成長の刃
「次の昇級試験で【星2】になる!」
――あの日、勢いで叩きつけた宣言は私の逃げ道を完全に塞いだ。そして、昇級試験までの一ヶ月で「妖魔に向き合える自分」に否応なく成長しなければならない現実を突きつけた。
翌日、私は凪に頭を下げ訓練を頼んだ。何度倒れても立ち上がる私の姿に、凪は最初こそ呆れたように笑って傍観していた。けれど気づけば、いつものように練習相手をしてくれるようになっていた。
「そこの動きは無駄が多いよ。もっと最小限で攻撃できるように考えて」
そこに結菜も加わった。彼女の指摘は冷静で的確で、まるで私の動きを分解し、最適な形に組み直していくようだった。妖魔に対抗するための戦術が確実に体へ染み込んでいく。
私の実力は目に見えて磨かれていった。凪との模擬戦でも、以前のように一方的に押されることはなくなり、互角に打ち合う時間が次第に増えていった。
いつしか周囲の視線も変わった。”女だから””運良く覚醒しただけだから”という嘲笑は消え、代わりに向けられたのは、驚きとほんの少しの敬意だった。その手応えを胸に、私は先生のもとへ向かった。
「バーチャル妖魔訓練を一人でやらせてください」
初級妖魔が現れた瞬間、かつての昇級試験の恐怖がフラッシュバックし、手足が震えた。
それでも私は、ナイフを強く握り直す。
挑み、倒れ、
また立ち上がる。
その繰り返しの中で、妖魔の動きが「恐怖」ではなく「パターン」として見え始めていた。
驚きに反応するんじゃない。
先を読んで迎え撃つ。
私の瞳に、もう迷いはなかった。
――私は、戦える。
確信とともに、刃が妖魔の急所を捉える。
……が、私はあえてそれを外し、妖魔からの反撃を受けた。
『チャンスよ、天音』
それは結菜の巧妙な作戦だった。
『まだ倒せてないから再戦ができる。だから数回はわざと失敗して恐怖に慣れたほうがいいの。クリアしちゃったら再戦は許可してもらえないからね』
結菜の考えは私には思いつかないことばかりだ。だからこそ心強い。卑怯だと言われても仕方がない。でも、これくらいしないと乗り越えられないから。
「今日も惜しかったな。また頑張れよ」
先生からの励ましを受け、騙しているようで申し訳ないと思いながらも私は黙って頷いた。
そして今日。すべてに決着をつけた。
静寂が訪れる頃には、ナイフを握る手の震えもすっかり消えていて、体力ゲージも満タンだった。一ヶ月かけて、私はようやく恐怖を克服したのだ。
*
その夜。私たちは学校を離れ、ひんやりとした洞窟の前に集められた。
夜気が肌に絡みつき、吐く息はかすかに白い。懐中電灯の光が揺れるたび、洞窟の入り口はまるで大きな生き物が口を開けているかのようだった。
「ふふっ、さあ! 今日はお待ちかねの夜間授業よ!」
玲司先生はいつも通りだが、私たちの顔は強張っていた。
「……まあ、楽しいかどうかは君たち次第だけどね?」
玲司先生の不気味な笑みが追い打ちをかける。その陽気な声だけが洞窟の入口に不釣り合いに響き、灯りの届かない暗闇が、静かに洞窟の奥へと続いていた。




