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ニードル魔道具店で商談 1

 商談室の扉を開けて中に入ると、何かの膜を通り抜けた感じがした。

 扉を閉めてジッと部屋を見ると防音魔法が施されている。密談にはピッタリだ。


「やぁ、やっぱり君だったね。待っていたよ。さあ、ソファにお座り」


 シェンフェさんが油断ならない目で見つめてきた。

 もう、商談は始まってるんだ。


「今日はよろしくお願いします」


 手で示されたソファに腰掛ける。

 高級そうなソファだ。お客さんももてなす部屋なのかもしれない。


「さぁ、収納魔道具を見せてくれるかい?」


 目の前の机の上に収納庫から箱に入っている鞄を出した。


 ついっと、シェンフェさんの方に押しやる。


「見てください」


「それでは拝見します」


 私は革屋さんで貰った『製品鑑定書』と『売買証明書』を収納庫から出して隣に置いた。

 シェンフェさんはチラリと見てから、箱を開けて中の鞄を手袋をつけた手で取り出した。


 手袋はマナーなのだろうか?私も手袋をつけた方がいいだろうか?鞄、素手でペタペタ触っちゃったけど。


 シェンフェさんは真顔で鞄を見たまま動かない。

 鑑定って時間がかかるのかな?



ーーーーーーーーーー



 店員のジェーフが幼児をおんぶしている少女が来たと教えてくれた。


 無意識に口がひくついてしまう。


「商談します。商談室に連れて来てください」


 面白い。まだ、収納ポーチを見せてから数日しか経っていない。幼い少女が何処までの品を作ってこれたか楽しみだ。


 見た目が悪くても、その商品に見合った値段をつければ安くしても収納魔道具なら売れる。探索者はいつでも欲しがっているのだから。魔物一体が入るサイズなら上出来だ。


 それでも、すぐ壊れるようなら買取は出来ないがな。店の看板に傷がつく。


 工房から商談室に行き待っていると、ジェーフの声が聞こえた。

 この部屋は内からの音は外に漏れない。外の音は聞こえるから異常があれば察知できる。


 私は合図のベルを鳴らす。ベルの音は「入っていい」だ。


 あの少女が幼児をおんぶして入って来た。

 そのアンバランスさに笑ってしまいそうになる。


 少女に声を掛けてソファに座ってもらう。

 手ぶらだから収納庫にしまっているのか。魔法が堪能なようだ。


 少女、キャンベルさん、いや、キャンベル様は『リザルト革店』の包装に包まれた箱を取り出した。

 これは、高い商品を買った時だけにされる包装だ。

 製品鑑定書と売買証明書も出して来た。これは、リザルト革店が自信を持って販売出来る商品ですと保証している物だ。


 いつしか、胸が期待で高鳴ってきたので、慎重に包装をといて箱を開ける。

 鑑定してみると、本物のリザルト革店の物だ。製作者が表示される。そこそこの腕前の者だったと記憶しているが、値段は、500〜600万エンほど、か?


 手袋をした手で鞄を取り出す。

 販売ターゲットは探索者か富裕層あたりか。


 さて、鞄の中の収納の鑑定を……!!!


 はあ!?


 いかん、目がイカれたか?

 瞬きをして、再度、鞄の中を鑑定する。


 み、見間違い、じゃ、ない!!


 『魔物・動物解体機能』!!

 これは、収納庫を持つ探索者が長年掛けて才能を開花させると言う。

 確か、予想統計では10万人に1人の珍しい能力だ。探索者ギルドの解体部門に行けば持ち主と出会えるはずだ。年配の方だがな。探索者を引退する者を探索者ギルドが引き抜き、職員にしているとの話だ。

 これを付与出来る者がいたなど聞いたことが無い。これがあるだけで欲しがる者が多いのに、まだ違う付与がされている。


 『時間停止』

 これは、珍しくはないが、100人に1人が持つとされる。これも才能がなければ「時間遅延」で終わってしまう能力だ。

 この付与は有りだ。


 『リストアップ』

 ダンジョンで出る収納魔道具についている機能だ。すべての魔法使いの付与師がイメージしてつけられる「後付け」の為に高い金額を請求される付与だ。


 『収納鞄に触って入れたい物を認識すると鞄より大きい物も入れられる』

 これは誰しも想像出来る。収納魔道具とはそういう物(・・・・・)だからだ。

 標準付与だな。


 『万引きは出来ない』

 これはどう考えていいものか?

 収納魔道具を持つものは金持ちが多い。せこい万引きなどしないのだ。


 『生き物は入れられない』

 これも普通だ。


 『重量は鞄の重みのみ』

 これは熟練している証だ!

 物を入れれば入れるだけ重くなる、未熟な者が作るとそういう収納鞄が出来る。


 『防水』

 これは、ダンジョンで見つかる収納鞄と同じ効果だ。

 これも熟練しないと、うっかり効果をつけ忘れる事があり、値段にも影響を与える。


 『劣化防止』

 これは凄い!

 収納魔道具を持つ者は大切に使用するが、大体3世代で使えなくなると言う話だ。

 壊れない魔道具というだけで価値がグンと上がる。


 『収納量・家一軒が入るくらい』

 いや、何となく分かるが、漠然とし過ぎている。

 多分、少女の家の大きさなのだろう。見た目は普通の子だから、庶民街の一軒家と言うことか。

 この歳で、この大きさを作れるのならば、あと30年後は領主館ほどの容量の収納魔道具を作れるかもしれない。エルフにとっての30年は早い。


 少し少女と話し合いが必要だが、末永くお付き合いしたい!

 初めての取り引きだから、こちらが強く出てもいいが他店の専属になられたら大損だ。こちとら、金には困ってないが、儲ける時にはガッポリと儲ける主義だ。


 売値は……。


 ああ!迷う!高くても、この機能ならば飛びつく知り合いが頭に浮かぶ!

 だが、この少女は数日で持って来た。

 数日に1つ(・・)は必ず作れると言うことだ!これは強みだ!


 値段は高く、人には狭く、販売するか、低く広く、販売するか、どちらが得だ?


 売れるであろう顔を思い出していくが、誰もが大切な知り合いだ。


 よし、決めた!値段は低く、広い層に販売するぞ。もちろん既存の収納魔道具を脅かさない値段設定だ。

 広い層に販売すれば、噂が広がって遠方からの注文も来るかもしれない。


 少女を見ると緊張しているようだ。


「さて、商品を見させてもらいましたが、初めて作った品にしてはいい出来でしょう。是非、買い取らせていただきます」



ーーーーーーーーーー



 シュンフェさんが、何度か瞬きを繰り返してたりして、結構な時間がかかった。


 喉が渇いてきたな。ミーアは大丈夫かな?静かなんだけど、寝たかな?あ、おむつが濡れているかもしれない。浄化を掛けておく。


 シュンフェさんがこちらを見た。真面目にしなければ。


「さて、商品を見させてもらいましたが、初めて作った品にしてはいい出来でしょう。是非、買い取らせていただきます」


 褒められた!

 ふふん!創造神だからね!これくらいはおちゃのこさいさいなのさ!


「ですが、魔道具作りの職業魔法が上手く使われていない箇所が発見されました。これは、魔力を注ぎ込む際のイメージが曖昧だからとの当たりをつけました。これが、しっかりとしていれば買取金額の上乗せが出来ます。

 こちらの収納魔道具は、アダマンタイト貨4枚とミスリル貨5枚でいかがでしょうか?」


 頭が停止した。


 創造神なのに。


 ふお。


 ふおおおおおおおおーーーーーーーーーー!!!!!


 家が!!家が買える!!生活も安泰だ!!


 あっ!返事、返事!


「喜んで!!!」


 嬉しい気持ちが溢れてしまった!

 どうしよう!止められない!


「それではまずは清算しましょうか。それと、製作者名は隠しますか?公開しますか?真剣な話ですが、公開するとあなたの家まで制作依頼が殺到するかと思われます」


 シュンと冷静になった。

 家まで来るって何それ怖い。


「非公開でお願いします」


「了承しました。隠蔽をこちらで請け負うと30万エンかかりますがどうされますか?」


 たっか!

 薬師ギルドの方が安かったぞ!ぼったくりだ!


「私が隠蔽してもいいですか?」


「どうぞ」


 鞄を渡された。

 あ、素手で触っちゃった。ま、いっか。


 鞄を鑑定して、収納作成者を取り消す。隠蔽するより無くしちゃった方が楽だよね。隠蔽が見破られる可能性があるし。

 あ、高ランクポーションも隠蔽じゃなくて製作者取り消しにしておけばよかった。


「あ、確認をよろしくお願いします」


「はい」


 収納鞄をジッと見られる。


「はい、隠蔽出来ていますね。買取硬貨と買取領収書を持って参りますので、少々お待ちください」


 シュンフェさんは立ち上がり、部屋の奥の扉から出て行った。


 薬師ギルドもそうだったけど、商談室には扉が複数あるのが普通なのかな?

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