博と國子
「…こんなに言って靡かないなら仕方ないです…。着いて来てください」
溜め息をまた吐いて、女の子は僕の前を歩き出した。
女の子と僕が進むに連れて、道は険しくなっていく。
そして、しばらく歩き続けてようやく止まったのは
立ち入り禁止の看板の前だった。
「ここから先に進むと、ヤマイダレ村に着きます」
…ヤマイダレ村というのは聞いた事があった。
大正時代に、村人が全員不可解な死を遂げた、
『ヤマイダレ村惨殺事件』があった場所だ。
「私は生前ここに居たんです。…そして死んだ。
まあ、貴方にはまだ話さなくても良いかもしれませんがね…」
「…えと、よく分かりませんが…お助けすれば良いのですか?」
「…はい、そうしないと貴方は…、貴方と言うのもなんですね。名前を教えていただけますか?」
「あっ、僕は博です。貴女は?」
「…國子です。では、博さん、ここからは危ない旅になります。人間の貴方には耐えられないこともあるかもしれませんが本当に行きますか?」
そう言う國子さんの目は、何故か泣き出してしまいそうに歪んでいた。
「…勿論!困ってる人を助けるのは、当然の事ですから」
兄さんの様にそう言ってみる。これで國子さんも、少し勇気が湧くかもしれないと思ったからだ。
でも、國子さんは少し俯いて「分かりました」と短く言ったきりだった。
「…では、行きましょう、博さん」
顔を上げた國子さんが、僕の返事を待たずに看板の向こうに足を踏み入れると、僕達は眩い光に包まれた。