表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
退魔師の光〜一般人の私が、兄を殺した妖魔達を引き寄せてしまう理由。覚醒して退魔師を目指します〜  作者: seika
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/29

昇級試験――落ちる者、掴む者

 私はとある場所で盛大に足止めを食らっていた。


「……あれ? なんで行き止まりなの……」


 目の前には岩壁。

 おかしい。中心部に向かってきたはずなのに行き止まりだ。

 ここは一体どの辺りなのだろう。


 私の辞書には”方向音痴”という言葉は存在しなかった。


「うそでしょ〜、絶対こっちだと思ったのに……」


 元の道に戻ろうと後ろを振り返った。すると、視界の端でかすかに人影が揺れた。


「あっ、え? 人だぁ! よかったぁぁ!」


 反射的に声が弾む。

 すぐさま駆け寄る。

 しかし、そこの先にいたのは地面に座り込み、顔を伏せて震えるクラスメイトだった。


「おーーい! 大丈夫……」


 声をかけたその瞬間。


 ガリッ……。

 爪で地面を引き裂く、嫌な音がした。


「……え?」


 気づけば、その生徒の周囲には小型妖魔が三体。逃げ道を塞ぐように、じりじりと円を描いて距離を詰めていた。


「――た、たす……け……」


 掠れた声に私の足が止まる。


「助けなきゃ……!」


 でも、どう攻撃する?

 相手は三体。しかも屍鼠しそだ。腐敗した鼠型の妖魔で、群れで行動する。この近くに仲間がいるのだろうか、呼ばれたら結構な数になる。座り込んでいる子を守りながら戦うのは無謀だ。できればこの三体で終わらせたい。


 一気に倒すことができるのか……まあ、突っ込むのみ!


 息を整えて、地面を蹴った。


 ――ズルッ。

 足裏の感覚が、ふっと消えた。


「えっ!? うわっ!? お、落とし穴ぁぁぁ!?」


 土が滑り落ち、地面にはポッカリと底の見えない穴が姿を現した。反射的にそれを飛び越え、木の幹から垂れる太いツルを思いっきり掴んだ。


 私の重みが加わり、ツルが大きく揺れた。

 ぶらん、と身体が宙に投げ出される。


「ちょ、ちょっと!? そこどいてぇぇっ!!」


 その勢いのまま妖魔の一体に激突。さらに、二体目、三体目と連鎖的に巻き込んでいく。


「うぅ……いったぁ……!」


 勢いのせいだ。

 決して私の体重が重いから、というわけではない。

 私の下敷きになった哀れな屍鼠にトドメを刺した。

 仲間を呼ばれずに一気に片付いた。

 ”不幸中の幸い”ということにしよう。

 黒い影は、まるで煙のように溶けて消えた。


「あ、天音ちゃん……ありがとう……!」


 助けたクラスメイトが、目に涙を溜めていた。


「あはは、よかったよ……ほんと」


 格好悪いところを見られたけど、良しとしよう。




 その頃。上空に浮かぶドローンが、次々と罠にかかる生徒たちを捉えていた。


「今回は罠もあるようですねぇ! 特に落とし穴がえげつない数ありますよぉ! 全員、足元には気をつけろーーっ!!」


 比良坂先生のあまりに軽快な実況に、観客席がざわついた。【星2】の生徒たちが顔を見合わせる。


「なあ……俺、まだ初級妖魔一体も倒せてないんだけど……」


「俺もだよ。罠まで避けながら戦うとか無理ゲーじゃね?  昇級試験ってレベル高くねえか……?」


 ぷはっと噴き出す笑い声。

【星3】席。赤髪をかき上げた(れつ)がニヤついている。


「マジで言ってんのかよ? 情けなさすぎて聞いてらんねぇな」


「そんなんだから、お前ら【星2】なんだよ。罠避けながら妖魔倒すくらい普通だろ。そんなこともできねぇなら……死ぬぞ? つーか、死ね」


 喧嘩腰な烈の元へ、隼斗が割って入る。


「はいはい、喧嘩しないよ。ほら、集中してる人もいるんだから静かに観戦しろよ」


 烈は舌打ちをした後、再びモニターへ視線を戻した。



 画面は別のエリアへ切り替わった。

 木々を飛び越え、軽々と移動する凪。


「よっしゃあ! ええ感じや!」


 そこに結菜が合流した。


「あら、凪じゃない。今、何点なの?」

「31点や! 結菜ちゃんは?」

「私は――」


 結菜が口を開きかけた時。


 ーーバサァッ!! 


 頭上から落ちてくるネット。


「うわっ!?」


 結菜の頭上に落ちる寸前、凪が結菜の腰を抱え横へ飛んだ。


 ネットは何も捉えられず、ガサ……と乾いた音を残して地面に落ちた。地面を覆い尽くしているネットを見て、結菜は凪の腕の中で呆気にとられる。


「……助かったわ。でも、落とし穴にネット、振り子の丸太なんて、罠が古典的すぎない?」


「なんやて!? 仕掛けあるなんて聞いてへんぞ! そんなもんどこで見たんや」


 少し進んだだけで出てくる罠。

 それを結菜は慎重に回避してきた。

 それに、気づかない者がいるのだろうか。

 一度も罠に当たらないほど運が良かったのか、凪の移動速度が早すぎて罠に気づかなかったのか。


 結菜の心境は、「もうどっちでもいい」ということで落ち着いた。


 その背後。木の影から背中に針を生やしたサル型の初級妖魔、針猿しんえんが二体、ギギ……と姿を現した。


「……おお、お出ましやなあ。とりあえず――」


「「どっちが倒すか勝負や(よ)!!」」


 二人はほぼ同時に飛び出す。

 針猿に刃が降りかかる!



「おっとぉぉ! こちらは早川凪さんと篠宮結菜さんのエリア! 二人は初級妖魔相手に得点を奪い合っているーーー! ちなみに今戦ってる妖魔の点数は8点だぁーーー!! どちらが倒すのか!?」


 スクリーンに上位10位までのランキングが映し出される。


「途中経過の発表だぁ!! 現在は早川凪、圧倒的トップ!! 篠宮結菜さんも追い上げ中!! そして白瀬天音さん、序盤の2位から一気に10位まで転落だぁ!! 救助を優先している為、順位がどんどん下がっている模様ーーー!!」


「マジかよ……せっかく上位にいたのに」

「いや、でも助けに行くとかカッコよくね?」

「得点にはならないんだろ?  無駄ムーブじゃね?」


 ざわざわと議論が広がる中、誰かが嘲笑うように声を上げた。


「ヒーロー気取りかよ。昇級試験だぞ? 仲間助けて順位落とすとかさぁ」


「――黙れよ、クズ」


 空気が一瞬で凍りついた。

 言葉を放った当の本人……蓮は、腕を組んだまま視線をスクリーンから一切逸らさなかった。


 本当に……この場所には向いてない。

 現場で仲間の救助を優先すれば、敵は倒せない。仲間を見捨てるしかない状況になったら、あんたはどうするんだろうな



 *


 森を走りながら、ドローンの機械的な声が響いた。


『制限時間20分、20分!』


「もう時間がない……」


 頭の中で蓮との約束がぐるぐる回り、全身が締めつけられるようだ。

 点数の高い初級妖魔を探さなきゃ。



「うわぁぁぁぁぁ!!!!」


 遠くから悲鳴が森にこだまする。


 また誰か罠に引っかかった?

 それとも妖魔に襲われてる?

 私が行かなくても、救助される。

 それよりポイントを稼がないと。


 そんなこと分かってる。

 でも……見過ごすことは、できない。 

 気づけば、私の足はもう走り出していた。

 得点も、蓮との約束も。

 頭から消えていた。


 今はただ誰かを助けることだけが、私を動かしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ