表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他力本願のアラサーテイマー  作者: 雑木林
七章 新生活の始まり
204/239

201話 指名手配

 

 ──みんなが自分のステホを手に入れた後、ニュートが一つ提案する。


「ルークスを探す方法だが、冒険者ギルドに言伝を頼むのはどうだ?」


「あっ、そうね! その手があったわ! でも、この村に冒険者ギルドはないから、街まで行かないといけないわよ?」


 フィオナちゃんは賛成したけど、最寄りの街が遠いことを教えてくれた。

 徒歩だと片道で、二日は掛かる距離にあって、道中では野生の魔物や盗賊の襲撃が予想される。


 王国東部の状況は、私が思った以上に悪いみたい。

 帝国の盗賊に滅ぼされた村の人たちが、食うに困って盗賊になるパターンが、多発しているのだとか……。


 その人たちが別の村を襲って、また食うに困る人たちが増えて──と、未曾有の悪循環に陥っているんだ。

 治安の維持を担うはずの貴族たちは、戦争で出払っているので、事態は悪化の一途を辿っている。


 私たちが滞在している盆地の村。ここを手薄にする訳にもいかないし、全員で街まで移動することは出来ない。


「それなら、私が従魔たちと一緒に行ってくるよ。みんなは今まで通り、村の防衛をお願い」


 スラ丸、ティラ、ブロ丸を連れて行けば、きっと問題ないと思う。

 ブロ丸に乗って、空路で移動するのがいいかな。


「し、師匠……!! 危ないから、スラ丸に先行して貰ったら……?」


「うーん……。いや、出来ることは早めにやりたいし、やっぱり私が行くよ」


 私はシュヴァインくんの提案を一考したけど、すぐに頭を振った。

 スラ丸も進化を繰り返しているだけあって、全力で転がれば結構速い。

 それでも、野生の魔物や盗賊に襲われる可能性を考慮すると、ブロ丸が空路を進んだ方がいいはずだよ。


「アーシャよ、出発する前に支援スキルを掛け直してたも」


「うん、了解。……私が眠っている間、みんなは支援スキルなしで、盗賊と戦っていたんだよね?」


「妾は戦っておらんが、トールたちはそうじゃな」


 ローズにお願いされて、私はみんなに支援スキルを使った。

 この二週間、今まで頼ってきたバフ効果がない状態で、トールたちは盗賊退治をしていたんだ。本当に、無事でよかったよ。


 【再生の祈り】【光球】【風纏脚】【逃げ水】──この四つがあれば、ある程度の格上が相手でも、遅れは取らない。

 借りている家の庭には、【耕起】を使っておく。久しぶりの肥えた地味に、ローズとグレープが大喜びだ。

 やるべきことをやった後、私は街へと向かって出発した。



 ──今までは縮んでいたブロ丸の体長が、二十メートルまで大きくなって、お屋敷の形状になり、ふわりと空を飛ぶ。

 【巨大化】【変形】【浮遊】という、三つのスキルのおかげで、ブロ丸は空飛ぶ家になれるんだ。


 どうやら、この子は私が眠っていた二週間で、ローズとミケに意匠のアドバイスを貰ったらしい。あちこちに、薔薇や猫をモチーフにした飾りが、あしらわれているよ。

 外観も内観も、サウスモニカの街にあったお屋敷が、ベースになっている。


「……あのお屋敷は、もうないんだよね」


 なんだか切なくなって、ちょっとだけ涙が滲んでしまう。

 私はスラ丸の中からベッドを取り出して、ごろんと横になり、スキル【光輪】と【感覚共有】を併用した。

 知力を上げて並列思考を得た状態で、ブロ丸とスラ丸八号の視界を同時に覗き見する。


 まず、ブロ丸の視界。上空から眺める王国東部の景色は、農業に適した土地が四割、山と森が合わせて三割、湿地帯が三割という塩梅だった。

 大小の農村を幾つか発見したけど、半分くらいは廃村になっている。


 まだ無事な農村では、畑一面を覆う麦の穂が見えた。もうすぐ夏だから、収穫時期は目前だね。

 清々しい空の青色と、穏やかな麦の黄色が、私に自由と平和を感じさせてくれるよ。


「まぁ、実際は平和なんて、どこかに消えたけど……」


 無事な農村はどこも殺伐としており、盗賊の襲来を警戒している。

 盗賊も虎視眈々と農村を狙っているし、平和とは程遠い状況なんだ。



 次はスラ丸八号の視界。あの子の現在地は、アクアヘイム王国の王都──だと思ったら、そこから少し離れている湿地帯の一角だった。

 帝国側もゲートスライムを使うようになったので、王都では身元不明のスライムが、追い出されているみたい。


 でも、スラ丸にはスキル【遍在】があって、自分の分身を生み出せるから、それを何度も王都に送り込み、情報収集を行っていたよ。

 帝国軍と王国軍の攻防は、王国軍の勝利で終わったらしい。


 極大魔法の鍵を使ったのか、西側の湿地帯が広範囲に亘って、穴だらけかつ凍り付いている。

 帝国の冒険者崩れたちは、王国東部に置き去りにされたっぽい。

 王国の貴族と兵士たちが、領地に帰還すれば、直に掃討されるよね。


「よかった、もう終わってたんだ……」


 私は一先ず、ホッと安堵の溜息を吐いた。

 しかし、不安はまだ残っている。両軍に夥しい数の犠牲者が出たらしいので、ルークスの安否が心配なんだ。

 いざとなれば、彼は幾らでも逃げ隠れ出来るから、無事だと信じたい。


「スラ丸、ルークスの姿を見なかった?」


「!!」


 私が問い掛けると、八号は身体を大きく縦に伸縮させた。これは、肯定の意を示す動作だよ。


「ど、どこで見たの!? そこに今すぐ向かって!!」


 私が声を荒げて命令すると、スラ丸は王都に侵入させた分身の視界を介して、とんでもないものを私に見せる。



 ──広場の一番目立つ場所に、掲示板があって、百枚以上の指名手配書が貼り付けられていた。

 敵前逃亡や命令違反など、戦争で味方に不利益を齎した王国側の人間が、指名手配犯にされているみたい。

 その中に、精巧な似顔絵付きの、ルークスの手配書があった。


『指名手配犯、ルークス。年齢、七歳。職業、暗殺者。出身、サウスモニカの街。所属、冒険者ギルド。パーティー、黎明の牙。罪状、国家反逆罪』


 生死不問で、彼の身柄を政府に引き渡せば、白金貨三十枚の賞金が出るらしい。

 戦犯の首の中で、最も金額が大きいよ。


「はえ……? えっ、なんで……!? 何があったの!?」


 私は戦慄しながら、自分の頭を抱えてしまった。

 そうしていると、掲示板を眺めている二人の兵士が、ルークスの指名手配書を眺めながら会話を始めたよ。


「ヤベぇな、このガキ。一体何をやらかしたら、こんな額の賞金首になっちまうんだ?」


「ああ、そいつは暗殺部隊の一員だったらしいが、味方を裏切って帝国の皇女を助けたって話だ」


「うへぇ、マジかよ……。帝国の皇女って言えば、美人で有名だったよな? ガキの癖に、色香にやられちまったのか?」


「あり得なくもない。俺は皇女の姿を一目だけ見たが、ありゃあ世界一の別嬪だったぜ」


 彼らの話を聞いて、私の頭の中で嫌な予感が膨れ上がる。

 渇きの短剣を所有すると、美しいモノに執着してしまうんだ。

 であれば、ルークスがルチア様を助けたというのは、全然あり得ない話じゃない。


 不味い、どうしよう……。私が焦燥感に駆られていると、兵士たちが不穏なことを言い出した。


「このガキを捕まえたいが、競合相手が多そうだな……。こいつのパーティーメンバーに、懸賞金は付いていないのか?」


「付いてるぞ。トール、シュヴァイン、フィオナって名前のガキどもだ。一人当たり、白金貨一枚だな。こっちに似顔絵もある」


「へぇ……。大分下がるが、そっちでも悪くねぇ……。探してみるか」


 最悪だ。私がルークスに、渇きの短剣を渡してしまったから、悪い事態が連鎖している。

 私、ニュート、スイミィちゃん、リヒトくん、ミケの五人は、指名手配されていなかった。


 私は準メンバーで、正式に冒険者登録していた訳じゃない。

 二軍のメンバーは黎明の牙に加入しているけど、最近の話だから足が付かなかったのかも。

 ニュートに関しては、彼の父親であるライトン侯爵が、裏で手を回していたとか……?


 なんにしても、本当に参った。『渇きの短剣が呪われていたんです! ルークスは悪くありません!』って、お役人さんに報告したら、全員が無罪放免になったりしない?


「……しないよね。とりあえず、一旦引き返そう。ブロ丸、反転して」 


 私はブロ丸に指示を出して、盆地の村へと戻ることにした。

 冒険者ギルドで言伝とか、頼める状況じゃなくなったからね。

 みんなに事情を説明して、今後の方針を話し合おう。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] この国にいる理由をなくすRTAかな?
[気になる点] よく考えたら孤児&貴族から勘当された人しか居ないから誰か人質に取られる心配ないな…わずかな関係者もみんな水に流されちゃったし。 ルークはまぁ逃げるだけなら誰よりも上手そうだからほっとい…
[一言] 100枚以上の指名手配書とか、マトモな人も沢山指名手配されてるんだろうなぁ…(笑) 王国に所属する理由が無くなったけど、スキルで食料供給(魔物)と傷害保険(再生の祈り)は万全だし、そこら中…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ