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第1話 姫様がつかまりました




むかーしむかし、だいたい五百年くらい前。


平和を脅かすわるーい魔王様が、姫様をさらって魔王城につれていってしまったんだとさ。




◇ ◆ ◇




ここは、姫様がつかまった牢獄の中―――もとい、豪華絢爛な客人用のルームの中。


捕虜を閉じ込めていくにはどう見ても豪華すぎる一室で、いかにも姫様用、というレースやら装飾やらがあしらわれたベッドの上に姫様は座り込んでいた。


「―――不覚でしたわ」


ふかふかの枕を抱えて、何不自由ない生活を与えられているにも関わらず、不満を一切隠さずに頬を膨らませる姫君。

彼女は、自分の城から少し離れた高原で花見がてらのピクニックを行ていた矢先、魔王軍の手先にとらわれていた。


「私がもう少し周りに気をつけていて、もう少し護身術を真面目に習っていて、もう少しお酒を控えていたら防げていた事態でした。こんなことで勇者様の手を煩わせるなんて、私としても非常に不本意ですわ」

そう言って彼女はベッドにぽすぽすと拳を叩きつける。

「ちょっと、誰かいないんですの?」

「あいあい、何だよ姫様」

看守を務めている小さなゴブリンが、普通に扉を開けて彼女の部屋へぽてぽてと歩み入って来た。


「帰らせてくださいまし」

「無理ですよ、何言ってんですかあんたは」

心底呆れた様子でゴブリンは肩を落とす。

「わたし、まだメインの料理に口を付けておりませんでしたの。お弁当の中には私の大好きな鮭の塩焼きが入っていたのですよ?あれを食べられないなんて耐えられませんわ」

「知りゃあせんよ」

むう、と姫様は頬を膨らます。


「それに、いちいち勇者様にここまで足を運んでもらうなんて申し訳が立ちませんわ。私、あの人に仮は作りたくないんですの。あくまで対等に、友人のような立ち位置で、私は彼と結婚したいの」

「そりゃまあまた素敵な人生設計で。ていうか、魔王様が負ける前提だなんて随分と舐められたもんですわ」

「当然でしょ、私の勇者様ですわよ」

姫様は自慢げに枕を抱きしめる。

「とにかく、無理なもんは無理なんで。大人しく、魔王様と勇者の決戦を指くわえて眺めるこってすね。そも、勇者がここまで来られたらですが」

「…全く。どうしてあなたたちは、そこまで勇者様を目の敵にするのですか」

姫がそう問うと、ゴブリンは、よく知らないけど、と言いつつそれに答えた。


「魔王様の娘さんが、勇者のことを好きなんですって。で、魔王様が悔しくなって勇者のことをライバル視したのが事の発端だって聞きましたよ」

「は?」

「だから、魔王様の娘さんが」

「いや、聞こえてましたが。そんなくだらないことで勇者様に決闘を?」

呆れ切った顔で姫は身を乗り出す。

「ええ、私達もさすがにそれは、って申し出ましたけどね。あの人、一回やると決めたらもう聞いてくれないから」


そう聞いて、姫様の顔はみるみるうちに赤くなった。

「―――くだらない、くだらないですわ!そも勇者様には私という許嫁(自称)が居るというのに!自分の娘があの方と結ばれるような想像をするなど、烏滸がましいにも程があります!」

「まあ、だからその許嫁を攫ったんでしょうけどね。『こんな美人の奥さん候補がいて、命懸けで助けに来るくらい仲良しなんだから、諦めろ』、とでも、娘さんに言うつもりなんじゃあないですか?」

ゴブリンは、まるっきり興味がなさそうに鼻を掻きながらそう告げる。

「ああ、それなら協力しましょうとも!娘さんをさっさと諦めさせて、私は無事に王国へと帰るのですわ!」

「ええ、ええ。うちらも今回は荒事は起こしたくないんで、そうして貰えると助かりますわ」

姫君とゴブリンは、そうして双方の認識を一致させることと相成った。


これは、気が短くて高飛車なお姫様が、魔王一家に大勝利を宣言するまでのお話。




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