#3
最近自分のフルネームを知った。ディアは愛称らしく、フルネームはめっちゃ長い。なんで知ってるかって?よくぞ聞いてくれた!
ことの始まりは数日前に遡る。あの日は、俺がやっと寝返りをうてるようになり自分の耳が長いことから自分が正真正銘エルフになったことが確定した日である。いや、エルフじゃないって選択肢はないとは思ってたけどね、うん。エルフが嫌なわけじゃない。嫌じゃないんだけど...、“前”ー前世と呼ぶことにするーが人間だった分、人間とは違う種族になるのは、ちょっと、ね。なんか違和感はあるし。
因みに寝返りによって見えたクッションは草だった。ちょっと何言ってるのか分からないかもしれないけど安心して。俺もよく分かっていないから。草葉の陰から弟の、安心できるかぁ!、というツッコミが聞こえてきそうだ。俺の場合、本来草葉の陰から出てくるのは弟じゃなくて俺なんだろうけど。
閑話休題。
その日、俺は初めて部屋から連れ出された。いや、運ばれた。いつも周りにいる少女(多分成人してる)じゃない人がやってきて、俺を優しく抱き上げた後、どこかに向かって歩き出したのだ。俺にとって初めての外である。勿論興奮し、周りを見ようとした。上しか見えなかったけど。どうやらここは洞窟の中のようである。ゴツゴツとした岩肌が薄っすらとしか見えないくらい遠くに見えた。随分天井が高いらしい。正面は見れなかったけど、ある程度明るかったってことは上じゃない何処かに光源があったということだ。光源が何かも分からないし、電気もあるかわからないけど、ある程度の文明はあるらしい。さらに、俺を運んだ女性(見た目は勿論少女)は超絶美少女だった。お気持ち、今まで見たきた女性の中で一番胸がでかいと思う。ってそうじゃなくて。星屑を散りばめたような銀髪、神秘性すら感じるほど白くてきめ細やかな肌、極めつけはツリ目気味でありながらぱっちりと開いた碧の瞳。千人に聞いたら千人が美女だと回答するような容姿の女性だった。
え?え???天使が舞い降りました?あれ、ここは天国だったの??俺が転生したのはエルフじゃなくて天国かなんかだったの??え??え??????
俺は一瞬の間に錯乱したような、アホの子と言われるような感想が心の中を流れた。語彙力?飛びましたけど?
そんな感想とともに、俺は運ばれていった。因みに風景は変わらなかった。
運ばれた先は今までの道よりもひときわ明るく、天井の見えない空間だった。下の方から水音がするのだから、ここは浅く水が張っているのかもしれない。
「@¥:*・<+%’#?」
「:+:”¥`&@$=*;#」
俺を抱えた美少女は誰かと話し始めた。声も透き通っている。
この世は不平等だと思います!
もう一人の声の主はしわがれていた。相当おじいちゃんなのだろう。
俺が考えている間にも会話は続いていた。
急に更に明るくなる空間。それと同時に再び進みだした視界。視界の先には、さっき見えなかった天井が見えた。いや、正しくは大きな木の葉の部分である。この世界には随分と大きい木があるらしい。このー木なんの木、気になる木ー、と歌われるような木だった。葉は、若々しい緑で生い茂っている。隙間から見える木の枝は力強く見えた。
観察している間にもどんどん進んでいく。どうやら、木の中心部に向かっているようだった。
そして。ざぶん、と音がして視界がちょっと上に上がる。水から出たようだ。そしてついに、さっきの声の主を見ることになった。
長くとんがった耳、褐色の肌、長い白髪、でも見た目はダンディなイケオジ!あの声で!?ギャップが酷い。多分グッピーが死ぬやつ。
俺は心の中で確信した。そして、俺はもしかしてエルフという長命種(この世界ではわからない、けど多分、きっと、メイビー、長命種)の長命種味をなめていたかもしれない。
閑話休題。
木の幹は、やはり、というべきか、とても太かった。幹には大きな洞があり、まるで洞窟のようだと思った。洞は横と縦に広く、奥行きは少ない。その中には祭壇?らしきものがあった。正面の壁には青い布がかかっており、その両隣には緑や赤、紫などの様々な色の布がかかっている。その布は洞の壁を覆うように並べられていた。布の前には白い大理石のような台が、台の端にはその布の色の火が灯った銀の燭台があった。
俺はその中央に連れられ、そのまま置かれた。どうやら、自分の下にはなにかの魔法陣あるらしい。
朗々と響くしわがれた声。
あ、これ場合によっては生贄に捧げられる赤ん坊、とかやばいカルト宗教のやばい儀式、みたいな絵面だ。いや、実際生贄なのかもしれない。え、ちょ待。ちょっと待ってちょっと待ってお兄さん⤴♪(ヤケクソ)俺死ぬの?ここで?転生したからには今生を楽しもうと思ってたのに?希望もたせた後絶望に突き落とすの良くないって聞いたことないの???
でもうまく動けない自分。止まってはくれないお兄さん(おじいさん?)。
あ、オワタ。
そう思った。光が視界を満たす。様々な色の光の奔流が溢れ出す。その光は自分に向かって来た。思わず目をつむる。
一瞬眠ってしまったような気がした。
しかし、いつまで経っても死なない。俺は死ぬというのは自我の消滅と肉体の消滅だと思ってる。でも肉体が消滅するような痛みはない。思考できているから自我の消滅でもない。
恐る恐る、目を開けてみた。光が向かってくる前と変わらぬ景色が見えた。
マ??生贄じゃなかった?..............................。…やっったぁ!生きてる!良かった〜。
それから俺は、やけに興奮しているように見えるお兄さんにドン引きしながら少女が抱き上げてくれるのを待った。少女は俺を抱き上げた後、微笑みながら
「私の愛しい子、カヴァ=ヴィッゲ=ステラ・セリア=ノッテ=ドーチ・ギラッファディア。」
と言った。
なんて???てかお母さん??!若!!
その日から俺は、この世界の言葉の意味がわかるようになっていた。あの儀式のおかげかな、と思う。
それがある意味合っていてある意味間違っているのを知るのは遠い未来の話である。