表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生少女の地図埋め道中  作者: 椿妃
1章 エルフの里
1/3

#1


なんてことない一日。毎日のように繰り返す日々過ごしていた。


今日も学校から帰る。今日は参観日だった。幸い、母さんは来なかった。いや、これは家族より仕事を優先していると捉えるなら悲しいものだっただろう。普通なら。あいにく俺にとって母さんは血がつながっただけの同居人、つまり他人だ。そんな価値観を持っていた俺は悲しくともなんともなかった。母さんよりも俺にとってはネットや本のほうがよっぽど親しいと言えた。最も、それは俺から見た主観だからそんなことを外で言おうものなら頭を疑われたかもしれない。まあ、俺にとっては肉親より物語や絵のほうが身近であったというだけである。

物語や絵は自由だ。誰でも他人の思考を()()()ことはできない。外面はいくらでも取り繕える。自分以外の人は信用できない。思考によって作り出された物語や絵は誰にでも受け入れられる。ある程度の自由が保証されている。音楽も同様だろう。だから好きだ。

俺にとっては、縋るものでもあったから。


学校から帰る前に職員室によってスマホを受け取る。この学校は朝から下校直前までスマホを預かる規則がある。俺にとってそのスマホは母さんに居場所を知らせるためのGPSと同じだ。持ち歩かなければいけない物。

職員室を出て昇降口に行って自分の靴箱から靴を取り出す。グラウンドシューズの横になわとびがあるのを見つけて、これもそろそろ持ち帰らなきゃな、と思う。そろそろ3年になるのだから。

だんだん季節が春になっていくのを肌で感じる。すぐに春なんて過ぎ去ってしまうと分かってはいるが、季節の変わり目はなんとも形容しがたい気分に襲われる。

昇降口から出たら風が俺の髪を揺らした。揺らしたどころかばっさばっさと音を立てているが。

門を出て駅への道を歩く。信号のタイミングが悪いときもあるけどそうはなりにくい。なぜなら遠くにちらりと見える信号が赤になってからこっちの信号が赤になるから。多分同じ学校の人もそれでタイミングを見ている。

歩いている間は考え事に集中できる。俺は今日読んだweb小説の考察に思いを馳せた。

ふと気がつくと、もう橋の上まで来てしまっていた。

そこでつい、思った。思って、しまったのだ。

今まで鞄にしまうのが面倒で持っていたスマホ。これをこの川に投げ入れたらどうなるのだろう、と。

このスマホでweb小説を読める。でも、読むだけなら手持ちのノートパソコンでもできる。俺の通っていた学校は授業にノートパソコンを使用するから、持っていた。スマホなしでも俺は困らない。スマホは俺にとって母さんからの監視の象徴だった。母さんが嫌いだ。つい先日喧嘩したのが影響していたのかもしれない。理由は何でも良かった。

俺はスマホを川に投げ入れた。

ぽちゃん、と音がした気がした。

俺は少し爽快な気分になった。でも、これが母さんに知られたらどうなるのだろう。そしてこの川に物を投げ捨てたと知られたら、どうなるのだろう。

俺はとたんに怖くなった。

俺は周りの目から逃げるように早足でその場を去った。

でも、結局やってしまったことは元には戻らないのだからどうしようもないと思う。

あの場で俺が物を投げ捨てたのを見た人はどれだけいたのか。さらにその中から俺を認識できた人はいたのだろうか。いたとしても覚えているのだろうか。答えは否だ。通りすがりの他人、そんな人を覚えていられるほど周りは周囲に関心があるとは思えなかった。

でも悪いことをした自覚はあった。だから、なるべく地面を見て、前髪とマスクで顔を隠して早足で駅まで歩いた。

そういえば最近工事で駅が新しくなった。

駅ビルは変わったのだろうが自分は駅ビルに行ったことはなかった。自分が知っている変化はバスターミナルが新しくなって道路が格段に広くなったこと、地下道に新しい店ができ始めていること、駅ビルの名前が変わったことくらいだ。元の名前は知らないが、今は”すいめあ”という。正直言ってなんでそんな名前になったのかわからない。まあ調べるのもめんどいので別に意味なんてどうでもいいが。

地下道を通って改札を抜け、ホームへ行く。

ちょうど電車が来ていたのでそれに乗って、pcで小説を読む。


周りが見えていなかった。急に揺れたと思った。何事かと思って顔を上げた。正確には、上げ()()()した。

刹那、轟音と共に視界が消えた。痛みだけが残る。何が起こったのか把握できないまま俺は痛みに意識を持っていかれた。

痛い。痛い、痛い痛い痛い痛い痛い、いたいいたいいたいいたい!イタイ!

そんなことしか考えられなくなる。


俺は、いつの間にか意識を失っていた。



次に意識が浮上したのは、俺が意識を失ってから随分経っていたように思えた。周りを見回そうと目を開けようとする。開けれない。手は…動く。でも動かしにくい。

焦る。

もしあの時起こったのが事故なら、俺は今、病院で寝たきりなんじゃないか?意識を失う前の、心の底から無尽蔵に恐怖の湧いてくる感覚。収まらなかった痛み。あれが事故によるものなら、その事故で怪我を負ったのなら、説明がつく。目が開けられないこの状況も、うまく手が動かせないこの状況も。

俺はここが病院だと仮定して、ナースさんを呼ぼうとした。声を出す。


「ふぇぇ、」


…。俺の聞き間違いじゃないなら俺が喋ろうとした瞬間赤ん坊の泣き声のようなものが聞こえた気がするんだが。もう一度。


「ふ、ふぇぇ」


どうやら、この泣き声は聞き間違いじゃなかったらしい。そして、俺が喋ろうとした瞬間に声がしていることと、うまく喋れた感覚がないことから、この声は俺の声だと判断する。



なんか、とんでもないことになっている気がした。


はじめまして。読んでくださってありがとうございます。

のんびり見守ってくださるとありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ