004 退魔師への道
天音は一瞬だけ迷いを見せたが、すぐに顔を上げ、真剣な瞳で答える。
「…覚悟はあります」
その決意に、蓮は少しだけ目を見開き、驚きが一瞬だけ表れる。しかしすぐに無表情に戻る。
所長は天音をじっと見つめたまま、静かに口を開く。
「なら、学費は私が出そう」
驚きで目を見開く天音。
「えっ……そ、それは……」
所長はそっと天音の肩に手を置き、柔らかく微笑んだ。
「気にする必要はない。すまないが、天音さんのことは事前に少し調べさせてもらったよ」
落ち着いた声で続ける。
「学校生活のことや家庭環境――奨学金で通っているだろう?退魔師学校じゃ、そうはいかない。バイトもやめて、学校の寮で生活することになる」
手の温もりと穏やかな声が、天音の緊張を少しずつほぐしていく。
「安心していい。ご両親への説明は…私がしよう」
天音は顔を赤らめ、かすかにうつむく。
「そ、そんなことまで……」
蓮が後ろで小さく舌打ちしながら、口を開く。
「父さん、やりすぎだろ……」
彰はにやりと笑い、天音の肩に置いていた手を放す。
「いや、これも天音さんへの投資さ。私もそこまでお人よしじゃないんだが……君には期待しているんだよ」
「退魔師になったら、うちに所属してもらうつもりだ。学校生活も含めて、私が面倒を見る」
所長は天音に言い終えると、ふと蓮をちらりと見て、少しからかうような表情を浮かべる。
「それに…蓮の貴重な友達みたいだしね」
蓮は思わず目を細め、呆れたようにため息をつき、無言で所長を睨みつける。
天音は深く息を吸い込み、胸の奥にふわりと温かい安心が広がるのを感じた。
――長い間、冷たく閉ざされていた心に、光が差し込むような感覚だった。
「…ほんとうに、ありがとうございます」
声が少し震え、胸の奥がじんわり熱くなる。
所長は微笑み、静かに言った。
「では、学校への手続きは後日にしよう。
今日はもう遅いからここで休むといい。蓮、案内を頼むぞ」
その言葉を聞き、蓮は小さくため息をついた。
少し面倒くさそうに眉をひそめながらも、天音の方をちらりと見やり、短く言う。
「…ついてこい」
天音は一瞬背筋を伸ばし、彰に軽く頭を下げ、その後ろにそっと続いた。
廊下を進むと、やがて蓮が立ち止まる。
「…まずはここでシャワーを浴びろ」
個室シャワーに案内され、天音は少し緊張しながら扉を開ける。
――しばらくして脱衣所にタオルと着替えを置き、蓮が声をかける。
「出てきたらそこに置いてあるのを着ろ」
「はいっ…」
天音は慌ててシャワーを浴び、急いで服を身に付ける。
「お、お待たせしました……」
蓮は軽く眉をひそめ、わずかに首を振る。
「髪を乾かせ。ドライヤーはそこだ」
「あ、わかりました……!」
髪を乾かし終えると、蓮は歩き出す。
「あの、他の人は……?」
「……夜は任務に出てることが多い。
会うと厄介だから見つからないようにしろ」
やがて扉の前で立ち止まり、蓮は短く告げた。
「ここだ。鍵は忘れるな。トイレは出て右にある。明日7時には出られるようにしておけ」
言い終えると、蓮は背を向けて去った。