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薬屋さんにおばちゃんと行こう 1

 昼食をおばちゃんの家で食べた後に、おばちゃんがミーアをおんぶしてくれて薬屋さんに約束どおり行くことになった。


「いいかい、セーレちゃん。薬を自分で作っていると言ってはいけないよ。セーレちゃんくらいの子が高ランクポーションを作れると知られたら誘拐、監禁もあり得るからね。セーレちゃんにはお師匠様がいることにしようね。見習い薬師のセーレちゃんのお師匠様は贔屓にしていた商人さんが亡くなってしまったんだ。だから代わりの取り引き先を探している設定さ。どうだい?」


 おばちゃんは言葉を用意していたかのように、スラスラと言った。そうだね。私の身バレをすると多分大変な事になるので、その設定はいいかもしれない。


「わかったよ、おばちゃん。その設定でいこう」


 薬屋は儲かるからか、街道の通っている門の大通りに店を構えているようだ。


 私達の住宅街から随分と歩いたけれど、凄い賑わいだ。

 不安になって、つないでいるおばちゃんの手をキュッと握ったら、それよりも強い力で手を握られて、少し緊張が抜けた。


 今までは気にした事がなかったけど、領都だから旅の補給をしたい人や逆に店に売り込みにくる人がいるのだろう。

 この領都の特産は特に無い。ただただ安定して物も食料も平均的に流通している。領主様の手腕がいいのだろう。

 ……ダンジョンを創っちゃったら領主様、困るかな?


 私だけが利用するダンジョンを創っちゃったら、魔物の間引きもしないといけないから面倒くさいんだよね。それで、間引きしきれなくて魔物が溢れちゃうのも嫌だし。

 ふむ、難しい。


「セーレちゃん、着いたからね。お芝居するんだよ」


 手を繋いだおばちゃんを見上げて、しっかりと頷いた。


「はい、おばちゃん」


 『ウィアット薬店』か。

 思ったより店はこじんまりとしている。建物は大きいから自宅兼用なのかな?

 おばちゃんと扉を開けて中に入ると、お世辞にも品揃えが良いとは言えなかった。

 仕入れが上手くいってないのか、薬不足が店まで影響しているのか。


「おお、ダリルじゃないかい。元気にしてたんだろうね。ここ最近は薬を買いに来なかったから」


 カウンターの中に椅子があるようで、少し低い位置に店番のおばさんがいた。おばちゃんの名前を言ったから親しくしているようだ。


「やぁ、ハルも元気そうだね。まぁ、旦那さんがいたらハルは元気か。うちの子もねぇ、1番下が12歳になったから、なかなか病気をしなくなってねぇ。ハルがいいなら茶でも飲みに来るけど」


「おお、いつも暇だよ。お茶ぐらいご馳走するからおいでよ。

 下の子は12歳なんだろう?おんぶしている子はあんたの子じゃないんだね?どこの子だい?」


「ほら、一時、探索者の旦那が病気したってフィーネさんを紹介しただろう?あの夫婦の忘形見さ」


 おばさんは思い出す様な顔をして、あっ!とひらめいた顔をした後に難しい顔をした。


「忘形見、って、もしかして」


 おばちゃんは悲しそうな顔をした。


「そうさ、フィーネさんは旦那を亡くしてから、今度はフィーネさんが神様の所へ行っちゃったよ。可愛い子供を2人も残してね」


 今まで、私は漠然と見られていただけだけど、おばちゃんとかちりと目が合ったので挨拶する。


「フィーネの娘のセーレです。よろしくお願いします。妹はミーアです」


「ご丁寧にどうも。店主の妻でダリルの友達のハル・ウィアットだよ。そうか、残念だねぇ。じゃあ、おんぶしてるって事は面倒みてんのかい?」


「食事だけね。養子にしようとしたら断られちゃったよ。まだ、お父ちゃんとお母ちゃんが子供達についてんのかねぇ」


 ちょっとだけしんみりとした空気を変えるように、ハルおばさんが言った。


「薬じゃなかったら茶でも飲みに来たのかい?可愛い子もいるし歓迎だよ。店番は娘と変わるよ」


「そうだね。娘さんと変わっとくれるかい?出来れば防音の部屋があったろう?そこに案内してくれるといいんだがね」


「……人に聞かれたくない話かい。なんだか嫌だねぇ。まあ、任しとき。ちょっと待っててな」


 ハルおばさんは椅子から立ち上がって店の奥に行った。


 私は思った事をおばちゃんに言った。


「おばちゃん、薬、少ないね」


「朝にはポーションが沢山あるみたいだよ。探索者達が買っていくんだってさ。あとは、患者の病状に合わせて薬を作ったり、契約している薬師が卸しにくるそうだね。手に負えない場合は治癒師を紹介してくれるから、この店を覚えておくんだよ」


「うん」


 おばちゃん、詳しいじゃないか。ちょっとしたツテどころじゃないみたい。友達って言ってたし。


 あ、ハルおばさんが戻ってきた。

 娘さん?は30代ぐらいに見える。結婚してないのかな?


「お母さん、チヨコとミズキが専門学校から帰って来るまでだからね」


「はいはい、店番をよろしくね」


 血の繋がった母子なのだろう。遠慮がない。


 ハルおばさんがおばちゃんと私達をカウンターの中に入れてくれる。


 娘さんは私を見つけると笑顔で手を振ってくれた。私も振り返して、おばちゃんに手を引かれるまま奥に入る。暗いからなんだか秘密基地に行くようだ。

 通路が3つに分かれた場所に来たが、右に曲がってすぐの部屋に案内された。


 あ、午前中に体験した膜を通る感じだ。防音の部屋みたい。


「ちょいと飲み物を持って来るね。子供達は何を飲むかねぇ?」


「果実水はあるかい?」


「ああ、確か幼児はそうだったねぇ。じゃあ果実水を薄めて持ってくるよ。子供は味覚が敏感だから苦い薬は飲んでくれないからねぇ」


 ハルおばさんは最後は独り言みたいに言って廊下に出て行った。

 おばちゃんはミーアをおんぶから解放しながら私に尋ねてくる。


「ああ、セーレちゃん、今日はSランクポーションを持って来たかい?おばちゃん確認するのを忘れちゃったよ。すまないねぇ」


「大丈夫だよ。ポーションは小さいから収納庫に入れてるんだ。キュアのSランクポーションでいいかな?」


 おばちゃんに聞くと、驚愕したような顔で見られた。あ、そうだよね。お父ちゃんが死ぬ半年前くらいに作れるようになっていたらお父ちゃんは助かったもんね。


 あ、忘れずに、製作者の名前を消去しておかないと。


 私が消去し終わったら、ミーアがおばちゃんの膝の上にちょこんと座っていた。眠いのか静かだ。お昼寝の時間だもんね。


 少し待っていると扉が開いてマグカップを持って来てくれた。ボーンチャイナのマグカップだ。


 こっちではチャイナがないから普通にボーン製マグカップだ。


 歩いて来て喉が渇いていたので、ありがたく果実水をいただく。

 ちょっと薄いけど、子供舌には濃いよりありがたい。


 地球で小さかった時は駄菓子屋の色水とか飲んでたな。大きくなってから、なんでこんなものを美味しく飲めていたのが不思議だった。味覚の違いだね。


 ハルおばさんは向かいのソファに座って、お茶を飲んでから話し始めた。


 ポーション瓶には気づいている様子だ。一瞬だけ驚愕の表情になったから鑑定が出来るのだろう。


「それでどうしたんだい?話がなんとなくは見えたけど」


 おばちゃんはマグカップを机の上に置いてから話し始めた。


「フィーネさんの娘のセーレちゃんがね、薬師様の元で見習いを始めたのだけど、ちょうど修行先のお師匠様の取り引き先の商人が亡くなってしまってねぇ。身元を隠して商売していたけれど、凄いポーションが作れるから薬師ギルドにSランクポーションを卸したらしんだけとねぇ、卸値が300万エンだってセーレちゃんが教えてくれたんだよ。ぼったくりもいいところだろう?だから、あんたの薬屋さんを紹介するからって、検討しているんだよ。

 ハル、あんたはSランクのキュアポーションを高く買い取ってくれるかい?300万エンなんて言わないでおくれよ。ちなみに、私の紹介であんたの薬屋に匿名で卸すと、セーレちゃんが買取額に応じて儲けが増える。窓口になるからね。どうだい?両親を亡くした子供2人を助けてやっておくれよ。2人で生活しているんだよ」


 ハルおばさんは難しい顔をして黙っていたけれど、口を開いた。


「ポーションを鑑定させてもらってもいいかい?」


 私がハルおばさんの前にポーションを置くと、慎重に手に持って鑑定している。


「おお、おお、これは凄い。作りたてじゃないか。しかも良品だ。ロザリオが見たら狂喜しちまう」


 おばちゃんの解説。ロザリオはハルおばさんの旦那さんで錬金術師だって。


「あ、あのさぁ、ダリル。うちの旦那を、ロザリオを、これを作った人に弟子入りさせてもらえないだろうか?ロザリオはBランクまでしか作れないんだよ」


 おばちゃんは困った顔をして私を見てきたが、キュッと顔を引き締めて断った。


「言っただろう?身元を隠して商売しているって。引きこもりなんだよ。材料の手配は全てお弟子さんがしているから」


「ちょっとの期間でも駄目かい?」


「セーレちゃんが頑張って独り立ちの職場を探してきたんだ。幼い姉妹2人で暮らすためにね。そのお師匠様に無理させてセーレちゃんの就職先が無くなったらどうしてくれるんだい?あんたを信用して打ち明けたんだ。わかってくれよ」


 うーん、うーん、と、ハルおばさんは唸っていたけれど、肩を落とした。


「仕方ないねぇ。キュアのSランクポーションは1000万エンで買い取るよ」


 おばちゃんが顔を(いか)らせた。


「ハル!あんた、私がSランクポーションの相場を知らないと馬鹿にしてんのかい!?数千万は軽くすると知ってんだよ!?」


 ハルおばさんは慌てだした。


「いやいや、落ち着いてくれよ。この店からSランクポーションなんて出したらこの国のお貴族様に家族が誘拐されちまうよ!何人か間に人を通してうやむやにしてから、王都のオークションに出すんだよ!仲介料が必要なんだ!」


 へぇ〜、オークションに出すのか。そんなにSランクポーションは珍しいのかな?


「それでも、5割くらいは出せるだろう?」


「いやいや、オークションは時価なんだ!出品して競り落とされる金額は毎月違うのが当たり前なんだよ!手が無いわけでもないんだよ!?後払いで良ければキッチリ5割、渡すと約束するよ!」


 おばちゃんの顔を立てて言ってくれたのだろう。私はおばちゃんの腕を掴んだ。


「おばちゃん、ありがとう。でも、これ以上、喧嘩はしないで」


「ああ、ごめんよ。おばちゃんが頼りにならないせいで」


 おばちゃんが申し訳なさそうに私の頭を撫でてくれる。おばちゃん、好き。


「ああ!わかったよ!後払いで6割だ!これ以上は出せないのと、途中で紛失したり、壊れたら保証は無しだよ!」


 ヤケになったようにハルおばさんは言った。顔が興奮しているから、かなり譲歩してくれたんだろう。

 商売人て大変だね。


「その言葉を待ってたよ!ハル!契約書を書いておくれよ?」


「はいはい、ちょっと待ってな」


 疲れたように部屋の中にある戸棚を漁ってから、魔法紙とペンとインクを持って来た。

 ボールペンは開発されてないのかな?


「いいかい?これは契約書を作る時の魔法紙と魔法インクだよ。手数料は貰うからね?高いんだよ。

 低ランクポーションは売ってくれるのかい?需要はあるが」


 おばちゃんが私を見た。

 わかったよ!私の出番だね!


リアクションありがとうございます!嬉しいです!

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