……、この得体の知れない力を使ってでも救出してみせる。

それに、アデルならきっと、この力のことも知ってるはずだ。



「ははははは!!今に見てろよ!!」



 暴れようとするアスモデウスを必死に羽交い締めしながら、ふと思う。


 今日の敵は、明日の友とは言い得て妙であると。

だって最悪で最高な頼れる悪魔が、仲間になることもあるのだから。






ご覧いただき、誠にありがとうございました!

皆様が楽しんでいただけたら、幸いです!

また気軽に遊びに来て下さーい!

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