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退魔師の光〜一般人の私が、兄を殺した妖魔達を引き寄せてしまう理由。覚醒して退魔師を目指します〜  作者: seika
二章

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【星1】の足跡

「ここからは自分の“気”を周りに放つの。集中すれば暗闇でもある程度見えてくるはずよ」


 “気”をつかうことで暗闇が見えてくるものなの?

 そう疑問に思ったが、この数時間で紗代のことを信用しきっていた私は、言われた通りやってみることにした。


 “気”を意識する訓練は、もう日課だった。

 そのおかげで最初は何も分からなかった感覚も、今では数秒で引き出せるようになり、一日くらいは維持できるようになっていた


 周囲に放つということは、放電に近い感覚なのかもしれない。

 そんなイメージで“気”を外に放つこと数分。


 次第に闇の中に、ぼんやりとした輪郭が浮かび上がってきた。


 足元の岩。

 壁の凹凸。

 そしてこの先に、微かに感じる気配。


「見えた……」


「ほんまか!? オレ、全然やで!? なんでやねん!!」


 凪が騒ぐ横で、紗代が感心したように小さく微笑んだ。


「そんなすぐに出来るものではないんだけど……天音、あなたの“気”はとても安定してるわ。芯がしっかりしてる。きっとたくさん積み重ねてきたのね」


 褒められた。

 もちろん嬉しい。

 でも、素直に喜べない自分がいる。


「でも……この先、もっと強い妖魔と戦うことになったら、また体が動かなくなるかもしれない……そんなことを考えちゃうの」


 せっかく前に進めたはずなのに。

 その一歩が、また止まってしまうんじゃないかと。


「大丈夫よ」


 その声は、静かで柔らかい。


「天音は階段を駆け上がってる途中なの。不安が出てくるのは当たり前。変わりたいって思った時から、もう一歩は踏み出してる。あとは迷いなく登っていくだけよ」


「……私も、もう少し頑張れていたら――」


 しかし、その言葉は途中で途切れた。


「おおぉぉ!! あったでーーーー!! こんなとこさっさと退散や!」


 本堂の灯火に照らされた、古びた札。

 それを掲げて、凪は子供のようにはしゃいでいた。


 その様子に思わず笑みが溢れた。


「……よかったね」


 紗代がぽつりと呟いた。

 その横顔は、何故か少しだけ寂しそうに見えた。


「さっきの話……」

「遅すぎることなんてないよ。私もみんなよりスタートは遅かったけど、最近ちゃんと追いついてきてるって感じるの」


 紗代に何か言いたかった。

 諦めないでって。


「変わりたいって思った時から、一歩踏み出してる……でしょ?」


「……ええ、そうね」


 紗代の言葉を使っちゃったけど、私の想いが伝わったのが嬉しかった。


 新しい友達ができた。この洞窟に入った時は、あんなに怖かったのに、今はるんるんでスキップしながら出口に向かっている。


「そうだ! 私たちと今度一緒に訓練しようよ! 紗代も一緒だったらきっといい訓練になると思うし!」


 私は紗代も交えて四人で訓練する光景を思い浮かべた。紗代は驚いた後、照れたように頬を染めて微笑んでいた。




 洞窟の出口が見えてきた。

 外に出ると、みんなが集まっていることに安心した。

 やっと暗闇から解放された。

 だが、そんな安堵はすぐに破られた。


 みんなは私たちに視線を向けた。

 全員と言っていいほどの視線が向けられ、自分たちが何かしたのかと、凪と顔を見合わせた。待機していた教師たちがこちらへ近づいてきた。


「……君たち、二人で入ったんだっけ?」


 その言葉に、私は首を傾げる。


「なに言うとんのや、三人に決まっとるやろ。なあ?」


 凪の返答に私も頷く。

 そして隣にいるはずの紗代に話しかける。


「ねえ、紗代……」


 いない。

 さっき一緒に洞窟から出てきたのに。


「あれ?  紗代は?」


「おらへんな……どこ行ったんや?」


 私たちの会話を聞いていた結菜が、顔色を変えた。


「……天音。入る時も、出てきた時も……二人だけだったよ」


 血の気が引いた。

 じゃあ、紗代は……。


 その瞬間。耳元で、声が聞こえた。

 潮の匂いとともに、淡く優しい響きが。


『天音……凪……ごめんね。楽しかったわ、ありがとう……これでやっと前に進める』


 凪の顔が青ざめ、そのまま糸が切れた人形のように崩れ落ちた。


 私の鼓動が止まった。

 視界がぐにゃり、と歪む。

 意識が、遠のいていく。



「天音!! 凪!!」


 結菜の叫びだけが、最後まで残った。




 *


 翌朝、その出来事は学校中の噂になっていた。

『夜間授業で【星1】の白瀬天音と凪が“封印の札”と一緒に、()()を持ち帰った』


 その噂は、【星3】クラスにも静かな波紋を広げていた。窓際に座る隼斗は楽しげに笑った。


「……成仏、か。面白いね。あとで結菜に詳しく聞いてみよっと」


 一方、机に突っ伏したままの蓮は目を閉じ、興味を示すこともなかった。


 隣の席では、別の生徒が鼻で笑う。


「たまたまだろ、ただのビギナーズラック。【星1】が幽霊退治したくらいで調子に乗んなよな。俺らが相手するのは妖魔だぜ」


 だが、教師陣の目は少しだけ違っていた。

【星3】の担任、神崎教官は教室で報告書を閉じながら“ある一点”にだけ、興味を示していた。


 報告書

『懐中電灯が使えなかった為、【星1】である白瀬天音が、暗眼察知ダークアイ・サーチャーを使い封印札を持ち帰った』



 ――暗眼察知ダークアイ・サーチャー

 退魔師の家系の生徒なら知っている者もいるが、扱える者は限られる。


 視覚からの光ではなく、“気”を使って周囲を視るこの能力は、暗闇での活動に必要不可欠だ。


 さらに熟練すれば、壁の向こう側でさえも何があるか察知できる。ただし、それには "気“を正確に放出し続けられる高い集中力と、気を枯渇させないだけの器が必要だ。本来なら二年生から段階を踏んで習得するものであり、現時点で扱えるのは、このクラスのやつらだけだ。



「……白瀬天音、か。覚醒者とは聞いていたが……」


 半年前に転入してきた少女。

 成長速度が異常だとでもいうのか?

 それとも、何か……あるのか?


 その小さな違和感は、やがて確かな注目へと変わっていく。

 すべては、そのきっかけにすぎなかったのだ。

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