表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他力本願のアラサーテイマー  作者: 雑木林
二章 子供たちの冒険編
47/239

47話 ティラの進化

 

 ──侯爵家のお屋敷から帰って来て、一日、二日、と瞬く間に経過した。

 そして、再びスイミィ様に会いに行く日の前日。私は真夜中に、待ち望んでいた夢を見ることが出来た。


 暗闇の中に浮かぶ道の上。そこに、私自身が立っている夢だよ。

 一本道の手前には、『シャドーウルフ』と書かれた看板が立てられている。


 これはティラを進化させるか否か、選ぶための夢なんだ。スラ丸を進化させたときにも、こういう夢を見たから、戸惑うことは何もない。


「闇の魔石をいっぱい食べさせたから、そろそろだと思ったんだよね」


 スラ丸二号から供給される闇の魔石。それをティラに食べさせ続けて、ようやく進化まで漕ぎ着けた。

 シャドーウルフは目標にしていた進化先だから、この道をティラに進ませる。そう決意したところで、私の足元にティラが現れた。


「ティラ、行っておいで。強くなるんだよ」


 私はティラの身体を一頻り撫で回してから、その背中を軽く押した。

 ティラは『ワン!』と一鳴きして、勇ましく駆け出す。

 小さくて可愛いティラは見納めだから、その姿を忘れないよう、網膜に焼き付けておこう。

 一抹の寂しさと、大きな期待。その二つを噛み締めながら、私の意識は静かに浮上した。


 ──自室にあるベッドの上で、徐々に意識が覚醒していく。

 窓の外では、小鳥がチュンチュンと鳴いているよ。まるで、早く起きてと急かされているみたいだ。

 空はどんよりと雲っていて、気持ちの良い朝とは言い難い。

 上体を起こして部屋の中を見回すと、私の隣ではフィオナちゃんが寝ていて、枕元にはスラ丸の姿がある。


 そして、床に敷いたタオルの上では、見慣れない姿の魔物が寝そべっていた。

 黒い毛並みの狼で、身体の大きさが二メートルくらいあるよ。

 ステホで撮影してみると、種族名は『シャドーウルフ』で、個体名は『ティラノサウルス』だった。


「うん、ティラだね……。大きくなり過ぎて、違和感が凄いけど……」


 私よりも小さかったティラが、一晩で私よりも大きくなっちゃった。

 小犬っぽかった顔立ちが精悍になっていて、どこからどう見ても立派な狼だ。

 スラ丸の進化は見た目が全然変わらなかったから、ティラの進化は衝撃が大きい。


 持っているスキルは【気配感知】と【潜影】の二つ。

 前者はヤングウルフの頃から持っていたスキルで、後者が進化してから取得したスキル。図書館で調べた通りだよ。

 ティラの見た目は凄く強そうだけど、攻撃的なスキルを持っていないから、実際の戦闘力はセイウチ以下だと思っていい。敵が現れても、無暗に嗾けるのは危ないって、肝に銘じておこう。


「ティラ、おいで。もふもふしてあげるから」


 進化して強くなったことで、命令を聞かなくなったらどうしようかと思ったけど、ティラの内面は全然変わっていなかった。

 私が手招きすると、尻尾をブンブンさせて駆け寄ってくる。よしよし、可愛いね。

 毛並みだって、もふもふが維持されているから、これで一安心だよ。大きくなった分、抱き着いたときの満足感が物凄い。


「うぅん……。アーシャ、おはよー……って、何よその魔物!? デカっ!! 敵っ!?」


 私が進化後のティラと戯れていると、フィオナちゃんが起床した。

 彼女はティラを見て驚愕し、即座に両手を頭上に掲げて、必殺技を使うべく魔力を漲らせる。

 流石は冒険者、寝起きでも迅速な対応だね。……いやっ、悠長に感心している場合じゃない!!


「て、敵じゃないよ! 落ち着いてフィオナちゃん!! この子はティラ!! 進化したの!!」


「し、進化って、大きくなり過ぎでしょ……!? あんた、本当にティラなの……?」


 フィオナちゃんが恐る恐る手を差し出すと、ティラはぺろっと一舐めして、甘えるように顔を擦り付けた。


「ね、ティラでしょ?」


「そ、そうね……。この甘え方は間違いないわ……」


 フィオナちゃんは納得して肩の力を抜き、私と一緒にティラをもふもふした。

 この世の中には、ティラのもふもふからじゃないと摂取出来ない栄養があるんだ。


 しばらくして、ルークスたちがフィオナちゃんを迎えに来たので、みんなにもティラが進化したことをご報告。

 ノリが悪いトール以外のみんなで、盛大にティラをもふもふしたよ。

 その後、ルークスが今日の私の予定を尋ねてくる。


「アーシャは今日、何か予定があるの? オレたち、買い物に行くんだけど、アーシャも一緒に行かない?」


「あー、ごめんね。私はスイミィ様のところに、耳飾りを届けに行かないと」


 ルークスたちは今日、ダンジョン探索をお休みして、買い物を楽しむらしい。

 お金が貯まってきたから、私服と装備を新調するんだって。


「オイ、アーシャ。夜の予定、忘れンじゃねェぞ」


「忘れないよ、サーカス団でしょ? 私も楽しみにしているから」 


 トールに念押しされて、私はくすりと笑みを零す。

 いつもツンツンしているトールだって、やっぱりまだまだ子供だよね。サーカス団の公演が楽しみで仕方ないみたい。

 みんなとは夕方に合流する約束をして、ここで一旦お別れ。


「ティラ、私の影の中に潜って、護衛をお願いしてもいい?」


「ワン!!」


 ティラは任せろと言わんばかりに吠えて、颯爽と私の影の中に飛び込んだ。

 傍から見ても、影の中にティラが潜んでいるなんて、全く分からないと思う。

 でも、私には確かに、ティラの存在が感じられた。


「うんっ、いいね! 今までとは安心感が段違いだよ!」


 街中を歩く際の足取りが軽くなったので、私は陽気な鼻歌を口遊みながら、侯爵家のお屋敷へと向かう。

 お供はスラ丸とティラだけで、ローズとタクミは家でお留守番だ。


「──ごめんください、スイミィ様とお会いする約束があるので、入れて貰えますか?」


「確認を取ります。少々お待ちください」


 侯爵家の敷地内に入る前に、私は門番の人とお決まりのやり取りをする。

 すぐに確認が取れて、難なく入れて貰えたけど、一人の兵士が見張るように私に付いてきた。……少しだけ、ピリピリしているかも。

 敷地内もなんだか物々しくて、厳戒態勢であることが窺える。

 ガルムさんが私の密告を聞いてから、きちんと対応してくれた証拠かな。


 私が自然公園みたいな庭を歩いて、お屋敷へ向かう途中──不意に、私の足元に小石が投げ込まれた。

 なんだろうと思って足を止め、周囲を窺ってみると、木陰から手招きしている不審者を発見。……アムネジアさんだ。


「兵士さん、どうしましょう? アムネジアさんに、呼ばれているみたいなんですけど……」


「彼は賓客なので、ご歓談を楽しんでくださっても、問題ありません。あの様子は内緒話だと思うので、自分はここで待機しています」


 兵士さんは直立不動の姿勢でその場に残り、私だけがアムネジアさんに近付くことになった。

 そういえば、兵士さんがアムネジアさんのことを『彼』と呼んだから、この人は男性なのかな。今の今まで、性別がよく分かっていなかったけど、私も男性として扱おう。


「やぁやぁ、密告者ちゃん。ご機嫌は如何かなぁ?」


 アムネジアさんはニタァっと嫌な笑みを浮かべて、コソコソと私に話し掛けてきた。

 私はきょとんとした表情を作って、小首を傾げる。


「密告者って、なんのことですか?」


 私が密告したことをガルムさんが吹聴するとは思えない。だって、そんなことをしたら、私の命が狙われそうだもの。

 あの人は善良っぽいから、子供の命を軽視するとは思えないんだ。

 となると、鎌を掛けられているのかも……。


「やぁだなぁ、惚けちゃってぇ。セバスが怪しいってさぁ、団長さんに密告してたでしょぉ?」


「…………ガルムさんから、聞いたんですか?」


「へぇ……!! やっぱりキミだったんだねぇ! 今までセバスを信じていた団長さんがさぁ、三日前から少しだけ彼を疑うようになったからぁ……誰かに何か、吹き込まれたと思ったんだよねぇ!!」


 アムネジアさんは心底愉快だと言いたげに、私を見下しながらアハハと高笑いした。……この人、嫌いだ。

 十中八九、鎌を掛けられているって思ったのに、アムネジアさんの『確信がある!!』と言わんばかりの演技に、まんまと騙されちゃったよ。


 ……というか、この人ってセバスの共犯だったりしない? 狐目で胡散臭いから、貴方は裏切る人だよね?

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ