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第2話 魔王に出会いました




魔王城の廊下、魔王が鎮座する玉座へと続く回廊の最中。


ぷりぷりと怒った様子の姫君は、早足でその玉座へと足を進めていた。


「魔王様、魔王様。姫様が話があると」

「よかろう。連れてこい」


「もう来ましたわ」

「早くない?」


魔王へ報告を告げたゴブリンの背後に、既に仁王立ちしている姫。

彼女は、堂々と腕を組んで、魔王のことを一直線に見据えて申し立てを始めた。


「初代の遺志を継ぐ者、八代目魔王。私は、あなたに言いたいことがあります」

「なんだ、申してみよ」

姫は、すう、と息を吸い込んでその思いを吐き出す。

「―――小さい!器が小さいですわ!娘が初恋をしたからって、相手の男に嫉妬して周りに迷惑をかけるなど、男として失格です!寛大な父であれば、そこは娘の精神的成長を喜ぶものでしょう!私は、あなたを見損ないました!」

「な、なにぃッ!?」

姫の発言に、怒りか、驚きかわからない表情で立ち上がる魔王。

「魔王とは、全ての魔物の長であり、その風格を持って全てを導くものでしょう!そんな器の小さい事をしていては、他の魔物たちに見下げられてしまいますわ!私が、その衰え切った威厳と言うものを鍛え直して差し上げましょうか!?」

「ぬう、言ってくれるわ!人間の姫が、この我に説教とはな!貴様、覚悟はできておろう!」

「覚悟をするのはあなたですわ!私のお父様みたいなその建前だけの王族っぽさ、私が本物に変えてあげます!」

後ろで欠伸をしているゴブリンのことを他所に、二人は突然巻き起こったその口論に一気にヒートアップしていく。


「やめて、お父様!喧嘩はいけないわ、折角美味しく出来たアップルパイが美味しくなくなってしまうわ!」

そこに突然現れたのは、魔王の腰ほどにも及ばない背丈の小さな少女だった。

「ぬう、まーちゃん!?職場には来てはいけないと何度も教えたであろう!」

「お父様の大きな声が聞こえて、居てもたってもいられなかったの!お願い、喧嘩はやめて!」


少女がそういって魔王の腰にしがみつくので、魔王はやむを得ずと言った顔で姫に向けて怒声を飛ばすのを中断した。


「…姫よ。我は、貴様に恨みがあるわけではない。だが、勇者のことを許すわけにはいかないのだ。―――見よ、このあどけない笑顔。これを見て、まだ殆ど会った事もない男の元へ行くことを許せると思うか?否、お父さんそんなことは許せない。故に、我は勇者に戦いを挑まなければならないのだ」

姫の背後で、ゴブリンが小さな声で「先代の恨みとかじゃないの?」と呟く。

「これは、父としての義務だ、務めだ。幾ら貴様に器が小さいと貶されようとも、我はこれをやりきらなければならない」

そう覚悟の決まった目で話す魔王の表情を見て、姫は理解したように目を伏せて、一度息を大きく吐いた。


「わかりました、魔王。あなたは、娘を守らんとするその強い意志を持って勇者様に相対するおつもりなのですわね。―――でしたら、その意志をこれ以上否定する気はございません」

姫が淡々とそう告げると、魔王は表情を明るくして彼女を見つめる。


「ですが、勇者様を見知らぬ幼女と引き合わせることを避けたいのは私も同じ。であれば、ただ私を捉えておくに留めるのが勿体のない事であるのはあなたにもお判りでしょう」

「何が言いたい」

魔王は、眉を上げて姫を睨みつける。

「私、―――まーちゃんと言いましたか。その子と、仲良くなって見せますわ。そして、思い知らせてあげます。『この綺麗なお姉ちゃんが好きな人を、私が取ってしまうなんて申し訳が無いわ』と。…そうすれば、あなたと勇者様が決闘をするまでもないでしょう。私は、決して勇者様を戦わせませんわ。そして、魔王の娘さえも手籠めにした才能あふれる淑女として、きっとあの方と結ばれるのです」

「それは、素晴らしい考えだな。分かった、その条件を飲もうではないか。ただし、もし貴様がまーちゃんと仲良しになるより先に勇者がここに辿り着いたのであれば―――」

「…わかっております。その時は、甘んじてあなた方の決闘を見届けますわ。そして、勇者様の勝利を見届けた後―――『どうです、あなたには手の届かない存在に思えたでしょう』と言って、私が勇者様を奪って王国に帰ります」

「うん、いまいち認識が合ってないな」

緊張感の溢れるその玉座の上で、なんとも賢さの足りない会話を繰り広げる両陣営のトップ達。


その周りで彼らの会話を聞き届ける幹部の魔物たちは、そのどれもが大きな欠伸をするか、背中を掻いて今日の晩御飯のことを考え込んでいるのであった。


「お父様、話が済んだらおやつの時間にしましょう」

「ああ、そうだな」


魔王は、娘に手を引っ張られて奥の部屋へと歩いて行く。


「私も食べますわ!まーちゃん、私も一緒にそっちへ行かせて!」


姫は、さも当然の様に魔王一家の団らんに足を踏み入れていった。


どう見ても一人だけ、その景色から浮いていることなど気にもかけずに。

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