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退魔師の光〜一般人の私が、兄を殺した妖魔達を引き寄せてしまう理由。覚醒して退魔師を目指します〜  作者: seika
二章

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【星】に誓う約束

 私は誰もいない訓練室の隅で、俵相手にナイフを振るっていた。照明が金属の刃を照らし、俵の表面が削ぎ落とされていく。止まればあの光景が蘇る気がして、ただ無心に体を動かすしかなかった。昼間の試験で味わった悔しさが、まだ胸の奥で燻っていた。


 コツ……。


 乾いた足音が静かな空間に混ざった。


 振り向くと、そこにいたのは蓮だった。なんでこんな時に会ってしまうのか。今は話したくないのに。


 蓮の冷たい眼差しが、逃げ場を塞ぐように私を射抜いた。


「……さっきの模擬テストの順位、あんたにしては低すぎだろ。理由は?」


 あまりにストレートな問いかけに息が詰まった。視線が勝手に床に落ちる。


「実技が、上手くいかなくて……」


 言い訳のように聞こえただろうか。少しだけ顔を上げると、蓮は口元に手を当て、何か考え込んでいた。


「あんたのとこは、初級妖魔討伐のバーチャル戦だったな……」


 頷くと同時にさっきの試験が脳裏に浮かんだ。


 凄いスピードで迫ってくる妖魔。

 それをかわすことも、攻撃することさえもできずに、ただ立ちすくんでいた自分。


 あんなに訓練してきたのに、結局、私自身は何も変わっていなかった。もし、霧島くんがあの場にいたら、なんて言われていたんだろう。


 そんな現実逃避じみたことを考えていたら、彼と目が合った。


 蓮は私が訓練用に使った俵へと視線を移した。


「あんたは基礎体力や知識の伸びも悪くないし、応用への対応も早い。だが、妖魔に刃を入れられない精神力では、どれだけ腕を磨いても無駄だ」


 その冷静な分析は、不思議なほどすんなりと腑に落ちた。


「だから向いてない。やめろ」


 拳を握る手に力が入る。指先に痛みが走るはずなのに、今はそれすら感じない。蓮の瞳が揺れていたのに気づかないほど、私は必死だった。


「……でも、やらなきゃ! やめるわけにはいかないの!! 私はっ……!」


 予想外の反論に、蓮は戸惑ったように口を開きかけたが、結局は何も言わずに口を閉じた。



 数秒の沈黙。

 張りつめた空気の中で、蓮が大きく息を吐いた。


「【星1】のくせに、何言ってんの」


「っ……じゃあ【星2】になる! 次の昇級試験で!」



 ーー……はっ、言い切っちゃったよ。


 気付いた時にはもう遅い。私の強気な宣言に、蓮の目が一瞬大きく見開かれた。そして、口元が僅かに緩んだ。


 やばい。なんかやばい。


「本気か?」


「え、あ……うん」


「そうか。そんなに言うなら【星2】に上がれなかったら、退学っていうのはどうだ?」


「……っ!」


 不意に突きつけられた言葉に、私は絶句した。


「そ、それは……いくらなんでも……」


「心配するな。所長は気にしないだろ。援助してやってるとはいえ腰抜けが辞めても困らない」


 冷水のように冷たい男だ。

 悔しいし、腹が立つ。


 でもそれ以上に、今の自分では反論できないと分かっていた。


 目的はここに居座ることじゃない。退魔師になること――その先にあるもののために、私はこの学園にいるんだ。


「……わかった」


「交渉成立だな」


 覚悟を決めた時、ずっと抱いていた疑問を蓮にぶつけた。なぜか、今なら答えてくれる気がした。


「……なんで、そんなに私をやめさせたいの?」


 驚いたように目を見開いたかと思うと、蓮の黒い瞳が、どこか遠くを見つめるように細められた。


 再び沈黙が訪れ、蓮は掠れた声で呟いた。


「……無駄な死は、もう見たくないんだよ」


 いつもの蓮からは想像できない悲しげな表情に、私は戸惑った。言葉の端々に滲むその感情が、胸にじんわりと伝わってくる。


「あんたは、わざわざ俺が助けてやった。そのことを覚えとくんだな」


 蓮はそれだけを言い残し、静かに背を向けた。


「待って!」


 私の大声に、蓮は少し戸惑った顔をして振り返った。


「……じゃあ、もし私が昇級できたら?」


「はあ……? 知らない」


「だって、不公平だと思う!」


 私たちはお互い一歩も譲らず、睨み合う。


「……はぁ。ほんと頑固だな、あんた」


 蓮は呆れたようにため息を吐き、どこか投げやりに言った。


「……昇級したら、俺の任務に付いてきてもいい」


「えっ!? ほんとに!?」


 その提案にここぞとばかりに食いついた。期待に満ちた目で蓮を見る。


「ああ。ただし【星1】が【星2】に上がれるのは三年に一人。転入生で覚醒したてのあんたが合格する確率は……限りなくゼロだ」


 蓮の正確な指摘に一瞬躊躇するものの、私はひるまなかった。退魔師の任務は、私たちのように資格が無い者は同行できない。自分の危険すら守れないからだ。


 でも、付いていきたい。溢れ出る好奇心は止められない。


「やる!! 絶対に昇級する!!」


 あんたには無理だ――。


 会った時から言われ続けてきたその言葉を、撤回させてやるんだから!

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