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退魔師の光〜一般人の私が、兄を殺した妖魔達を引き寄せてしまう理由。覚醒して退魔師を目指します〜  作者: seika
二章

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模擬テスト――結果と順位【結菜said】

<<結菜said >>


 扉に手をかけた瞬間、ひやりとした空気がわたしの指先に絡みついた。無意識に息を整え、震えそうになる手をもう片方で押さえつけた。


「……私だって、本当は怖いのよ」


 その本音は、開始の合図と同時にかき消された。

 闇を裂くように影が現れ、獰猛な金眼がわたしを捉えた。


(来る……!)

 その姿を観察する暇もなく、妖魔は突風のように素早くこちらへ向かってきた。


 わたしはその勢いに驚いたが、地面を滑るように紙一重で身をかわした。頬を少し掠めたけど、問題はない。


 膝がわずかに震えている。息を吸って無理やり思考を妖魔に切り替えた。


 妖魔の特徴を捉え、以前読んだ妖魔録(ようまろく)――今まで発見された妖魔を種別ごとにまとめた図鑑の記憶を辿り、頭の中で初級妖魔のページを捲っていった。


「……あれは、暗牙狼あんがろうね。牙と爪が主体……なら、狙う場所は決まってる」


 再び突進してくるが、わたしの視線は暗牙狼の後ろ脚へ固定された。


「……ここ!」


 わたしの刃が閃いた。

 低い姿勢のまま脚を斬り払い、その反動を利用して背中へ回り込む。

 妖魔が呻き声を上げ、少しだけ動きが鈍った。


 何度も、何度も。同じ動作を繰り返し、切り傷の数だけ妖魔側の体力ゲージが減っていった。腕が痺れ、暗牙狼の抵抗によろけそうになっても、わたしの瞳は目の前の倒すべき相手から逸れなかった。




 ……わたしは小さい頃から争いごとが苦手だった。


 弟と兄妹喧嘩になりそうな時は、いつも火種を消す側に回った。弟が欲しがったものは譲り、体格差がまだ小さかった頃の手合いでも、勝てそうな場面では周りに気付かれない程度に手を緩めてきた。


 争いを避けるうちに、わたしは「聞き分けのいい姉」になった。

 

 それが、退魔師としては弱さだと気付いたのは、いつだったんだろう。


 弟の背がわたしを抜かす頃には、手加減をしなくても負けるようになってしまった。それが悔しくもあり、ほっとした自分もいた。


 こんな身体を張ったテストなんて、以前のわたしだったら降参するか、すぐにやられていたかもしれない。


 でも、天音の努力する姿がわたしを変えた。逃げずに立ち向かっていく背中を見て、それに追いつきたいと思ってしまった。


「……っ、わたしだってやれば出来るんだから!」


 体力が限界に近づく中、わたしは最後の一撃に全身の力を込めて暗牙狼の背中へとナイフを突き刺した。


 悲痛な叫びと共に、暗牙狼は空間の向こうで消滅していった。


「……はは……やったわ……」


 千鳥足になりながらも力を振り絞り、扉を開けた。視界の先には見慣れたクラスメイト達。そして、二人の方向に顔を向けると、扉の前に座り込む天音が目に入った。


 言葉が喉の奥でつかえた。なぜそんな虚な顔をしているのかは、誰が見ても明白だった。


「……天音」


 そのとき、先生の声が耳に入った。


「早川凪、篠宮結菜、討伐成功だ。二人ともよくやった」


「まじで!?」

「あんなの一人で倒したのかよ!」


 クラスメイトの拍手と動揺した声が大広間を満たす中、わたしは天音に声を掛けられずに、ただ呆然と立ち尽くした。大きな達成感と、わずかに取り残してしまったような罪悪感が、なんとも言えない感情を巻き起こしていた。 




 ♢♢♢


 試験終了後、みんなが疲労の色を浮かべながら自分の席に座っていた。ため息の混じった空気が充満する中、しばらくして玲司先生が試験結果の用紙を抱えて、教室に入ってきた。


「みんなの総合結果を配るわよ〜ん!」


 わたしは配られた用紙を受け取った。

 実技試験……100点中70点、か。体力テストがネックだったけど、実技でなんとか立て直せたみたい。


 評価を静かに分析していたとき、ふと顔を上げた。斜め前の席に座っていた天音の表情に、覇気がないことに気付く。扉の前に座り込んでいた姿が頭をよぎった。


 決して見ようとしたわけじゃないけど、天音が手にしていた用紙が目に入った。


 29点……明らかに低い。

 実技試験で何があったのかは気になるけど、今聞くのは違う気がした。


「今回の結果は合否を決めるものじゃないわ。これを機に、自分に足りないところを知りなさい。次の昇級試験に向けてまた鍛え直しましょうね」


 玲司先生は、生徒たちの反応を見渡して微笑んだ。


「さあ、今日はこれでおしまいよ! ゆっくり休みなさい」


 空気が一気に緩み、椅子が引かれる音と「はー疲れた!」という声がいくつも重なった。


「俺一人で戦った時、半分までしかダメージ与えられなくてさあ」


「あーわかる。逃げながらちょこちょこナイフ投げれば一応攻撃できるみたいな? まあ、すぐやられたから40点だったけどな」


 気が緩んだ男子たちのテスト後のたわいもない会話。


 でもそれは、天音にとって聞きたくない話だったのだろう。いつもなら、わたしのところに可愛く駆け寄ってくるのに、今日は鞄を持って一人で教室を出て行ってしまった。



 わたしは小さくため息を吐き、廊下に出た。掲示板の前にはすでに人だかりができていた。模擬テストの総合順位が貼り出され、みんなが自分や他人の実力を確かめようと集まってきているのだ。


 その中で、一年生のトップは決まっていた。


 ――模擬テスト順位《1年生》――


 1位:霧島蓮【星3】 200/200

 2位:深山悠真【星3】 197/200

 3位:九条隼斗【星3】 189/200

 …………

 …………


 霧島蓮。

 彼はこの学校に君臨する「王」みたいな存在だ。

 みんなの目標で、みんなの憧れ。


 ”最年少の退魔師”――そんな肩書きを持つ彼に逆らえる者はいない。


「蓮様が1位よ!!」「さすがだわ!!」

 きゃーきゃーと騒ぐうるさい女子軍団にぶつかりながら進むと、教室にいなかった凪を見つけた。


「見つけたわよ! 凪……!」


「おー結菜ちゃん、そないな怖い顔してどしたんや? 鬼みた……」


 その言葉が言い終わる前に、わたしは凪にビンタを食らわせた。

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