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薬師ギルドで初めての買取 2

 お姉さんがお金を持って帰って来た。

 丁寧にお金が入ったカルトンを机の上に置いて確認を始める。


 あ、ついでにお金の価値はこんな感じ。


鉄貨1枚 10エン

鉄貨10枚 銅貨1枚 100エン

銅貨10枚 銀貨1枚 1000エン

銀貨10枚 金貨1枚 1万エン

金貨100枚 プラチナ貨1枚 100万エン

プラチナ貨10枚 ミスリル貨1枚 1000万エン

ミスリル貨10枚 アダマンタイト貨1枚 1億エン


 私は金貨までしか見た事ないです。


 普通は金貨までだよねぇ!?


「お待たせ致しました。6591800エンでしたので、プラチナ貨6枚、金貨59枚、銀貨1枚、銅貨8枚となります。お確かめくださいませ」


 ついっと、こちらにカルトンを押してきたのて、お金の重みを確かめる。

 重い。硬貨だもんな。紙幣は技術的に追いついていないのだろう。


 お姉さんをチラリと見ると、ニッコリと笑われた。


 初めて見るプラチナ貨を手に取って、マジマジと見る。こんな模様なんだ。

 はぁー、これが100万エン。庶民の日常じゃ使わないね。

 うん、6枚ある。

 金貨は、59枚、だっけ?数える気がしないから袋ごと放り込んでおこう。小銭袋に入れてくれてあるし。


 そこで、お姉さんが待ったをかけてきた。


「お待ち下さい、キャンベル様。こういったお取引きでは双方確認してから、お仕舞いになるのが普通でございます。今の行動は信用してくれていると取られる行動でもありますが、初回のお取引では数えるのが普通でございます」


 そうか、私は常識知らずの小娘だった。

 天界にいた時にはお金なんて使わずに生活してたし、地球での事は、遥か昔の出来事だ。昨日のように思い出せても日本は便利だったからお金の確認は直ぐに出来た。


 せっかくお姉さんが親切に教えてくれたから、1枚ずつ数えて10枚ずつに分けていく。


「……59枚、ありました」


「はい、ありがとうございます。それともう一つ手段がございます。収納庫を使えるようになれば稀にですが、収納庫にしまった枚数がわかるようになる人がいるそうです。キャンベル様はまだお若いので可能性があるかと思います」


 収納庫を目の前で使ってくれていいと言っているのか。

 もう少し成長したら人前でも使ってみるかな。


「ありがとうございます。全部ありました」


 頭を下げて感謝を伝える。


「はい、初めてのお取引をありがとうございます。

 それと、ギルドランクがGランクだったのですが、ギルド長と話し合った結果、Sランクのポーションを作れる者をGランクにはしておかないとの事で、勝手ながらEランクにしております。薬師ギルドへの貢献度で変わってきますので、レシピが本物だと認定されれば、Cランクになると思われます」


 おお、上がったのは、良い事?だよな?きっと。聞いてみよう。


「ランクが上がると良い事があるのですか?」


「ありますとも。Eランクは独り立ちをした薬師との認定であり、個人でお店に降ろされる時の指標ともなります。Cランクに上がればベテランの薬師とみられ、お薬の鑑定書代が半額でご用意できます。これは他店に持ち込みされる場合に鑑定書が必要になりますので覚えておいてください。

 キャンベル様は自分でお薬を作れるので関係ないかもしれませんが、店売りで鑑定書がついていないお薬は偽物か粗悪品と見られて安く買われたり、もしくは買取を拒否される場合がござます。

 それと鑑定書は魔法紙になっており、鑑定されたお薬かポーションと2つで1つになっているので、触らせると光ります。別のお薬に鑑定書を触らせても光りませんので一目で正規の鑑定書かわかるようになっております。他店に持ち込まれる場合や知り合いに売りたい場合には是非ご利用ください」


 長かったけど、良い事があるようだ。私の薬を作る腕前の保証ってことだね。

 薬1つに鑑定書付きなのは知らなかったなぁ。

 あっ!もしかして!


「もしかして、魔道具にも鑑定書ってありますか!?」


 お姉さんが頷く。


「大抵は知り合いの大人が身内に教える事ですが、魔道具ギルド、薬師ギルド、商業ギルド、鍛治師ギルド、探索者ギルドなどの販売部門では鑑定書が発行されます。お買い物をした際には必ず鑑定書と商品を触れさせて確認をされると良いでしょう。

 しかし、悪い店では鑑定書は正規のものでも粗悪品を良品と偽っている所があるのも事実なので、その時は兵士に通報してくださいね。品物代くらいは取り返せますので」


 ほー、勉強になる。


「鑑定書を作成出来る人は、資格のような物を持っているんですか?」


「そうですね。鑑定書作成資格試験がござますので、鑑定待ちの方は持っておくと給料が上がったり、就職に有利ですね。ギルドではなくお店自身が発行している場合は店のお客様に見える位置に資格合格書を飾るのが義務化されているので探してみるといいでしょうね」


 ヘェ〜。じゃあ、この間行った魔道具屋には飾ってあったんだ。子供は視点が低いから不便だね。


「他に何かございますか?」


「あっ!あと、Sランクポーションだけ高い買取金額だったのは何故ですか?」


「それはSランクポーションを作れる錬金術師が少ないから、単純に品薄なのです。需要と供給の問題ですね。少し難しいですか?」


 わかったぞ!心は大人だからね!


「Sランクポーションを欲しい人が多いのに、売れるSランクポーションが無い。在庫が常に無い状態なのですね?」


 お姉さんはよく出来ました、とばかりに微笑んでくれた。


「仰る通りです。だからSランクポーションを作れるギルド会員様はとても貴重です。キャンベル様が初回のお取引でなかった場合にはAランク薬師になれる快挙です。王宮に知られれば勧誘に役人が飛んできますよ。

 ですが、安心してください。薬師ギルドに薬を販売される限りにはBランク以上の薬には製作者を隠蔽致します。

 ですが、Cランクから下のランクには隠蔽をしませんので鑑定されれば作成者が分かってしまいます。全ての薬を隠蔽するにはCランク以下の隠蔽は希望されれば薬師ギルドは隠蔽しますが、隠蔽料に1つ1万エンを支払っていただかなければいけないので、結果赤字になってしまいます。そこはご承知の上で販売をお願いします」


 ふむ、別にCランク以下なら知られてもいいか。普通の探索者が買うくらいだからな。


「丁寧に教えていただいて、ありがとうございました。

 え〜と、他にすることってありますか?」


「いいえ、ございません。また、薬師ギルドに薬を卸していただければ十分でございます」


 これには笑ってしまう。

 他店にツテなんてないし、ギルドに卸しにくるだけで大金が手に入る。


「それじゃあ、ありがとうございました。あ!それと、お姉さんの名前を教えてもらってもいいですか?」


 単純な疑問だ。


「これは失礼いたしました。ジュン・カーベルと申します。今後もよろしくお願いします」



ーーーーーーーーーー


 キャンベル様が帰って行った。


 あー、あんないい子に言わなかった事があるだけで罪悪感が湧いてくるー。気分が落ち込むわ。


 私はジュン・カーベル。

 キャンベル様とちょっと家名がにているわね?


 普通、薬師ギルドに卸しに来る人は少ない。

 ただでさえ少ない薬師や錬金術師が独立してお店を持ってしまうからだ。


 薬販売はボロ儲け。


 というのが、ちょっと薬師界隈を知っていれば常識なのだ。だから、徒弟制度に食いついて来ない人は親や親戚、知り合いが薬師の者が多い。

 徒弟制度を受ければ薬師ギルドの職員にまず付けられる。これは薬師ギルドの取込み作戦で、授業料を貰いながら作った薬を安く買い、高く店や顧客に売る。正規の値段なので独立した店より良心的だ。


 ただ、薬の作り手に渡る金額が少ないだけだ。


 適正価格の5割の買取り額。


 これを少ないと見るか、多いと見るかは作り手の判断だろう。

 そして、薬師ギルドに薬を卸す者が少ないのが答えだとは思う。


 今日、買取りしたSランクポーションだって、1本300万エンで買取りしたけれど、これを薬師ギルドが正規に販売すれば600万が売値だ。

 只、馬鹿正直に店に卸すなんてしない。

 王都で行われるオークションに薬師ギルドが出すのだ。


 推定、競り落とし額


 5000万。


 キャンベル様が恐る恐る手に取った硬貨プラチナ貨どころじゃない。

 これが、薬師ギルドの儲け方だ。


 嘘は言わなくても、聞かれなければ答えない。


 薬師ギルド職員に徹底されている。

 作り手を隠蔽するのも当然だ。薬師ギルドお抱えの金のなる木を手放す馬鹿がどこにいる?


 10歳の幼い子供を騙しているようでいたたまれない。


 それでも薬師ギルドで働いている理由はって?


 私が鑑定を持っていて、働くのが嫌いだからだろう。

 私の職業はまさかの『鑑定師』だ。

 鑑定を持っている者は意外にも多い。

 私が怠惰だったから授かった能力だろう。


 初めての見習い先は商業ギルドだった。

 休む暇も無く働いた。休日は家で死んだように寝ていた。

 在庫整理が、しても、しても、終わらせても、また入荷する。仕事が終わらない。

 悪夢だ。

 仕事に殺されると思った。

 少ない手取りで働いて、月の終わりに残るのは疲れた身体と痩せた育ち盛りの私だった。


 私を心配した母の勧めで今の薬師ギルドに受付として雇われた。


 静かな空間と少ない仕事に、私は癒された。

 自分がどんどん元気になって回復していくのを父も母も喜んでくれた。

 ああ、やっと適職に出会えたんだとホッとした。


 受付は本当は2人体制だけど、仕事も少ないし、書類仕事を空いた時間にして、商業ギルド時代に被っていた接客が役に立って、産休に入った同僚の代わりに2人分仕事をしているけれど楽だ。


 ギルド長は腹黒だけど、悪人じゃない。

 独立していった薬師も錬金術師も恩を感じている人もいて、今でも定期的に薬を卸してくれる。買取り額が安いと知っているのに。


 このぬるま湯のような職場で私は腑抜けてしまったのだろう。

 見習いの子を食い物にする。

 でも積極的に、質問してくる会員の質問には答えて、独立まで支援する。ギルドランクがBランクになれば、薬師ギルドからお金の貸し付けが出来、借金をして独立する。そして、どれだけ薬師ギルドにお金を吸い取られていたのかを自覚して、数年で借金を完済して旅立っていく。

 中には薬師ギルド証を破棄されない為だけに決められた期間に一度だけ薬を1つ納品する薬師もいる。

 隠蔽を使える者がいるから薬師ギルドはギルドとしてのメンツを保っていられる所もある。

 薬師ギルドは職員を逃がさない為にお給料は高く設定されている。

 薬師ギルドにいる職員の薬師は、職員のお給料と共にポーションや薬代をプラスで貰えるし、作る薬のノルマも無いから不真面目な者が多い。


 この職場での結婚は諦めた。

 父も母も孫が欲しいと言ってくるけど、素敵な相手を紹介してくれよ。

 あーあ、私、顔は悪く無いはずなのに、行き遅れなんだよなぁ。

 

 

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