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第12話 時間差で効くやつでした




 ~アーモンドの育て方~


 1.アーモンドを殻つきのままで水に浸します。直接土に埋めても発芽しますが、水に浸すことでより早く発芽します。頭に噛みつかれている場合は、いっそ自分の頭ごとバケツに突っ込みましょう。




「バケツ持ってきたよおねーちゃん!」

「助けて!」

 逃げ出そうとする姫は、面白半分で僧侶に捕まえられる。


「姫様!大丈夫、死んだら蘇生してあげるから!」

「あなたたち私を救出しに来たんですわよね!?」

 涙目で訴えかける姫だが、周囲は気まずそうに笑うだけで何もしない。


「勇者様!?」

「切りかかったら種子が駄目になっちゃうし…。バケツに飛び込むのが一番穏便に済むと思うよ、姫」

「この人でなし!」

 姫はまーちゃんに肩を抱えられると、何の悪意も無い顔でバケツに頭を突っ込まれる。


 がぼがぼと暴れる姫だったが、そのうち諦めたように脱力して、大人しくなったころに引き上げられた。

「取れたね!」

「がぽぉ…」

 なんとか一命をとりとめた彼女だったが、それ以降アーモンドの種子には一切近寄らなくなった。




 2.種を横向きにして、三十センチから四十センチほどの深さに埋めます。




「まーちゃん、掘りすぎですわ」

 犬のように土を掻き出すまーちゃんの背後にいた姫は、掘り返された土に埋もれて動けなくなっている。


「あれ、おねーちゃんが埋まってる」

「ふふ。ちょっと土遊びがしたくなっただけですわ」

 悪意なき子供に罪悪感を背負わせまいと、姫は青い顔をしながら笑った。




 3.たっぷりと水を与えます。幾ら与えても構いませんが、やりすぎると発芽した時に畑から逃げ出すことがあるので気をつけましょう。




「大きくなあれ!」

「まーちゃん!あげすぎ!アーモンドが歩き出したらどうするの!」

「一緒に遊ぶ!」

 勇者の後ろに隠れる姫は、先程頭に噛みつかれたトラウマで心底怯え切っている。


「いつになったら芽が出るかなぁ」

 勇者は腕を組みながら「僕の知ってるアーモンドなら一、二か月くらいだけど」と呟く。


 その次の瞬間には地面から芽が出ていた。

「ひぃ!」


 さながら墓場からゾンビが現れたかのようなリアクションを見せた姫は、若干勇者を前に押し出して差し出そうとする。

「姫?」

「私だけ噛まれるのは嫌ですわ!次は勇者様!」

「なんだろう、姫を守るのは確かに僕の役目だけど凄く不服だ」

 身代わりのような使われ方をする勇者は、面白くなさそうに空を仰いだ。




「それにしても、明日には実がなりそうな勢いだね」

 勇者がそう話す後ろで姫はまだびくついている。


 そんな彼女の気持ちなど露知らず、まーちゃんは「収穫が楽しみだね、おねーちゃん」と笑う。

「サトウキビの時みたいに、いっぱい収穫したいね!」

「そうだね。私、あの時の記憶あんまりないけどね」

 何処か遠くを見つめながら姫は小さな声で答えた。


「…ところで、王妃様は何をしてるんですの?」

 近くでずっとしゃがみ込んでいる王妃の姿に、姫はようやくツッコミを入れる。


「うん?泥団子を作っていたのよ」

「…」

 いつもの穏やかな笑顔で当然の様に答える王妃。

「公務とか、いいんですの」

「主人がやってくれるから大丈夫よ」

「魔王って何でしたっけ…」


「そんなことより、これみてよ姫ちゃん。ぴかぴかよ、ぴかぴか」

「ほんとうですわね。鉱石か何かみたいですわ」

「あげるわね」


 王妃からそれを受け取った姫は、その泥団子から異様な魔力を感じて遠くへ投げ飛ばす。


「おねーちゃん!ママが作ってくれた泥団子に何するの!」

「い、いや。まーちゃん、あれは人間が触れ続けたら死ぬ奴ですわ。不可抗力というか」

 冷や汗を流しながら姫は言い訳をする。


「いけない、つい癖で気持ちを込めすぎちゃったわ。ごめんねぇ」

 王妃は悪戯っぽく自分の頭を小突くが、姫は笑っていない。


「…ていうか、今日の朝ごはんって王妃様が作ったのですわよね?」

「そうよぉ。あれも愛を込めて作ったのよ」


「僧侶様、蘇生の準備を」

「私も死ぬからちょっと無理かな」

「リレイズ!!!」


 咄嗟の『オート蘇生』魔法を使った姫は直後に失神し、勇者一同もタイミングよく畑に頭を突っ込んで倒れた。




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