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400万エン〜600万エンの革鞄を買おう 2 最高級鞄

 店員さんが一つの箱を手にして部屋に戻って来たら、接客担当者が部屋から出て行き、飲み物を運んでくれた女性が空になったコップを持って部屋から出て行った。


 セーレはミーアが怪我しないように、ミーアをおんぶ紐でおんぶしてからソファに座った。


「お待たせ致しました。こちらが当店の肩掛け鞄の最高級のお品でございます」


 セーレの座っている正面に座った店員さんが包装をといて箱を開けた。


 何の変哲もない鞄に見えたが、見れば見るほど目を惹きつける鞄である。艶消しはしてある鞄だ。


「ダンジョン産のワイバーンの皮を使ったお品で、お値段はアダマンタイト貨2枚になります」


 おお!!2億エン!!

 目玉が飛び出るくらい高い!


「お触りになりますか?」


「いえ、いいです」


 触って汚してしまいそうで、断った。

 高級品には縁が無いのだ。


 いや、待てよ?

 購入予定の肩掛け鞄が26個。

 計算しても、推定1億4000万エンほどだ。


 買えるんじゃない?


「あの、購入予定の鞄は総額いくらに、なりそうですか?」


「今、計算しておりますが、そうですね……1億5000万エンはしないと思われます」


 買える!買えてしまう!


 セーレは3つの生を生きて来た中で最も重い決断をしようとしていた。


 心の中で天秤が、傾く。

 買う、方へと。


「買います」


「え?」


 店員は思わず、聞き返してしまった。

 失態である。


 セーレは再度言った。


「その、ワイバーンの、肩掛け鞄を買います!」


 セーレにしては重い声で告げた。

 まるで、声を振り絞るかのように。


「ありがとうございます!包装は出来ておりますので、領収書とその他書類を作って参ります!お待ちくださいませ!」


 店員さんが張り切った声でセーレに伝えた後に鞄を手に持って、扉から出て行った。


 セーレ、待ちぼうけである。



 しばらくすると、ノックの音が聞こえて、先程の女性が飲み物を持って来てくれた。


「お熱いので、お気をつけてお飲みください」


 「お」が多い言葉で告げた後に、部屋の隅に立ったまま控えてくれた。


 セーレはさっきの果実水をミーアに飲ませていたので、ちょうど飲み物が欲しかったところだ。


 カップを手に持って口に近づけると、生きて来た中で1番香しい紅茶の香りが飲む前から匂ってきて、期待に胸が膨らんだ。


『これ!絶対、美味しいやつ!』


 熱い、と言われたので、ちょっびっと味見をする気持ちで、口に含んだ。


 ふおおおおおーーーーーーー!!!


 ロイヤル!!ロイヤル的なお味がします!!絶対に、お高い!


 セーレは、震えそうになる手を気合いで押し込めて机の上に置いた。

 確かに、まだ、熱かったのだ。猫舌では無いが。

 熱いうちに飲む方が1番美味しい状態で、お紅茶をいただけると、確信した。


 しばし、セーレは、誰にも邪魔されない至福の時間を味わった。




 実は、セーレが飲んだ『お紅茶』。

 本当にロイヤルなお値段がする、国内最高級の茶葉を使用されて入れられた『1杯5万エン』はする『お紅茶』である。

 その名に『ゴールデン』をいただく、時間停止空間で保存され『リザルト革店』の最!上得意客に出されるのを待つ、茶葉である。


 セーレ(創造神)は、手っ取り早く美味しいのを食べたいので、食料ダンジョンを創ったりしているが、人の欲望は果てしなく、創造神すら想像しない研究が多くの人により行われてきた。

 その中で誕生したロイヤルな『お紅茶』なのだ。


 所詮は地球で庶民だった創造神には作れない味わいを人類は努力の果てに作り出した!


 この世界は基本的には『地球』をベースに創造されているので、まだ見ぬ美味しい物が沢山有るだろう。


 深海、とか。


 ドラゴン、とか、ね?



ーーーーーーーーーー



 セーレがお腹をぽかぽかさせて、うっとりとしていると、扉がノックされ、沢山の箱が運び込まれてきた。


 おおう!?驚いたぜい!


 店員さんが笑顔で部屋に入って来てソファに座った。

 その手には、包装された『ワイバーンの革の肩掛け鞄』が入っている。


 スッと、1枚のリストがセーレにスマートに差し出された。

 促せるままに紙を手に取って見てみると、ズラリと書かれた購入品リストだった。ご丁寧に値段も書いてある。わかりやすい。


「ご確認いただけましたでしょうか?お一つずつ、確認させていただきます。

 まずは『ワイバーンの革の肩掛け鞄』アダマンタイト貨2枚のお品にございます。お間違えありませんか?」


 どう固定しているのか、店員が斜めに掲げても落ちてこない『ワイバーンの革の肩掛け鞄』が箱に入れられている。

 セーレの鑑定でも本物だ。


「間違いありません」


「よろしゅうございます。こちら『製品鑑定書』でございます。お確かめくださいませ」


 セーレは製品鑑定書を手に取って『ワイバーンの革の肩掛け鞄』に鑑定書を触れさせた。


 ぽあっと、光ったので本物の製品鑑定書だ。店名も書かれている。


「確かに本物です」


「領収書はどうなさいますか?」


 セーレは魔道具店に提出する時に面倒くさいな、と思ったので「商品と一緒にしておいてください」とお願いした。


 店員はにっこりと笑った後に、包装をしてから領収書を袋の中に入れて机の上に置いた後、次の商品を待機して待っていた接客担当者に素早く、スマートに渡されて、同じ事を、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も、繰り返し確認された。



 セーレは思った。


 次からは、まとめて買い物は、やめようと。


 セーレは店員が丁寧に商品説明してくれているのに、地獄の入り口に来たような顔で対応した。



 ◇◇◇



「ーーこれが全ての『売買証明書』になります。お確かめくださいませ」


 セーレは27枚の売買証明書を手にして、リストと照合する為に1枚1枚と確認していった。これが最後の仕事である。


 そう、セーレは「仕事」をしている気になっていた。

 そうでもしないと、精神が持たなかったのだ。仕事と割り切れば我慢も出来る。


「確かに全部ありました。ありがとうございます」


「よろしゅうございます。それではお会計をさせていただきます。肩掛け鞄を27点、お買い上げになられましたので、3億3520万エンとなります。こちらのカルトンに硬貨を入れてくださいませ」


 なんだか高級そうなカルトンにアダマンタイト貨3枚とミスリル貨4枚入れた。

 もちろん、お母ちゃんが作ってくれた布鞄から取り出したように見せた。


 この後に鞄を収納庫に仕舞わないといけないのに。

 セーレ、無駄な行動である。


 店員はカルトンを引き寄せて、目の前で金額を確認した後に「確かに3億4000万エンいただきました」と言って「お釣りを持って参ります」と部屋から出て行った。


 1人の店員さんを残して、接客を担当してくれた人達がいなくなると、なんだか気まずい時間が流れた。

 残った、男の店員さんのいる位置が悪いんだよ。視界に入ってくるのに目が合わないから気まずい。お互いに目を逸らしている感じになってしまっている。


 背中からミーアの幼児語が聞こえてきた。

 ごめんね、暇だったよね。もう少しでお家に帰れるからね。

 あ、さっきたくさん水分摂らせたから浄化しておこう。


 気まずい空間を破るように軽快なノックの音がして、最初から対応してくれている女性店員さんがカルトンを手に持って入ってきた。


 ふあーーー!帰れるーーー!


「お待たせ致しました。こちらお釣りの480万エンとなります。お確かめくださいませ」


 プラチナ貨4枚と、金貨、80枚かぁ。数えるかな。



 ー少しの間お待ち下さいー



「はい、間違いありません。全部ありました」


 お釣りを収納庫に入れる。

 もう、布鞄に入れるフリをする気力が無い。


「お買い上げになりました商品は収納庫に入れて持ち帰られますか?馬車のご用意を致しましょうか?」


「……収納庫に入れます」


 セーレは手もかざさずに、全ての商品を収納庫にしまった。


 密かに店員2人は驚いた!この娘は高位エルフに違いない!と。


 女性店員が少しひきつった笑顔を浮かべた。

 またまた高級店らしからぬ失態である。


「ご希望のお買い物は全て終わりました。他の商品もご覧になりますか?」


 セーレはもう帰りたくて、仕方がなかった。


「帰ります。ありがとうございました」


 会釈して、女性店員が開けてくれた出口から出て、階段を降りて行った。


 実は、ミーアの涎が凄い事になっていたが、気がついたのは家に帰ってからだった。



ーーーーーーーーーー



「凄い、少女でしたね」


 男性店員が今し方、帰って行ったお嬢様を思い出して言った。


 ベテラン女性店員は考えて口に出す。


「きっと、初回のご利用では無いわね。顧客リストはあるかしら?」


 あれだけインパクトのある少女だ。きっとリストがあるだろうと、顧客リストを管理している部屋へ、追加情報を書き込もうと歩いていった。


 男性店員は部屋の片付けの為にスライムを取りに行っている。ついでに机も拭くつもりだ。


 ベテラン女性店員は顧客リストを探すのに手間取っていた。エルフ少女の情報が無いのだ。


 幼児をおんぶしたお嬢様の情報を見つけるまで、まだまだ時間がかかりそうだ。

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