第十一話 「代償」
強欲の首枷は、桃色の光を会場中に解き放つ。
マモンの手の内がわからぬまま、一方的に支配されていく思考回路。
私は、その場に立ち尽くしていた。
(う、動けない。
何が起きた!!どうして動けないの?!)
ひたすら沸いてくる一つの愛慕。
今すぐこの強欲が欲しいと、そう心に訴えてくるように体は、彼女を求めた。
何が起きているのか、状況が飲み込めない。
「ふ、フハハハハハハハ!!!威勢だけは良い様だったが、あっという間に余のものであるな?」
「………は、い。マモン様」
意思に反して勝手に口が、そう喋る。
彼女の細腕に腰を引き寄せられれば、身体が抱き返していた。
「余のことが、好きであろう?喉から手が出るほど愛しているだろう?
余と一つになりたいのであれば、アリザ」
「はい……ッ」
「どうすれば良いかわかるな?」
「はい。私の仲間と、リティアを殺します」
悪魔たちに拘束されたアスモデウス。
そして、壇上裏から引き連られてきたアデルと、もぬけの殻のようなルルディア。
檻から引き摺り出され、涙を流すリティア。
彼らに向かって、絨毯の上を確実に踏みしめ歩く私。
(止まれよ!!
マモンの言うことなんか、聞き入れたくない!)
「これは余が極めし干渉魔法、愛慕呻吟。今、全ての条件を満たし貴様を蝕む。
新たな玩具として、貢献するがいい!!そして、余に懺悔しろ!!!」
(……クソ!!魔法?そんなのどうすれば解除できるの!?)
壇上に上がり、腰に携えた短刀を抜き出せば、その輝きが露わになる。
誰もが助けに出ても、魔法でコントロールされ殺されることを悟っていた。
たった一人を除いて。
「ガブ!!」
「イッ!!!でぇえ!!」
リティアが、自分を拘束する悪魔の手に噛み付いた。
怯んだ一瞬の隙で、真っ先に私へ向かってきた。
「お願い止まって!
あの人たちは、お仲間ですよねッ?!!
駄目です!!目を覚ましてください!!」
(リティア、ダメだやめて!!離れて!!)
か弱き少女は、泣きながら訴える。
そして、抱きしめながら必死に私を止めようとする。
なのに、私は自分の意思に反して
その短刀を振り上げてしまう。
また何も出来ない。
そんな私が、この世で一番許せないと思いながら。
(あああああぁぁぁぁあああ!!!!)
グサ
切先は、確かに肉を抉り、その血を飛ばした。
「………ッぐあ」
けれど、それは少女を傷つけずに最も憎むべき私を狙った。
少女を突き飛ばして、自らの腹を貫く。
「……なに?なぜだ。
なぜ、自らを刺せたのだ!!あり得ん!!余の魔法に、欠陥があると言うのか!!」
それは自分でもよくわからない。
ただ、憎むべきはここにいる悪魔たちでもない。
ましてやマモンでもなく、自らの弱さであると自覚した。
腹から熱の液体が滞りなく、床にまで広がりを見せる。
痛みに歩みを止めて、その上にしゃがみ込んだ。
「アリザ!!!」
「ご主人様!!!」
「おい娘、貴様何をした?!
許さぬ!!その身をもって償え!!!」
「……あ、あぁ。
お、お許しくださぃ!!!……グッ!!」
マモンは、恐怖に怯え切ったリティアの胸ぐらを掴み床に押し付けた。
「剣を寄越せ」
「……ハッ!マモン様こちらをどうぞ」
剣の先端は、少女の首に添えられる。
血の匂いに群がる悪魔たちに押し流されていく中。
その隙間から私は訴えた。
あの子は何の罪もない。
この諍いに巻き込まれるべきじゃない。
でも、このままじゃ殺されてしまう。
私はあの子を救うためなら、何だってしてやる。
だから、お願い。答えてよ!
暗闇の領域。
泥沼の中にいる私を、もう一人は、水際から見下ろす。
【諦めなさい】
「でも、あの子は死んでしまう」
【それは運命だわ、変えられない】
「変えられる。私にはそれができる。」
【まだ抗うと言うの】
「抗うよ、自分の罪も罰も全部背負うつもりだから。」
【………ならば代償よ、アリザ。
あなたは救いの代償に、私へ何を捧げられる?救うとは、覚悟すること。
覚悟には、犠牲を伴うのよ、さあどうする?】
「私の右眼、その権限を譲るッ!!
あの子を救うために、お願い力を貸して!!
……エバッ!!!!!!」
闇の中で、藍の一番星に、手を伸ばした。
【代償承諾。失敗しても、成功しても貴女の片眼は私のモノ。
まあ、精々足掻きなさいな……ウフフアハハハハハハハ!!】
パキ、パキ、パキンッ
私を支配する強欲の枷に、亀裂が入り
それを自らの手で握り潰した。
ご覧いただき誠にありがとうございました。
昨日は、体調が悪く投稿済みの話のお直しだけいたしました。すみません。
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