第二話 「専用武器」
「僕の目に狂いはなかったね!
よーし!善は急げだ!」
「……う、うん?」
「君はー、魔法に向いてないし、武術も無理。
支援系もダメか…………」
もしかして、私ものすごく素質が無いのか。
不安な私は、思わず固唾を飲んだ。
「なら武器に絞れば適性が……えっ。剣も弓も、槍もダメだ。困ったな……。
あああ!?」
「な、何!?」
「一つだけあったんだ!一二〇%の適性で、むしろこれしかないって言う武器が!
えーい!」
何もないはずのテーブルの上に、たった一つの短刀が顕現する。
「ええとー護身用?」
「いいや!立派な、君専用武器だよ。名前は、エクスカリバー……じゃなかった藍ノ助!」
「あ、藍ノ助……?!」
期待していたような武器ではなかったものの、初めての相棒。
なんだか、特別感と愛着が湧いてくる。
「これが、私の武器……。
か、かっこいいいい!!!アデルありがとう!」
しっくりくる重さと、まるで馴染むこの感触。
手放してはいけない、小さい頃の宝物のような存在感。
今ならわかる。
物語の主人公が伝説の剣を手にした時の緊張が。
魔法使いが杖に選ばれる時の気持ちが……、理解できた。
「おかしい……」
「どうしたの?」
「引かないで欲しいんだけど。
この短刀が自分の一部だったみたいな……そんな感覚すら感じるの」
「ふふ、それはそうさ。
それが一二〇%の適性で共鳴し合っている証だからね」
「共鳴……」
購入できるお金もなく、ずっと武器屋で眺めていたことが嘘のようだ。
しかも専用武器ときた。
私だけの、私のための短刀。
文字通り心が躍り、藍ノ助を抱きしめた。
そして生きていて良かったと、心から感謝して私たちは食事を終えた。
「ご馳走様でした」
カラス頭の店主は、無言のまま。
ルルディアの支払いを、受け取った。
「…………」
そのほんの一瞬。
鋭い眼光が、私に向いた。
しかし、目線は古いレジスターに向けられていた。
そう思うのに藍ノ助をぎゅっと握る手は、小刻みに震え鳥肌が止まらなかった。
そう、気のせいだ……。
疲れているのだ、きっとそうに違いない。
店を出て、しばらく歩いた道の外れ。
異様な緊張の糸が、まるで緩んだ気がした。
「……あの店主。
ずっと私たちを監視してたね。
もしかすると、勘付かれた?」
「かもしれないね」
いやでも、それはおかしい。
だって、あの店主はたった一人だ。
襲われても、勝ち目はこちらにあるのでは。
「ねえ。攻撃される前に先にこちらが攻撃すれば良いんじゃないの?」
「……アリザの言う通りではある。
でも、問題はそれだけじゃないんだ」
「……だってここは、彼らの管轄下……地上に彼らが築き上げた地獄そのものだからさ」
「だから、みんな風貌が……?」
「そう言うことだよ」
薄々そんな気はしていた。
でもいざ事実を突きつけられても、いまいち信じられない。
「しかも、君が狙われているかもしれない」
「………え?」
「この領域の支配者に、目をつけられたかもしれない。
見つかれば、たまったもんじゃないのさ」
思わず固唾を飲む。
そんな恐ろしいことになっているとは、露知らず。
ガサガサガサ
閑静な道中。
茂みが騒つき、身構えた。
緊張感が走る。
しかし、ルルディアに首根っこ掴まれて
無理やり姿を隠す。
「おい、居たか?」
「いや……」
「カラス頭の店主さんよ〜。ほんとーに、人間の女がいたのかよ〜?」
「……間違いない、ヒト族独特の匂いがしたからナ」
茂みの隙間。
そこには、先ほどの店主が兵士のような悪魔を連れていた。
短刀の柄を握りしめる手に、汗が滲む。
ドクンドクンドクン
心拍は、自分の耳に届くほど早鐘を打つ。
きっと、私のことを探しているのだ。
「いったようだね」
「目をつけられちゃったね…!」
「私のせいだ、ごめん」
「そんな事ないよ!遅かれ早かれってやつ!」
ルルディアは、私の肩にそっと手を添えた。
「とりあえず、ここからは離れよう。巡回されて、鉢合わせしたら嫌だもんね」
「後ろから突然襲われても怖いしね」
動き出そうとした、その時だったーー。
「ッ……アリザ!!」
「………っ!」
私の首に掠められた鋭い爪。
訳もわからないまま、拘束され腕はきつく後ろ手に捻り上げられていた。
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