400万エン〜600万エンの革鞄を買おう 1
創造神も父神も、その他の神々も知らないが、母神は創造神の無事を考えながら【世界の改変】を行った。
そこには『副産物』と言える現象が発生した。
創造神の周りだけ、犯罪者が炙り出される確率が上がったのだ。
これは『重犯罪者』一歩手前の犯罪者が、職業【奴隷】になってしまう現象だ。
知っている母神は夢の中。
はてさて、父神と友神が見守る中で何が起こるやら。
ーーーーーーーーーー
『リザルト革店』に着いた。
迷わず2階に上がろうとすると、従業員に止められた。
「いらっしゃいませ、お嬢様。2階にご用事がお有りでしょうか?」
従業員はにっこりと笑っているが、簡単には通さんぞ、という気持ちが透けて見える。
「はい。100万エン以上の肩掛け鞄が欲しいのです」
従業員は更ににっこりと笑った。
「そうでございましたか。わたくしが案内を致しますのでご安心ください。それでは、参りましょう」
私に一礼してから、階段を登りだした。
その後をついて行く。
高い商品が置いてあるので、勝手に見られたり、傷つけられないように案内係がつくのだろう。顧客満足度の向上も有るかな?
前回見た時より近場に案内された。
「こちらに肩掛け鞄、100万エンから200万エンの商品になります」
そういえば、魔道具屋さんのシュンフェさんは何て言ってたっけ?100万エン〜1億エンの鞄の収納鞄を作って欲しいって言ってたよね?
ちょっと、思い出してみる。
……。
あっ!先に、400万エン〜600万エンの鞄が欲しいって言っていた!忘れてた!うっかり、うっかり。
持ち金は、アダマンタイト貨2枚だよね。
いや、収納庫にアダマンタイト貨4枚が入っている。父神が詐欺師から取り返してくれたんだ!
「すみません。100万エン以上と言ったのですけど、400万エンから600万エンの肩掛け鞄を見せてくれますか?出来れば複数個欲しいのですけど。あ、あと、商売に使うので、領収書を付けてくれますか?」
店員さんは一瞬、驚いた顔をしたが、すぐに、にっこり笑顔になって了承してくれた。
「承りました。領収書も勿論お付けいたします。在庫を持って参りますので、別室にご案内いたします。少しお時間がかかります事、ご了承ください」
店員さんが案内してくれたのは、以前に案内された部屋と同じ部屋だった。
ソファにミーアを潰さないように浅めに座ると、さっきの店員さんとは別の女性が飲み物を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
「はい、ごゆっくりどうぞ。もうしばらくお待ち下さいませ」
ミーアのお尻を触ってから浄化を掛ける。
それからミーアをおんぶから下ろしてみるけれど、ミーアは寝ていた。
いつも、このぐらいの時間にミーアは寝る。規則正しい子だ。
ソファは広いので、ミーアを仰向けで横にならせてから、飲み物を飲むと、果実水だった。ありがたい。家庭で飲むよりも美味しく感じる。きっと、お高いのだろう。
ちびちびと味わって飲む。
10分くらい待っていたら、扉がノックされたので返事をすると、扉が開かれて、鞄の沢山入った大きいケースを持った人が3人入って来た。
あまりのインパクトに驚いていると、大きな机の上に並べられたので、果実水を飲み干してから隅によけた。
飲みこぼしはしていないけれど、店員さんがコップの置いてあった場所をサッと拭いてから、空のコップを持って部屋から出て行った。
早業だ。
私に接客してくれていた店員さんと、もう1人が残って話をしてくれる。
「こちら、400万エンから600万エンは肩掛け鞄を揃えて参りました。こちらの手袋を着用してから、ごゆっくりと商品を吟味してくださいませ」
手袋をサッと渡されたので、手につけて、近い鞄から見て行く。
何個か見ていくと、紐の部分は長さ調節が出来るようになっており、デザインと色と大きさが違った。
私が使う物を買うのではないので、目に鑑定を発動させながら商品の良し悪しを見ていった。
買う物は右に置き、買わない物は左に置いた。
「すみません、こちらの物は買わないので、新しい鞄を見せてくれますか?」
残っていた、もう1人がサササッと片付けて、まだ見ていない鞄を丁寧に机の上に置いてくれた。
私はまた鑑定して見ていく。
凄い。だろうとは思っていたけど、全て魔物の革だ。それも少し強い魔物の革ばかりだ。貴重な素材なんだろな。
革が均一の物が多いからダンジョン産かもしれない。
セーレが鞄を吟味している時に、補助の接客担当は買わないと言われた商品の整理をして、その鞄の入ったケースを持って部屋から出て行った。
ソファのセーレの正面に座った店員は、さりげなくセーレを観察していた。
『商売に使う鞄だと言っていた。領収書も欲しいと。年齢的に準成人になったばかりに見える。人族では無い?可能性はある。仕入れに来た?違う街の者か?いや、小さな幼児をおんぶしていたから遠方では無いはず。常連の顧客になるか?誰かのお使いか?』
セーレは凄く探られていた。
補助の接客担当が戻って来た時に、またセーレが言った。
「こちらの鞄は買いません。まだ見ていない物を見せてくれますか?」
戻って来たばかりの接客担当は、疲れを見せずに、優雅にすら見える手つきで素早く鞄を取り替えた。
そしてまた、買わないと言われた鞄を整理してケースを持って部屋から出て行った。
忙しいことである。
真剣に鞄を見ていたセーレは「あ〜」と聞こえた声に気がついて振り向くと、ミーアが寝返りを打とうとしていたので、慌てて鞄を机の上に置いて、ミーアを捕まえた。
危なかった。ソファからミーアが落ちる所だった。
ミーアは目が覚めて起きていたので、好きに動かないようにおんぶ紐でおんぶすることにした。
正面で店員は静かにその様子を見ていた。
そして、ミーアをおんぶした後には、また鞄を吟味しだした。
◇◇◇
セーレは全ての鞄を見終わってから、買う予定の鞄の数を数えた。結構沢山有る。
肩掛け鞄が26個。
予算内だ。今日の買い物はこれで終わりにしよう。
「お会計をお願いします」
正面に座っている店員さんがにっこりと答えてくれた。
「承りました。ご購入される商品が多いので、包装に時間がかかります。店内を見て時間を潰されますか?」
セーレは少し悩んだが、提案を受け入れた。
次回の買い物の下見になるかと思ったのだ。
「はい、店内を見たいです」
「1階と2階、どちらをご覧になりますか?」
「2階でお願いします。あ、出来れば1番高い肩掛け鞄の値段と実物を見せてくれますか?」
「承りました。少しお待ちくださいませ。1番高い商品は展示しておりませんので、こちらにお持ちいたします。失礼します」
店員さんが扉から出て行き、接客担当の人が鞄を整理している間に、何処から見ていたのか、指示されたのか、飲み物を女性が持って来てくれた。
「ありがとうございます」
「はい、ごゆっくりどうぞ」
セーレはミーアを下ろしてから、持ってきてくれたカップに入った飲み物を一口飲んで果実水である事を確認すると、ミーアの体勢を整えて、ゆっくりと果実水を飲ませていった。
長時間、水分を摂らせていなかったので、脱水が心配だったのだ。
案の定、ミーアはごくごくと果実水を一杯飲んでしまった。
セーレはミーアのお腹の膨れ具合を確かめて、すぐにおんぶしない方がいいと判断して、扉とは反対側の接客担当が作業していない側にミーアを立たせて好きにさせた。
初めての場所に興味津々なのか、よちよちと歩き始めた。お尻がオムツで膨らんでいて、とても可愛い幼児体型である。余計な調度品は飾られていないので、怪我の心配も無く安心だ。
ミーアはカーテンを掴んで、外が気になるのか、足を伸び伸びとさせているのて、セーレがミーアを抱っこして窓の外を見せてやると、奇声を上げて喜んだ。高い場所が好きなのかな?
店員さんが戻って来るまで、セーレとミーアは好きにしていた。