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【短編完結】旅人、捨て王弟を拾う

作者: wag
掲載日:2024/01/26

風邪のお供にぽちぽち書いた短編です。

リーンは旅人である。



バックパックのみで各地を転々とする旅人である。



その日リーンは国境沿いのある辺鄙な町にいた。



ここから国境までは数刻歩くのみの距離、その間には珍しい果物がなる森がある。



それを目当にたまに人が訪れるものの、基本は寂しいうらぶれた土地である。



しかしその日リーンは、森に向かって歩き出した。



そして森の入口で、

ひとりの青年を見つけるのである。



「もし」



ぼうっと佇む青年は緩慢な動きでこちらを振り向く。


「僕をお呼びでしょうか」


「ええ」


その端正な顔が陽の光に照らされる。

金の髪が風にそよぎ、碧い瞳が揺らめいている。



「…あなたはもしや、隣国ユーベルの王弟殿下ではありませんか」



その瞬間、青年の体が警戒に強張る。



「…わたしは旅人です。

 旅人と情報とは友人のようなもの、

 ちょっと知見が広いだけの者です」


害意はありません、と加える。



「しかしおかしいですね。

 新聞記事通りならあなたは一昨日、

 我がイリス皇国の皇女殿下と婚姻なされたはず」


「…まあ、僕も訳が分からぬままなのですよ」




青年は語りだした。



確かに、自分は婿入りのためにこの国にやってきたはずだった。


しかし国境を越える際に母国の従者や荷物は全て放棄させられ、ご丁寧に下着に至るまで着替えさせられた。


「これからはユーベルのことは忘れ、心身ともにイリスに染まるよう」


という意味だというが、衣服のランクが隨分質素に見えたことは気になった。


「これからイリスに相応しくあるべく身をすすぐため」


に質素にすると言われ、食事も清貧という名目で最低限となった。




そうしてようやく王宮に着くなり、

衝立越しに妻となる女性と面会となったが、


たった一言、


「ご苦労、その名貰い受ける」


と言われまた馬車の中にとんぼ返り。



何も持たされぬまま、この辺境の何もない土地に放り出されたと。



「…なるほど」


「新聞記事では何と?」


リーンはごそごそとバックパックをあさり、

一部の新聞を差しだした。



「……本当だ、

 僕は無事に結婚したことになっていますね」



皇女と隣国王弟の婚姻。

挿絵も添え大々的に報じられた記事には、

間違いなく自分に似た男が描かれている。



「なるほどなあ」



ふ、と自嘲じみた笑いをこぼし、

王弟殿下は己の状況を悟った。



「成り代わられたわけですか、何者かに」



リーンも概ね同意見だった。

新聞記事によると、新婚のふたりは仲睦まじくバルコニーに姿を見せ、観衆の声に手を振ったという。



本人ではない「誰か」が、そこにはいたのだ。



「どうなされるのですか、これから」


「どうしましょうねえ…」



青年は自分の両手を見つめ、


「なあんにもないものなぁ」


と困ったように目尻を下げた。



「…ひとまず、提案として」


リーンは手を差し出した。


「わたしの旅のお供に、なりませんか」



――――


それから、ふたりは共に旅をした。


旅人は気ままである。


滞在期間も目的も決めず、ただ流れる。

時折仕事を請け負って資金を得て、また流れる。



「悪いですね、世話になって」


「いいえ、女ひとりよりずっと安全ですから」


「リーンはどこを目指して旅をしているのです?」


「……特にこれまでは決めてきませんでした。

 あなたはどうです?

 あなたの本来あるべき場所がどうなっているか、

 その目で見たいとは思わないのですか?」


「…それは皇都を目指すという意味ですか」


「そうです」



青年はしばし逡巡した。



「…この国に来るのを、楽しみにしていたんです」


リーンは続きを促す。


「妻になるはずだった女性とは、

 長いこと交流がありました。

 婚約こそ最近決まったものでしたが、

 幼い頃に出逢ってから、文通を」


最近はその返事もなくなり、変だとは思ったんです。



「僕は、祖国では厄介者だったのですよ」


「ああ…なるほど」


「なにか?」


「いえ、王弟といえば王位継承権の点から言えばかなり高位。なぜ国外に出されてしまうのか不思議だったのです」


「ええ、この度年の離れた兄に二人目の男児が産まれ、すぐさま僕の出国が決まりました」


兄は僕を呼び戻すことは永劫ないでしょう。


「お兄さんとは仲違いを?」


「いえ、仲違いするほどの接触がありません。

 僕の母は側妃ですから。

 でも、ずっと憎まれているのは知っていた。

 公務に出ることもほとんどなかった」



その理由について、リーンはおおよそ目星がついていた。


ユーベルの王弟は目が覚めるほどの美貌。

そして聡明なる人物。


あちらの国ではどうだか知らないが、こちらの国では割と有名な話だ。



男の妬みも深く恐ろしい。



「でも、幼い頃に出逢ったイリスの皇女殿下は、

 僕に優しかった。

 時折便りをくれ、色んなコトを話した」



だから、彼女との婚姻が決まったとき、

嬉しかったのですよ。



青年は力なく笑った。



「叶うなら、ひと目だけでも彼女に会いたいなあ。

 衝立越しにしか会えなかったから」



その一言でリーンの気持ちは決まった。



「行きましょう、皇都へ」



――――


それから彼らは、ゆっくりと皇都へ向かった。



時には満天の星空の下で野営し、

焚火をして長く語り合った。


「そういえばあなたの身分を証明できるものってないのですか?」


「王家の子供が産まれたときに贈られるメダルがあるのです。普段はチェーンを通して首に掛けていますが。

 それは入国の際に取られました。

 …イリスの王宮に、放棄させられた筈の僕の荷物があるのを見ました。

 多分のそのメダルは、今誰かが身につけているんでしょう」


「ふうん」


ひゅ、と冷たい風が吹き、

ふたりの指が温もりを求めて少しだけ触れ合った。


「でも、もういいんです」


青年はきゅ、とリーンの指を握った。


「あなたと旅をするほうがよほど楽しい」



――――



皇都に近付くころ、


ふたりは時折、触れ合うだけのキスをするようになった。


青年はその度嬉しそうにはにかみ、

リーンの手を握った。



「さあ、ここからが皇都です」



特に検問などもなく街に入る。


外周は住宅街、内に入るに従い商業施設が建ち並び、

その更に内側が貴族街、そして中央に王宮。



「王宮に近づくにはハードルが高そうだ」


「それが、そうでもないのですよ」



リーンは懐から『御用達』と書かれた札を取り出した。


「コレで王宮の中には入れます」


「なんと…」



その言葉通り、驚くべきことにすんなりとリーンは王宮敷地内に案内される。

流石に下男や使用人の働くエリアではあったが。



「いいですか、あの塔の3階、

 そう、その窓です。 

 運が良いと皇女殿下のご尊顔を見られます」



青年はじっと窓を見つめた。


しばし後、窓に若い女性の後ろ姿が見えた。

それを追って、金髪の男が彼女の腰を優しく捕まえる。

ふたりはそのまま、窓から離れていった。



青年はしばらく立ち尽くした。


ややあってリーンのほうを振り返り、


「満足しました。

 僕の初恋はここまでのようだ」


と切なく笑った。


「さあ、戻りましょう」


青年がリーンに呼びかけたとき、




「いやねえ、明日の夜会のドレスが間に合っていないのよ」


「それはいけない、針子にペナルティを」



廊下を大きな声を出しながら男女が通り過ぎた。


周囲の使用人は一斉に頭を下げる。

ふたりの旅人もそれに倣った。



「あれは」


「皇女殿下ご夫婦さ」


リーンの代わりに年配のメイドが答える。




青年は血の気が引く思いだった。


リーンの腕を掴み、納屋の裏へと周る。


周囲に誰もいないことを確認し、


青年は焦ったように告げた。




「ちがう…あれは、ちがう。

 皇女殿下ではない」




実物には幼い頃に会ったきりだが、僕にはわかる。

あれは別人だ。

まさか、皇女殿下まで成り代わられているのでは。


「…それともこれは、僕の願望から来る妄想でしょうか」



青年は頭を抱える。


皇女殿下は、どこにいるのだ。




「……気付かれたのですね」


「やはり!」 



リーンはバックパックをごそごそとやりだす。



「今から2年ほど前のことです。

 皇帝と皇妃の酒に毒が盛られました。

 命に別状はありませんでしたが、

 お二人とも視力と、聴力の半分ほどを失った」



リーンはいくつかのパーツのようなものを組み立て、地面にぽすっと置く。



「あの女性は宰相の娘です。

 もともとこの国では宰相の権力が肥大しすぎていた。

 成り代わりを堂々とやっても、誰も追及できないほどに」


皇帝と皇妃もそうです。

怪しいと思っていながらも、目が見えない以上実際の執務は宰相に頼り切り。

強く出られず、強く出た場合には次は殺されるだろうと思ったのです。



「それで…皇女殿下はどこに」



「皇女は人知れず追放されました。

 それでも心ある者は水面下で動いていた」




リーンが地面に置いた導火線のようなものに火を点ける。



「準備完了の合図をもらったのは、あなたと会った頃でした」




シュポン、と音を立てて一筋の花火が上がる。

その後には紫色の煙が後から後から出てきて、

皇都の空に高く昇った。



最初に動いたのは使用人たちだった。



王宮の扉という扉が閉められ、城門が封鎖される。 



次に現れたのは王宮近衛騎士団だった。



小隊に分かれて扉の回りを固め、人の出入りを制する。



「あの日あの場所に出向いたのは、

 もしかしたらあなたがいるかもしれないと思ったからです」


宰相の娘に恋人がいることは知っていました。


もしかしたら、私と同じことを、あなたにしているかもしれない。



「……私が捨てられたのも、あの場所でしたから」



青年の顔に驚きが広がる。



「まさか、あなたは、ああ」



近衛騎士団の中で最も精鋭の一隊が、

リーンの前に現れ、勢いよく跪く。



「アイリーン・イリス皇女殿下。

 御前に馳せ参じました」



リーンは青年のほうを振り返り、 



「リーンハルト・ユーベル王弟殿下。

 …私の婚約者」



『私たちの名前、どちらもリーンが付くのね』



幼い頃交わした会話が甦る。


なぜ気付かなかったのだろう。


彼女の姿絵は何度も見たはずなのに。

リーンと、名乗ってくれていたのに。


何も気付かず能天気に彼女に惹かれていた自分を恥じる。



…と、共に、腹の底から喜びがせり上がってくるのを止められない。



ああ、僕の初恋はここにあった。


皇女殿下を吹っ切れないまま彼女に惹かれていくことに葛藤を覚えたが、


そんなの全然問題ないじゃないか!



彼女が!

アイリーン殿下なのだから!



リーンハルトは一時思考を放り投げた。

衝動のままにリーンを抱き締め、キスをした。



「リーン、リーン、僕の妻だ」



アイリーンは蔓のように巻き付くリーンハルトの背をぱんぱんと叩き、



「妻になる前に、ひと仕事です」



と、王宮を睨みつけた。



――――



近衛騎士団の一隊が、

既に宰相と偽皇女夫妻を捕らえていた。



玉座には視力と、聴力の半分ほどを失った皇帝夫妻。


その前に手足の自由を奪われ、

罪人らは転がされている。



その空間に、アイリーンとリーンハルトは近衛騎士団を率い踏み込んだ。



「父上、母上、アイリーンが御前に参りました。

 リーンハルト・ユーベル殿下も一緒です」



その途端、偽皇女が騒ぎ出す。


「不敬であるぞ!

 わたくしこそがアイリーン!

 皇女の名を騙る不届者!」



「だまりなさい」


太い声で制したのは皇帝だ。


「これは我が命によるものである」


「なんですって!

 父上、娘を見誤るなどあってはならぬこと!

 やはりそろそろその座、退いて頂きますわ」


「で、その後は誰が皇帝となるつもりだ」


「わたくしもリーンハルトもまだ若輩者。

 宰相に一旦その座を任せるのが良いでしょう」


「愚かだな、宰相が娘モーリーよ」


「わたくしはアイリーンです!」


「では、確かめるとしよう」



尚も言い募る偽皇女に、皇帝は試験を課す。



「この玉座の間に、ひとつ王家の者しか入れぬ隠し部屋がある。

 そこを開けてみよ」



できるな、そなたがアイリーンだと言うのなら。



偽皇女はほくそ笑んだ。

実は当たりはついているのだ。


イリス王家では、王家の者の証としてペンダントが贈られるが、その形状は鍵のようになっている。


そして玉座の間には、ひとつだけ不自然な鍵穴がある。


ペンダントは勿論奪ってあるし、鍵穴も把握している。



「もちろんですわ。

 わたくしが隠し部屋を開けた暁には、

 そこの無礼な女を処刑するお許しを頂きますわ。

 …男の方は、生かしてわたくしの役に立ってもらいましょう」



手足の自由を得た偽皇女は、

意気揚々と玉座の間の後方、柱と柱の間の床に掘られた鍵穴にペンダントを差し込んだ。



カチリと音がして床の一部がせり上がる。

取手のようになったところを、偽皇女は騎士に命じて持ち上げさせる。


そこには、薄暗い地下へ続く階段が現れた。



「ほら、ご覧なさい!

 隠し部屋を開けましたわよ!」



皇帝はふっと嘲笑う。


「…不正解だのう。まあ、ある意味正解だが」


「なんですって!」


「おぬし、ペンダントを使って床の扉を開いたのであろう」


「そうですわ」


「そこは、この玉座の間で狼藉を働いたものを直接地下牢に引きずり込む通路だ」



そこの鍵は近衛騎士団長も持っておる。



そう言うと偽皇女は口をパクパクさせて黙り込んだ。


再度騎士に囚われ手足を縛られる。


「アイリーン」


「は」


リーンは迷いなく玉座へ上り、その背にある装飾をひとつ、へし折った。


すると玉座のすぐ後ろの壁がボフンと音を立てる。


壁に掛けられた装飾布をはらい、取っ手を引く。



中には更に二重扉。

ここを開けるかアイリーンは戸惑い、


「父上」


と伺いを立てた。


「よい。2枚目の扉は開けずとも証明にはなろう」



「いいえ!いいえ!

 今その扉を開けたのはわたくしですわ!

 どうせ見えてはいないのでしょう!

 騙されているのですわ!」


「だまりなさい」


皇帝はじろりと、騒ぐ偽皇女を見えぬ目で見据える。



「見えずとも、娘の声と足音が分からん父親ではありたくないものよ」


のう、アイリーン。



「…何をめしいた者が強がりを」


ぽつり、と、これまで沈黙を決め込んでいた宰相が呻く。


「あなたが何を言おうと、すでにこの国は私の手中にある。

 聞こえぬか、王宮を囲む兵たちの装備を打ち鳴らす音が。

 貴族街には我が同胞がわんさとおる。

 皇帝の乱心として正当にその玉座、奪ってやるわ」


「ふむ」


皇帝は動じず頬杖をつく。


「では城門を開けてみよ」


その合図で伝令の騎士が走り、

次々に城門が開放される。



玉座の間の大門は広く開かれ、

武装した兵が雪崩込んでくる。

各家門が抱える兵団や騎士団である。



その手に掲げた旗は、


「皇家の紋……」


宰相はなぜ、といった顔で兵らを見る。



「アイリーンよ、待たせて悪かった。

 掌握に時間がかかった」


「いいえ、不自由な中でのお見事な成果です」


「それもこれも、そこの愚か者のおかげよ」



宰相およびその娘モーリーは、成り代わりを指摘したものを残らず処刑した。


恐怖により言論を弾圧したあと、それで済めばまだ良かった。


調子に乗った彼らはそれに飽き足らず、

己らの意図にそぐわぬ者を見せしめのように処刑し、重い罪を与え、恐怖による支配を進めようとした。



それが不信感に繋がるとも知らずに。



アイリーンとリーンハルトはなぜ生かされたか。

勿論宰相たちは処刑する気であった。


しかし支配された者たちの中にも、良心と罪悪感は生きていたのである。


表向きは処刑に賛成し宰相におもねりながら、

馬車で遠方まで逃がし捨ててくれた。


もしかしたら彼らは、アイリーンらに「このまま自分の目の届かない所で死んでくれ」と思っていたのかもしれない。



だがふたりは生きた。

そして秘密裏に王宮の内部と連絡を取り、今日の武装蜂起に至る。

そしてふたりを生かした者たちがこちらに味方した。


それが答えである。

恐怖に、良心が、正義感が、打ち勝った結果であった。



「さあ、おしまいにしましょう」


アイリーンは毅然として罪人らに向かい合う。



「ま…まて!」



大きな声を上げたのは偽リーンハルト。


「お…俺は知らなかった!

 俺はユーベルから嫁いできただけで、

 騙されていたんだ!

 あなたが真の皇女ならば、俺と婚姻すべきだ!」


「証は」


「証?」


「あなたがリーンハルト・ユーベルであるという証です」


「こ…これだ!」



偽リーンハルトは縛られた腕を解放させ、

胸元からチェーンの通ったメダルを取り出し掲げる。


「これは王家の者が授かるメダル。

 これ以上の証はないだろう」


「それだけですか」


アイリーンは白ける。


「それでは不十分です。

 そうですね、リーンハルト殿下」


「はい」


リーンハルトはよく通る声で告げた。


「そのメダルの使い方はご存知ですか」


「使い方だと?」


「ええ」


「そんなものはない!

 このメダルの存在そのものが証だ!」


「それは違う」


リーンハルトは偽物の前につかつか、と近付く。


「メダルを相応しい者が持って初めて、証となるのです」



こちらにお渡しを。


手を差し出すが、当然偽物は拒否する。


「そう言って奪おうという気か!!」


「ではこうしましょう」


リーンハルトは騎士に頼み、自らの両手を拘束させた。


「これで僕は奪えません」


チェーンを騎士に持たせ、そしてメダルをその白い歯で噛んだ。


そのままぽつぽつと、器用に何かを呟く。



すると、


メダルがオレンジ色に光りだした。



ぱ、とメダルを口から外すと、騎士に光るメダルを聴衆に見せるよう促す。



「これがメダルの使い方です。

 相応しい者が持ち、呼び掛けることで呼応してくれる」


「そんな…!

 俺はユーベル王とも会ってる!

 『よく務めよ』とも言われてる!」


「ああ、兄は僕を憎んでいますからね。

 それとメダルへの呼びかけは個々それぞれ文言が違うので、兄も僕のメダルは光らせられないはずです」


残念でしたね。


騎士は自発的にリーンハルトの両手の拘束を解き、

光ったままのメダルをリーンハルトに返した。


「ありがとう」


メダルに向かってまたぽつぽつと呟くと、

光はすぐに収まる。



「さ、これで証明できたでしょうか」


「充分であるな」


皇帝は朗々と告げる。



「此度のこと、国に対する重大な反逆行為と捉える。

 極刑は免れまい」


異議は、と皇帝が問う。


ガン、と兵士たちが各々の得物を床に打ち付ける。


「是」の合図である。



罪人たちは近衛騎士団に引きずられ、先程偽皇女が開いた地下牢に身柄を移される。


「そうだ、ついでに言っておくが、

 お主等の家門の者や最後までお主等に付き従った者は既に捕えておる」



お主等に救いの手は来ない。



罪人らの身が地下に沈み、バタン、と床の扉が閉まると同時に、国権奪還の武装蜂起は成功で幕を閉じたのである。




「…さて、皆のものよ」


皇帝が見えぬ目で空間を見渡す。


「此度のこと、元々は健全な国家運営ができなんだ我が咎である」


誠に申し訳なかった、と皇帝は深く頭を下げた。


「このとおり視力を失い、聴力も不十分ではあるが、皆の助けを得ながら国を建て直す。

 力を貸してくれぬか」

 


ガン、と床が鳴る。是である。



「そして、リーンハルト・ユーベル王弟殿下よ。

 我が国の諍いに巻き込んでしまい、申し訳なかった。

 貴殿は今後、どのような未来を望むか」



リーンハルトは一歩前に進み出た。



「アイリーン殿下に拾ってもらってから、

 僕は旅人としてこの国を見て回りました。

 厳しいこともありましたが、愛着が湧いてしまったのですよ」



アイリーンの手を取り、



「だから僕は、このままイリスに留まります。

 できるならば、…リーンと一緒に」


リーンハルトは優しくアイリーンの目を見つめた。



「アイリーンよ。お主はどうする」


「私は、無論」



アイリーンもリーンハルトの手を取り、


「…この人生の旅を、あなたと共に」



リーンハルトはまたも思考を投げ捨てた。

ぎゅうぎゅうとアイリーンを抱え、

大きな声で叫んだ。



「アイリーン皇女殿下、万歳!!」



それに呼応し、兵たちも叫ぶ。



「アイリーン皇女殿下、万歳!」

「イリス皇国、万歳!」



――――



後日。


リーンハルトとアイリーンは、

無事に婚姻を済ませ夫婦となった。


王弟の成り代わりを許したユーベル国については、睨みを効かせはするが一旦静観の構えである。



緩く手を繋ぎ、夕刻の庭を歩く。


「あなたは、何度も僕を拾い上げてくれた」



リーンハルトはゆったりと妻をエスコートする。

庭の四阿に着くと後ろから妻を抱き締め、その温もりを堪能する。



「…僕ばっかりあなたに惹かれているようで、

 ちょっと悔しいな」


「そんなことないのですよ」


「そうなのですか?」


「なぜ、私があなたの顔をすぐわかったのだと思う?」


「…記憶?」


「いいえ。

 私、あなたの姿絵を定期的に取寄せてたの」



あの、玉座の間の隠し部屋があったでしょう?


恥ずかしいから、あそこに隠してたの。



王家の隠し部屋に、そんなものが隠されているとは!



リーンハルトはひとしきり声を上げて笑った。



【完】






げほげほ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かった! ユーベル国には時間をかけてジワリジワリと圧をかけていきたいものですな
[一言] 引き込まれました!素敵な2人ですね よい隠し場所ですね笑 どうぞお大事になさってください。早く風邪が治りますように 全快されてからの次作も楽しみに待っております おやすみなさい
[一言] 確かにそれは王家の秘宝…!! 貴種流離譚にも思えるこの話とても面白かったです。文章の仕掛けもお見事! 私が女性だとわかるまで騙されましたね〜
感想一覧
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