薬屋さんにおばちゃんと行こう 2
よし!私の出番だ!
「こちらのお店がよろしければ。卸す薬の製作者は隠蔽させて貰いますが、ポーションと普通の薬が卸せます」
「おお、普通の薬もかい!いいねぇ、万年不足気味なんだよ。喜んで取り引きさせてもらうよ!
だけど、後払いのオークションに出す薬はSランクとAランクだけだよ。Bランクからはうちの旦那が作れるのに紛れ込ませるからね?店頭販売はCランク以下のみだ。要は、Bランク以下は即金でポーションも普通の薬も買い取るからね。ここに文句は言わせないよ。薬師ギルドよりも高く買い取りするのは約束するからね。
お師匠様のサインは貰えるかい?」
私は否定した。
本当はお師匠様なんていないからね。
「もし、契約するなら私のサインでいいって。他にもツテを探しているからって」
そこで、ちょっとハルおばさんが焦った顔をしたのが面白かった。作った薬は全部自分の店に卸してくれると思っていたのだろう。
「な、なるべく高く買い取るからっ、贔屓にしてくれよ?」
「お師匠様にそう言っておきます」
「頼むよ」
多分、大口の取り引きだと確信しているのだろう。Sランクポーションを出したから。
それも作りたてで喜んでいたからね。
あ、薬師ギルドに私のレシピを売った事を教えてもいいかもしれない。
「お師匠様のレシピを薬師ギルドに売ったので、薬師ギルドに入っているのなら聞いた方がいいかもしれません」
ハルおばさんが、凄い速さで顔を上げた。怖いよ。
「本当かい!?旦那に言っておくよ!情報ありがとうね」
「偉いねぇ、秘匿レシピは内緒にしとくもんだけどねぇ」とハルおばさんは呟いていた。
えー、薬師の絶対数が少ないのにそんな事をしたら、治る病気や怪我も治らないじゃないか。
よし!私は他と違うレシピを見つけたら薬師ギルドに情報を売ろう。
公開、して、くれるよね?
薬師ギルドに行った時に聞いてみよう。
ハルおばさんが契約書を書いて、ハルおばさんの名前でサインをしてくれる。仕入れや経理関係はハルおばさんの仕事なのかな?
書いた契約書を渡される。
と、おばちゃんがひょいと取り上げた。
あれ?っと思って見てみると、契約の内容を確認してくれるようだ。
おばちゃんが呟いた。
「ポーションと薬を優先的に卸す、ねぇ?」
ハルおばさんが慌てたように言い訳する。
「いいだろうっ!他の所に卸しちゃいけないって書いてないからっ」
それならいいか。他の必要としている人に私個人で売ってもいいって事だよね。
「おばちゃん、いいんじゃないかな?おばちゃんの信用できる相手なんでしょう?」
「まぁ、セーレちゃんがいいなら、それでいいんだけどねぇ」
おばちゃんは他には引っかかるところが無かったようで契約書を私に渡してきた。
私も読み込む。
……うん、おばちゃんが引っかかったところ以外は大丈夫そうだ。2枚目も同じ内容が書いてあるか確認する。
私の分とハルおばさんの分の契約書。
大丈夫そうなので、私の名前をサインすると、淡く契約書が光った。
複数人で契約する時はどうするのだろうか?これは人が作り出した技術なので、私が入り込む領分じゃない。
魔法契約書で悪事なんて出来ないよね?母神、大丈夫だよね?
『おまかせください。詳細を調べます』
いたんかーい!母神!
って言うか心の中を読むな!
ハルおばさんが出来上がった契約書を確認して1枚を私に渡してくれる。
「これで契約終了だよ。薬を持って来る時はダリルと一緒に来るのかい?」
「おばちゃんも一緒に来るよ。ね?」
おばちゃんが心配して言ってくれるけど、これは私の問題だし、おばちゃんは卸し先を紹介してくれただけで充分だ。
「大丈夫だよ、おばちゃん。1人で来れるよ」
いや、ミーアも一緒だな。
「そうかい?大通りは人が多いからね?気をつけなよ?」
おばちゃんには私が小さい子供に見えているのかもしれない。
いや、身長約120cmは小さいかな。
「それと、このSランクキュアポーションは預かりでいいね?出来れば来月のオークションに出すよ」
「はい、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げたら、気まずそうな顔をしたハルおばさんは棚から小さな紙を取り出してカリカリとペンで何か書き始めた。
そして書いたそれを「ん、大事に持っておきな」と渡されて見ると『Sランクキュアポーション預かり証明書』だった。ちゃんと『ウィアット薬店』と住所が書いてあった。
「それは私んとこの薬屋が『そんな薬預かってませんよ』と惚けたら、役場に提出すれば捜査してくれる。安いけど魔法紙だから魔力の質で書いた本人が分かるようになっている。これは商売の基本だよ。商品を預ける時は他の薬屋でも注意しな」
あ、架空のお師匠様が他に販売路を確保しようとしていると誤解したままだから注意してくれたんだ。親切だなぁ。
「ありがとうございます」
なんだか私、この店に来てから挨拶ぐらいしか話してないや。
「ちょいと、このポーションを金庫に入れてくるから、待っててくれよ」
ハルおばさんは素早く部屋を出て行った。
私はマグカップを手に取って果実水を飲むと、ミーアを覗きこんだ。
不安定な体勢でよく寝ている。まぁ、静かで良かったけども。
ハルおばさんが部屋に帰って来て、おやつを持って来てくれた。クッキーだ!
ぽりぽりと食べていると、おばちゃん達の大きな声でミーアが起きてしまったので、おばちゃんから預かって、ゆっくりと水分補給させるのだけど、何故かクッキーに執着しているので「食べれないよ。喉に詰まるよ」と、果実水で誤魔化した。薬屋が儲かるのは本当らしく、クッキーはバターが贅沢に使われていたから美味しかった。
今度はパン屋さんに行って、中はもちっと外はパリッとしたパンを食べたくなったよ。
ずっとおんぶされていたミーアを運動させるために床に下ろして、ミーアの幼児歩きを見守る。この部屋は窓が無いから自然光が入ってこないのが残念だ。
明日は草原にでも行こうかな。
頭の中の地図で、この店を検索すると、この領都で3番人気のお店だった。
小さいのに分からないものだ。
いや、大通りに店を構えているだけでも凄いかもしれない。
備考に『たまに領主が訪れる』とある。薬師としての腕や販売経験は当てにしても良さそうだ。
領主に頼られる薬屋って凄いよね?
夕方にはおばちゃんも世間話を切り上げて、家へと手を繋いで帰った。
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「なに?ウィアット薬店が緊急連絡だと?流行り病の兆候でも出たか?」
「恐らくは違うかと」
答えたのは側近の家宰である。
私はインジード領の領主、ウィリアム・インジードである。
私には領都内に、領主の目の代わりになる『アイ』と言う監視網を構築している。
『アイ』になるには地元民の評判や役場での評価、家族構成と本人の職業と性格を調査して、先祖代々受け継がれるか、『アイ』の組織に勧誘されるかのいずれかである。
『ウィアット薬店』は先祖代々受け継がれてきた薬師の家系だ。
我がインジード領主家のウィアット薬店は裏の主治医であり、表の主治医は『治癒師』である。
『治癒師』は主治医が他界すると、その時に領内で1番腕の良い治癒師か、王都で評判の良い治癒師を領都に特別待遇で迎えて、店舗を無料で与えて「治癒院」を開いている。
今の治癒師は、腕は良いが性格は信用できるか微妙といった所なので『アイ』の構成員になってはいない。歴史を振り返れば、治癒師が構成員だったとの記述もあるが、領主と側近と『アイ』の構成員代表者によって多角的に決められる。
「色は?」
「青と金です」
平安・安全などの『青』
悪い知らせや死の『黒』
自白・解明・潔白の『白』
傷・血に関する事は『赤』
病、魔物の溢れは『紫』
構成員代表に要連絡は『黄』
良い知らせや金に関わる事は『金』
今回は薬師店からの『青』と『金』の色の連絡専用紙が1枚ずつ。
これは、良い知らせか金がいる場合が多い事と、平安・安全の知らせを送って来たのなら『良い薬が手に入った』と解読出来る。
たまに間違うがな。
大体は、遠方で緊急で無い場合には行商人を装って詳細を確かめる。
緊急の場合、支給された連絡専用紙ではなく、渡された物が紫や黒の布や小物だった場合には副団長を現場に走らせて、詳細を構成員と接触して調べる。
団長と副団長と各隊長は領内での「現場指揮権」を持っているので、インジード領内であれば全ての兵士を動かせる地位だ。
今回は『良い薬が手に入った』。
訳あって、跡取り息子が目の病になり失明してしまった。
兄弟・姉妹は王都におり、唯一スペアとして領主教育した次男は軍に入った後、魔物討伐中に戦死している。
跡取り息子の子供がいるが、まだ小さく責任ある地位につけて学ばせる事が出来ない。いや、学び始めても理解ができるか難しい年齢だ。普通に教育するよりも急がせて勉強させているが……。
跡取り嫁が頑張って子を増やそうと努力しているが、未だ妊娠の兆候が無い。親戚筋から嫁を貰ったのが失敗だったか?いや長男が心底希望して娶った妻だ。邪険には出来ない。
「いつも通り、深夜だな。今回は私が行こう」
領都内には危険が無いので、気晴らしに出かける事が多い。今回は嬉しい知らせとの事だ。鬱々とした気分も少しは回復しよう。
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誤字が多くて自分に困ります。自業自得だけども。




