落ち着いてから
天界では全ての神が1人の人族の魂を迎えていた。
神々には珍しく、その魂に敬意を表していた。
自分達が埋められなかった愛情を我らが創造神に惜しみなく与えてくれたのだ。
そして、死してなお創造神の叫びに応えて舞い降りた、セーレの母親・フィーネだった。
母神が代表して声を掛ける。
「あなたは尊敬に値する人だ。神になり創造神を支えてほしいが、私にその権限はない。善なる魂よ、新たな目覚めの為に転生の輪に帰るがいい」
フィーネは素直に転生の渦の中に消えていった。
もう、人々と神々の記憶の中にしか存在しない。
神々は黙祷を捧げるように静かに祈った。
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お姉ちゃんとミーアと教会を出てから、近くの公園に落ち着いてベンチに座った。
お姉ちゃんは歩いている間もずっとセーレに温かい手を触れたままついていてくれた。
ベンチに座った今は、ぼうっとするセーレを抱きしめて頭をゆっくりといたわるように撫でてくれている。
セーレはとりあえずミーアの顔を見て鼻が詰まらないようにクリーンをミーアの顔と鼻の穴に掛けた。小さい子供は大人の身体と違って全て小さい。うつ伏せで寝ただけで死亡する事故は普通にある事だ。小さい器官を詰まらせれば命に関わる。
セーレはお姉ちゃんに声をかけて聞いてみた。
「お姉ちゃん、何が起きたか説明してくれる?」
セーレはお姉ちゃんがどこまで把握しているか確かめたかった。
お姉ちゃんは慎重に話し始める。
「セーレちゃんが職業授与の儀式を行っている時に神像全てが光出したの。それから、その光が全てセーレちゃんのいた所に集まって消えたわ。それで神官様達が騒ぎ出して、私達は別室に行く為に歩いていたのよね。そうしたら神官様みんな倒れて、慌ててセーレちゃんを見たらフィーネさんがセーレちゃんとミーアちゃんを抱きしめていて……。あんな事ってあるのね。もう一度お母さんに会えて良かったねぇ。セーレちゃん。お母さんに愛されてるんだねぇ」
思い出してセーレは涙が出そうになったがグッと堪えた。
泣くのを我慢しているセーレを心配そうにお姉ちゃんが見て、ある事に気がついた。
「あら?セーレちゃんお顔が綺麗だわ?あんなに泣いちゃったのに腫れてないのね?目も純血してないし綺麗だわ」
セーレは心臓が飛び跳ねた。
動揺しているのを悟られないように話し出す。
「そういう職業を頂いたからじゃないかな?」
「あら?身体強化系?」
「んー?万能型?かな?」
「そう、便利ねぇ。セーレちゃんお顔が綺麗よ。今日の晴れ姿を一緒に過ごさせてくれてありがとうね」
セーレこそお礼を言いたかった。
姉妹で職業授与の儀式に挑もうとしていたのに、追いかけて来てくれてずっと一緒にいてくれたのだ。号泣している時も。感謝の気持ちでいっぱいだ。
「お姉ちゃん。私の方がありがとうだよ。お母ちゃんの葬儀があったのに、職業授与の儀式まで一緒にいてくれて心強かったよ。本当にありがとう」
昨日、母を亡くしたばっかりで、死体を見て衝撃を受けて心に傷を負った私にお姉ちゃん家族が付き添ってくれて、腐敗が酷くなる前に次の日に火葬だったにも関わらずに家族全員で参加してくれて、お姉ちゃん家族にはお世話になりっぱなしだ。どこかで恩返ししないとお母ちゃんに怒られるよ。
怒りにでも来てくれたらいいのになぁ。今頃、転生しちゃったかなぁ?
「あー!セーレちゃん可愛いよう!2人でうちの子になっちゃいなよ!お母さんもお父さんも賛成するよ、きっと!寝る時だけ今までのお家に帰ってさぁ」
「そ、それは悪いよ!今日の職業で自立する目処がたったから明日、いや、明後日から働くよ!元気もりもりなんだから!」
強がりだけど心は大人なので、手っ取り早く儲ける方法はあるのだ。
で、でも、料理だけは苦手なんだよなぁ。まぁ、ミーアは味が薄い水気のある食事なら食べれるからなんとかなるかも。
そういや食欲なかったから昼食食べてないなぁ。ミーアも食べてないだろうし悪い事しちゃったな。あんなに泣いて脱水症状にならなければいいんだけど。起きたら水分を補給させないと。
「お姉ちゃん、ありがとうね。今日はもう帰ろう?」
「セーレちゃんが落ち着いたならいいよ。帰ろうか」
お姉ちゃんがミーアの抱っこを変わってくれて、2人で家へ向かって歩き出す。
今日はいろんな事があったな。忘れられない1日になりそうだ。
太陽が傾いてきて、私とお姉ちゃん2人の影を作る。
1人じゃないって素敵。と思いながら、誰かといる幸運にむふっと顔が緩む。
お母ちゃん、私は1人じゃないから頑張れるよ。それに只の子供じゃないし、ミーアと2人で生きて行くよ。
天界へと昇ったお母ちゃんに語りかける。
神だから転生システムは知っている。多分お母ちゃんは消えた事も。
それでも、心の中でお父ちゃんもお母ちゃんも生きている。愛情をたくさんもらい育ててもらった。それを思い出すだけで心がポカポカと温かくなる。
家に帰った後におばちゃんが来て「私の家で夕食を食べなさい」と誘ってくれたので、お言葉に甘えて夕食をご馳走になった。ミーアの為の幼児食も作ってくれていて、感動と感謝の気持ちで胸がいっぱいだった。
食事を終えて、ミーアと家に帰る時は隣の家なのに付き添ってくれた。
暗い家に帰るのにやっぱり心配してくれる嬉しさで胸が熱くなって、家に入った。
今日は疲れたので、ミーアと2人で湯浴みだけして、寝巻きに着替えて、ミーアとお母ちゃんの部屋で子供2人で寝た。
お父ちゃんとお母ちゃんのベッドは大きいけど子供には高いので、ミーアの転落防止柵を創造の力で作り設置してミーアと寄り添った。
1人じゃないって素敵。
ミーアはどんな女の子に育つかな?と考えてベッドで横になっていたら意識が遠くなっていつのまにか寝ていた。
ベッドからはお母ちゃんとミーアの匂いがした。
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次の日に音がして目が覚めると、誰かが玄関扉を叩いていた。
部屋の中はもうすっかりと明るくなって太陽が高い位置にあるようだ。
ミーアはまだ可愛く寝ているから静かにベッドから降りて玄関に向かう。
「誰ですか?」
「セーレちゃんかい?朝食を食べに来ないかい?」
あ、隣のおばちゃんだ。
玄関の鍵を開けて「おはようございます」と挨拶する。
「朝食は作ってあるから、着替えたらおいでね?」
きゅっと抱きしめてくれる。
温かさが身に染みる。抱きしめられるっていいなぁ。
「はい、ありがとうございます」
「もう!昨日からいきなりしっかりしちゃって、今までどおりにゆっくりと大人になりな!」
「ありがとう、おばちゃん」
にへっと顔が緩む。
おばちゃんとは私が生まれた時からの付き合いだから長い。肝っ玉母ちゃんって感じでいつも元気いっぱいだ。
扉を閉めてから、ミーアを起こしに寝室に向かって、ミーアを起こす前に布オムツを変えようとしたが、もしかして浄化でいいんじゃないかと汚物と汚れたオムツを浄化するとキラキラとエフェクトがかかって綺麗になった。
今までミーアのオムツ洗いを手伝っていたので新品のようにきれいになったオムツに感動を覚えてしまった。
ミーアを揺すり起こしてベッドから降ろして着替えさせてから、顔を濡れタオルで綺麗にしてから口をゆすがせる。
ミーアと手を繋いで、ポテポテ歩きのミーアに付き合ってゆっくりと隣家を目指す。
扉を叩いてから「おばちゃーん!来たよー」と言えば、笑顔で迎えてくれて、仕事に行くおじちゃんとすれ違いに挨拶をして椅子に座り配膳されるのを待つ。
おばちゃんの朝食のいい匂いにお腹がぐうっと鳴いて「今日の糧を神に感謝いたします」と食前の挨拶をして食事をいただく。
ミーアはおばちゃんが面倒を見てくれるので自分の食事に集中出来るので、お母ちゃんとは違うしっかりめのちょっと濃い味付けも美味しいと思いながら食べる。
あー、お母ちゃんの食事も、もう食べられないんだな。
しゅんと落ち込んだ後にハッと気がついて、創造の能力でお母ちゃんの料理を出せば食べられる事に気がついて気分が上向いた。
ミーアを見ると、おばちゃんにスプーンであーんをされながら食事をしていた。もうそろそろ1人で食事をさせなければいけないなと新米ママさんぽいことを考えた。
食事も終わって、食器を片付けてくれたおばちゃんを呼んで食費用に金貨1枚を差し出すと「いらないよ。おばちゃんとあんた達の中だろう?」と断られたが「家族じゃない私たちの食事をタダで作ってもらう事の方が辛い」と言うと、少し悲しそうな顔をしながらも受け取ってくれて、「朝昼夕とあんた達の食事を作るぐらい簡単だから食べにおいでね?」と言われて、ありがたく甘えることにした。
「本当はあんた達を大人がいない家に帰すのも辛いのに」とポツリと言われて、良い隣人に恵まれたと嬉しくなった。
おばちゃんの中では私とミーアが自分の子供未満、親戚の子供以上の距離感なんだろう。
「ごちそうさま」をして、ミーアと手を繋いで家に帰ると出かける準備をして、ミーアをおんぶする。ちゃんと太い紐で固定するよ。落としたら怪我しちゃうからね。