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退魔師の光〜一般人の私が、兄を殺した妖魔達を引き寄せてしまう理由。覚醒して退魔師を目指します〜  作者: seika
二章

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楽しい夜間授業

 こんな洞窟でどんな授業をするのか。

 生徒たちが口々に憶測を飛ばす中、洞窟の周囲に散って立つ数名の教師の姿が目に入った。月明かりに照らされたその顔には濃い影が落ちていて、表情が読み取れない。


「さて、ここで問題よ。妖魔は昼間よりも夜に活発になるわ。それは何故かしら?」


 しん、と静まり返る。


  「……えっと、月の……影響、とかですか?」


 おずおずと上がった答えも、闇に吸い込まれた。


「惜しいわね。正解は“不安や恐怖が増す時間帯”だからよ。妖魔はそういう不安定な感情が大好きなの。だから恐怖心にのまれないように、気をつけて」


 玲司先生は軽くパチンと指先を弾いた。

 乾いた音が鳴り、生徒たちの間にひんやりした緊張が漂う。


「――今夜の課題は、この奥にある”封印札”を持ち帰ること。洞窟には何かいるって噂もあるらしいけど……さて、どうかしらね?」


 玲司先生が指をさした洞窟から、冷たい風がごぉぉ、と吹き抜けた。背筋にゾクリとした寒気が走る。


「お化けとか余裕や! 怖がるなんてありえへん!」


 凪の余裕綽々の台詞が盛大なフラグにしか聞こえない。


「はいはい」


 結菜は小さくため息をつき、私の肩に手を置いた。


「そういうこと言う人ほど、最初に叫ぶんだよね。天音は……大丈夫?」


 結菜の表情はいつもと変わらず落ち着いている。なんでこんなに余裕を持てるのか教えて欲しい。



「……ほんとに、出ないよね?」


 私はというと、見て分かる通り怯えまくっていた。ここ最近で妖魔への恐怖は克服できたと思うが、得体の知れないものが出るとなると、また別の怖さがある。


「天音、大丈夫だよ! 幽霊なんていないって!」


「せやせや! 幽霊でも妖魔でも関係あらへん、倒すだけや!」


 さすが、もうベクトルが違う。

 幽霊までも倒そうとしているのはこの世界で凪だけだろう。


 先生がくじの入った箱を持ち、生徒たちが順番にそれを引いていく。

「チームを組み、間隔をあけて洞窟に入っていく」そういうルールらしい。


 くじ引きの結果、私は凪と見慣れない少女、紗代(さよ)と組むことになった。メガネにおさげといった一昔前のスタイル。こんな子いたっけ? と思うほど全体的に影が薄く、話しかけなければ気づかないほど存在感が控えめな子だった。


「話したことなかったよね。私は天音! よろしくね」


「凪や! よかったな紗代ちゃん、オレがいれば最強やで!」


 胸を張って高らかに宣言する凪を見て、紗代はくすくすと笑った。和やかな雰囲気に、緊張が緩んでしまう。


 少し離れた場所で、結菜がくじを持って周りを見渡しているのが目に入った。私はそんな結菜の元に駆け寄った。


「結菜! 誰と一緒になったの?」


「あー、それが同じ番号の子が見つからなくて……まあ、先生と組むかも、聞いてみるよ!」


 はぁ、結菜と一緒じゃなくて少し残念。

 落ち込んでいたらすぐに私たちの番になり、洞窟の奥へと足を踏み入れた。


 私たちの足音が岩壁に反響しているのか、コツコツと響く。ライトを上に当ててみると、天井の高さは私の二人分はありそうだ。これなら頭をぶつける心配もない。再び足元を照らすと、上から雫が垂れてきて、私の首元へ落ちた。


「ひぁっ!!!」


「うわぁぁ!! なんや!!」


「ただの水よ。二人とも」


 冷静な紗代の声に、私と凪は落ち着きを取り戻したが、声を上げてしまったことが少し恥ずかしかった。


「せ、せやな、天音ちゃんの声に少し戸惑っただけやし、びびっとるわけやないで!」


「そうでしょうね。そんなことで怖がってたら、退魔師なんて無理だもの」


 意外と毒舌な紗代ちゃん。

 凪を言い負かすなんて結菜だけかと思ってたのに。


 私の視線に気付いた紗代は微笑みを浮かべた。そしていつの間にか紗代を先頭に、私たちはどんどん奥へと進んでいく。




 その頃。脅かし役として洞窟内で待機していた玲司先生は、周囲の様子をひっそりと観察し、獲物が現れるのを確認すると札を取り出した。


「この札は”具現札(ぐげんふだ)”。幻を一時的に具現化するもの。この内容は授業で教えたけど、分かるかしらね?」


 私たちの足はぴたりと止まった。

 なぜなら正面に、ぼうっと白い何かが浮かび上がったからだ。


「うわぁぁ!! なんじゃありゃぁ!!」

「きゃゃああ!! で、でたぁぁぁ!!」


 私は反射的に腰に常備していたナイフをそれに投げつけた。白い何かを貫通し、ナイフはそのまま大きな岩の向こうへと消える。一瞬遅れて「きゃあ!」という声が反響した。


「なんや! だっ、断末魔か!?」

「さ、紗代ちゃん、走るよ!」


 脚がもつれながらも紗代の手を引き、私たちは全力疾走してその場を離れた。


「はぁ…はぁ…ほんとに出た…お化け……」


 やがて、紗代が肩を震わせて笑い出した。


「あははは! あれは幽霊じゃないわよ。誰かが隠れてるのが見えたもの。だいたい幽霊はあんな分かりやすく出てきたりしないわ」


 私と凪は顔を見合わせ、思いっきり息を吐いた。


「な、なんだぁ……よかった〜」


 辺りを見渡すと、薄暗い洞窟の奥には小さな湖があり、水面は月明かりを受けているようにかすかに光り、静けさがさらに異様な気配を増していた。どうやらだいぶ奥まで来てしまったようだ。


「……ここはよくないわ、早く行きましょう」


 紗代の険しい顔に違和感を感じた、その時。


 ――ぷつ。


「えっ……」


 懐中電灯が消えた。


「こんな時に電池切れかいな……!」


 闇が私たちを包む。暗い、怖い。

 みんなが傍にいるのか不安になる。


「こっちよ」


 紗代の落ち着いた声が聞こえ、うっすら見えるゴツゴツした岩壁に手を触れ、彼女の声を頼りに慎重に足を踏み出した。


 その背後から

 なにかの気配がじわりと迫ってくるのを感じる。


 私の、すぐ後ろに。


「……凪、くん?」


「だめ!! 振り返らないで!」


 紗代が叫び、緊迫した声に背筋が凍った。

 凪じゃない。私たち以外に、なにかいるんだ。


 そう思った瞬間、こめかみから汗が伝った。叫びそうになるがぐっと堪え、私たちは振り返らず、ただ紗代に従い静かに進み続けるしかなかった。


 そして広めの空間に出ると、後ろについていたものの気配が消えた。


 紗代がぴたりと足を止める。

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