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他力本願のアラサーテイマー  作者: 雑木林
七章 新生活の始まり
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223話 羊の魔物

 

 レッサーバフォメットが動く前に、スイミィちゃんは先制攻撃を仕掛けようとした。

 けど、すぐに思い止まって、魔力を萎ませる。


「……はんばーぐ、後ろにいる。……あぶない」


 敵の背後には、ラムがいるんだ。スイミィちゃんの攻撃が回避されると、ラムに当たってしまう。

 私はラムを召喚することで射線から退かすべく、硝子のペンで魔法陣を描く。


 しかし、召喚前にレッサーバフォメットが動き出した。

 黒い瞳に敵意を滲ませながら、奴は私たちに襲い掛かる。


「魔法には絶対に当たらないで!! とっても危ないから!!」


 私の警告と同時に、敵は手のひらから、拳大の黒い弾を撃ち出した。

 十中八九、これが【暗黒弾】だね。狙われたのはシュヴァインくんで、スイミィちゃんが透かさず【水壁】を使う。

 魔導書によって強化されているから、縦横の幅も厚みも相当なものだ。


「す、スイミィちゃん……!! ありがとう……!!」


 【暗黒弾】は【水壁】に弾かれて、呆気なく霧散したよ。

 これを防げるなら、私の従魔たちの出番はなさそうだし、レッサーバフォメットには二人の経験値になって貰おう。


 シュヴァインくんは水の壁が下りるのと同時に、全速力で駆け出す。

 レッサーバフォメットが剛腕を振り回したけど、シュヴァインくんはスキルも使わずに容易く往なして、そのままシールドバッシュで吹き飛ばした。

 ラムを私の隣に召喚出来たし、敵は態勢を崩して隙だらけだ。


「……羊の魔物、はんばーぐにする」


 スイミィちゃんが【冷水連弾】を使って、レッサーバフォメットに集中砲火を浴びせた。

 これまた魔導書で強化されているので、その威力は水の弾とは思えないほど強力だよ。

 敵は瞬く間に拉げて──数十秒後、ミンチ肉が完成したところで、シュヴァインくんがおずおずと口を開く。


「す、スイミィちゃん……。まさか、羊の魔物、食べるの……?」


「……ん、食べる。シュヴァイン、食べない?」


「ぼ、ボクはちょっと……あんまり、美味しそうじゃないし……」


 頭は羊だけど、身体は半人半獣。しかも、悪魔っぽかった。そんな魔物を食べるのは、私もご遠慮したい。


「スイミィちゃん、考え直そう? 病気になっちゃうかもしれないよ?」


「……スイ、食べたい。……姉さま、おねがい」


 スイミィちゃんに思い止まって貰うよう、私が説得していると──ミンチ肉が、ドロップアイテムに置き換わった。

 血が滴る子羊の霜降り肉、ピンポン玉サイズの闇の魔石、少しボロっちい羊皮紙。以上の三点だよ。


「うわぁ……。このお肉、食べたら呪われそう……。あっ、羊皮紙は便利かも……」


 ステホで撮影してみると、お肉と羊皮紙の詳細が判明した。

 前者に関しては、生でも焼いても美味しい特上のお肉で、悪魔召喚の儀式に使えるらしい。


 ご丁寧に、アイテムの説明文のところには、儀式の方法まで書いてある。

 悪魔なんて、絶対に召喚しないよ。

 ティラが私の影の中から顔を覗かせて、お肉を食べたそうにしているけど、許可を出す勇気はない。スイミィちゃんも、これは流石に食べないでね。


 羊皮紙はレアドロップで、正式なアイテム名は『低品質な契約の羊皮紙』だった。

 その効果は、この紙を使ってなんらかの契約を結ぶと、それを破った対象の魂に、ダメージを与えるというもの。

 絶対に破れない契約、という訳じゃない。でも、他人と大事な約束をするときに、使える代物だと思う。


 レッサーバフォメットは危ない魔物だったけど、大して強くはない。

 これからもラムに生成して貰って、羊皮紙を集めておこう。

 私がラムを労いながら、そんなことを考えていると──スイミィちゃんが羊皮紙を手に取り、懐から取り出した羽ペンで、勝手に何かを書き始めた。


「……シュヴァイン。スイと、けいやくする」


「えっ、ど、どんな……?」


「……いつか、スイのこと、お嫁さんにする」


「ッ!? わ、分かった……!! ボクっ、誓うよ……!!」


 契約の羊皮紙に書かれた内容は、『いつか、スイミィをお嫁さんにすることを誓う』というもの。

 シュヴァインくんはカッと目を見開いて、私が止める間もなく自分の親指を噛み、軽く流した血で署名したよ。


 ど、どうしよう、私がフィオナちゃんに怒られる……!?

 いや、いやいや、見なかったことにしよう。私は何も知らない、何も見ていないんだ。

 私とラムのスキルを合わせた検証が終わり、私は今度こそ就寝することにした。

 朝食は、普通の羊のお肉でハンバーグを作ろう。


 後日、村人たちにもハンバーグの作り方を伝授して、これをパンで挟むという発想も教えてあげた。ハンバーガー、美味しいよね。

 ここから先の創意工夫は、各々に任せる。豊かな人生に、娯楽は必要不可欠なので、独自の食文化を発展させて貰いたい。




 ──夏の暑さに苛まれながら、忙しなく日々が経過していく。

 そうして、難民を迎え入れた日から、早くも一週間が経過した。

 予定通り、私が開拓した盆地に、村を移転させたよ。

 働き盛りの大工さんたちが、ポンポン家を建ててくれたので、大助かりだった。


 みんな、畑仕事に勤しんだり、羊狩りを行ったり、人型壁師匠を相手に鍛錬を積んだりと、新しい生活に馴染んでいる。

 欲望の坩堝が近いから、私が何かしなくても、村人が飢える心配はない。


 早朝、私が村の練習場に赴くと、村人同士で対人戦の訓練が行われていた。

 人型壁師匠は物凄く便利だけど、私のスキルだから他者に攻撃出来ない。

 そんな訳で、本格的な模擬戦がやりたいなら、村人同士で戦って貰うしかないんだ。


「模擬戦を始めっぺ!! 幾らでも怪我して構わねぇべさ!! オイラたちには、聖女様が付いているかんな!!」


「「「応っ!!」」」


 戦闘員の纏め役になったのは、そら豆頭のビーンさん。彼の掛け声を皮切りに、村人たちは武器を激しくぶつけ合う。

 彼らが使う武器は、剣、鎚、槍、盾、弓の五つ。剣少なめ、槍多めだよ。

 模擬戦では木製の武器を使うけど、実戦では鉄製の武器を使って貰う。


 とは言え、肝心の鉄製の装備は、まだ全然集まっていない。

 ゾンビファーザーを召喚出来るだけのエネルギーが、溜まっていないからね。

 一応、聖女の箱庭の中に、第二階層『黄昏の荒野』を追加するところまでは、進んでいる。

 あんまり広くは出来なかったけど、ゾンビファーザーは一匹で十分なので、第一階層の半分もあれば問題ない。

 エネルギーの溜まり具合は、順調と言えば順調かな。


 トールたちのダンジョン探索は、残念ながら停滞している。

 欲望の坩堝の第三階層で、頑張っているみたいだけど……下層へと続く階段が、見つかっていないんだ。

 淫魔はレベル30までが適正の魔物らしいので、下層へ行かないとトールたちのレベル上げは捗らない。


「うーん……。地図はもう埋まっているから、後は隠し部屋を探すとか……?」


 私は第三階層の地図と睨めっこしながら、隠し部屋がありそうな空白の場所に、目印を付けていく。

 この地図はニュートが描いたもので、探索のヒントが欲しいからと、私に預けられたんだ。



 ──あ、そうそう。私の身近で停滞していることが、もう一つあった。

 村の今後の方針も、決まらないまま停滞しているよ。

 難民を保護した翌日に、五つの選択肢からどれを選ぶか、村人たちの話し合いが行われた。その結果、意見が大きく割れている。


 その一、新しい勢力として独立し、アクアヘイム王国と戦うこと。

 これは流石に、誰も支持しなかった。そこまで向こう見ずな人は、子供の中にもいない。


 そのニ、伯爵か侯爵と対話して、和解すること。

 これは村長さんを含め、お年寄りの支持者が多い。

 ルーザー子爵はダメダメだけど、その上までダメだと決まった訳じゃないからね。


 その三、革命軍に合流すること。

 腕っぷしに自信がある若者を中心に、これを支持している人が一定数いる。

 彼らは重税が原因で、王国に愛想を尽かしているから、打倒出来るならしたいと考えているみたい。


 その四、王国を捨てて、新天地を目指すこと。

 村の子供たちは、『新天地』という言葉の響きに瞳を輝かせて、これを支持していた。

 でも、大人たちは移民の大変さを想像して、誰も支持しなかったよ。


 その五、聖女の箱庭の中で暮らすこと。

 ビーンさんを筆頭に、私のことを聖女扱いする人たちは、これを支持していた。

 信者になった人たちは、私が一声掛けるだけで喜びの感情を爆発させるので、箱庭に移住してくれたら感情エネルギーを溜め放題だよ。

 

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[気になる点] 魔物使いの使える魔物の数の仕様自体もアーシャの固有スキルで変わってたし庭師の仕様も変化しててその影響で強い魔物が植物から生まれたのかな? 戦闘系は職業による変化威力の高さで分かるけど内…
[良い点] スイミィちゃん相変わらず強かで良き フィオナちゃんも負けずに頑張って欲しい [気になる点] シュヴァインは一度死亡した後スイミィちゃんの【生命の息吹】で蘇りましたがシュヴァインの魂は10…
[一言] 5つの選択肢の2と4と5は同時に選択できるよね 2が成功ならそれでいいし、失敗なら5に移行 その間はアーシャは箱庭内から偏在派遣することで、死亡による箱庭消失リスクを0にしつつ新天地を探せ…
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