おまけエピソード 訓練の騒がしいひととき
午後の訓練を終えた後も、私たち三人は校庭に残って体を動かしていた。
「さっきんとこはな! こう、ばばーーん! ってやって、そっからぎゅいーーーん! したらええねん!」
凪は拳を大きく振り上げ、全身を使って動きを再現する。
……説明、ほぼ擬音だけど。
「そんな無茶苦茶な説明でわかるわけないでしょ。っていうか何語よ、それ」
案の定、結菜がツッコミを入れていたが、私は真剣な顔で凪の動きを真似た。
「わかった。ばばーーんで、ぎゅいーーーんだね」
そうして、感覚だけを頼りに体を動かした。
「いや、天音……ほんとにわかってる?」
「おっ! そうや! ええ感じに形になってきとるで!」
どうやら凪のイメージと合ってるみたい。
「はぁ、なんなのよもう……意味わかんない」
結菜は完全に訳がわからずお手上げ状態だが、どこか楽しそうに私たちを見守ってくれている。
静まり返った校庭でその動きを何度も繰り返す。ぎこちない。でも、次第に鋭さが増している気がする。
振り抜いた拳が風を切って、凪の頬をかすめた。
……あ、今のはちょっと良かったかも。
「おおっ!? それやそれ!」
「え、ほんと! 私……できてた!?」
凪は腕を組んで満足そうに頷いた。
「できとるで!! ふっふっふ、オレの教え方が天才的やからやな!」
「よ、よーし、次は……!」
気合が入った私はさらに一歩、凪のテリトリー内へ踏み込んだ。
――瞬間。凪の瞳が、すっと鋭さを帯びる。
「ほな……次は本気でいくで」
さっきまでの軽さが消え、空気が一気に張り詰めた。
凪の拳と蹴りが連続で、交互に繰り出される。
「え、ちょっ――!」
速すぎる。反応が、追いつかない。
両腕で蹴りを受け止めたが、体勢を崩し、そのまま仰向けに地面へ倒れ込んだ。
その寸前――凪の拳が、目の前で止まった。
薄く笑みを浮かべ、息ひとつ立てずに私を見下ろした。
「ほな、これくらいで勘弁しといたるわ」
「っ……勝てないし……悔しすぎるんだけど……」
「はっはっはーー! オレに勝とうなんて百億万年早いっちゅーねん!!」
凪は大げさに胸を張り、高笑いしている。
私は息を切らしながら立ち上がった。そして、その様子を面白くなさそうに見ていた結菜が目に入った。
「結菜一緒にやろ! 二人で凪くんに勝とうよ!」
「おいおい、それはオレがしんどいやつやん!」
凪が苦笑すると、結菜はイタズラをする前の子供みたいな顔で私の隣に並び、軽く構えを取った。
「いいじゃない凪、覚悟しなさいよ」
「……しゃーないなぁ。まとめてかかってきいや」
凪は小さく息を吐いたあと、楽しそうに口角を上げた。
「オレは、絶対負けへんで!」




