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他力本願のアラサーテイマー  作者: 雑木林
六章 聖女の墓標攻略編
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186話 強制依頼

 

 ──朝食をとった後、フィオナちゃんとスイミィちゃんに引っ張られて、私は庭にやって来た。

 早速、フィオナちゃんが三つの装飾品を装備して、仲間ペンギンを召喚する。


「いでよ! あたしのペンギン!!」


 地面に魔法陣が描かれて、そこから一匹のペンギンが飛び出した。

 青と白のツートンカラーで、体長は九十センチくらいの子だよ。


「……ペンギン、おひさ」


 スイミィちゃんが手を振ると、ペンギンは『ピィ!』と一鳴きして、同じように手を振った。

 以前、リリア様のお墓の前で、仲間ペンギンを召喚したことがあるんだけど、あれ以来の再会らしい。


「会えて嬉しいわ! 最近は戦闘中でも、全然出て来てくれなかったから、寂しかったのよ! というか、あんたはあたしを庇ってくれた子よね!?」


 フィオナちゃんがペンギンとの再会を喜んで、ギュッと抱き締めた。

 彼女は以前、仲間ペンギンに命を救われたことがある。そのときの恩人──もとい、恩ペンギンが、この個体だって。

 私は過去を振り返りながら、頭の上に疑問符を浮かべる。


「本当に同じ個体なの? 私の記憶だと、あのときの仲間ペンギンって、死んじゃった気が……」


「あたしもそう思ってたけど、ほら見て! この子の脇腹に、絆創膏が貼ってあるわよ!」


 仲間ペンギンの脇腹を見遣ると、確かに絆創膏が貼ってあった。


 ──あれはまだ、私たちが孤児院を卒業して、間もなかった頃の話だ。

 ルークスたちは流水海域で、荒くれ者たちに奇襲されて、フィオナちゃんに敵の矢が飛来した。丁度そのとき、仲間ペンギンが召喚されて、フィオナちゃんを庇ってくれたんだよ。

 ペンギンは脇腹に矢が刺さって、そのまま消えてしまったんだけど……絆創膏で治る傷だったの?


「うーん……。うん、細かいことは置いておこう。早速、テイムしてみるね!」


 私はペンギンの心に、目に見えない繋がりを伸ばした。

 すると、ペンギンは呆気なく受け入れてくれて、テイムに成功したよ。

 私のレベルも随分と高くなったから、ペンギンのテイムくらいは楽勝なんだ。


 問題はここからで、召喚したペンギンが消えるか否か……。

 フィオナちゃんとスイミィちゃんが、緊張した面持ちで、ジッとペンギンを見つめる。

 そして──三十分が経過したところで、二人がホッと安堵の溜息を吐いた。


「よかったぁ……。あたしのペンギン、消えないみたいね」


「……フィオナの、ちがう。ペンギン、スイの」


「なんでよ、召喚したのはあたしでしょ」


「……ペンギン、二軍にくる。フィオナ、一軍」


 二人がペンギンの所有権を主張し合って、バチバチと火花を散らした。

 所有権っていう話なら、私の従魔なんだよね。


「ペンギンの名前、どうしよっか? 私がパッと思い付いたのは、ペンペンなんだけど」


 私が名前の案を出すと、二人とも感心した様子で頷く。


「シンプルで可愛いわね。あたしは良いと思うわよ、ペンペン」


「……スイも、それ好き。……ペンペン、よろしく」


 満場一致でペンギンの名前が決まったところで、私はステホを使ってペンペンを撮影する。

 種族名は『ペンギン』で、持っているスキルは【冷水弾】のみ。

 黎明の牙の二軍に必要な、前衛タイプの魔物になって貰いたいけど、進化条件が分からない。

 【冷水弾】を多用していると、後衛タイプになることは分かっているので、それを避けながら育成してみようかな。


 こうして、私が頭の中で育成方針を纏めていると、ルークスが少し慌てながら、私たちを呼びにきた。


「みんなっ、屋敷に戻って! 役人が訪ねてきたよ!」


「お役人さん!? もしかして、七三分けの人?」


「うんっ、そう! 七三分けで、ビシッとしている人!」


 ルークスの話を聞いて、私は嫌な予感を抱いた。

 七三分けのお役人さんは、私と顔見知りなんだけど……彼が訪ねてくるのは、厄介事の前触れというイメージが強い。


 話を聞かない訳にもいかないので、お屋敷の玄関まで駆け足で向かう。

 そして、私たちは件のお役人さんと、緊張しながら対面したよ。

 この場には、お屋敷に住むみんなが集合している。


「──お久しぶりです。本日は、どのようなご用件でしょうか?」


「用件があるのは、店主だけではない。まずは、トール、シュヴァイン、フィオナ、ニュート。以上の四名、前に」


 お役人さんに呼ばれた四人は、顔を見合わせて訝しげな表情を浮かべる。

 とりあえず、言う通りにしないと話が進まないので、彼らは前に出た。

 ここで、トールが反骨精神を剥き出しにして、お役人さんを睨み付けながら口を開く。


「この俺様に、どンな用件があるってンだァ?」


「銀級冒険者への強制依頼だ。受け取れ」


 お役人さんはトールの無礼を気にも留めず、四人に一枚ずつ紙を手渡した。

 それには、見覚えのある幾何学模様が描かれている。

 確か、あの模様をステホで撮影すると、国からの強制依頼を受領したことになるんだ。


「随分と厄介なものを持ってきたな……。強制依頼を押し付けられる民の気持ちとは、こうも苦々しいものだったのか……」


 元貴族のニュートは、この紙の用途を知っていたみたい。無駄な問答を挟まず、自分のステホで幾何学模様を撮影したよ。

 彼を見習って、トール、シュヴァインくん、フィオナちゃんも、この模様を撮影してみる。


 私は気になって、フィオナちゃんの後ろからステホを覗き込んだ。

 依頼主の名前は『アクアヘイム王国』で、依頼内容は『王国東部を防衛せよ』だった。

 詳細を確認すると、敵はダークガルド帝国の冒険者や義勇兵だとか……。


 今回の王国と帝国の戦争は、盤面が二つに分かれると書いてある。

 帝国軍の本隊は王国北部で勝利を収めた後、王都を目指して侵攻を始めたので、王国軍は王都を防衛する。当然、主戦場はそこだね。 


 軍勢同士が激突する大規模な集団戦において、冒険者や義勇兵は足並みを揃えるのが難しい。だから、ルチア様は彼らを王国東部へと送り込んだのかな。

 そこは穀倉地帯なので、荒らされると長期戦が出来なくなってしまう。

 そんな訳で、王国側も冒険者や義勇兵を送り込んで、是が非でも守ろうとしているんだ。これが、二つ目の戦場になる。


 冒険者は銅級であれば、十二歳以上が強制参加。

 銀級以上であれば、年齢に関係なく強制参加だって。


「ふぅん……。盗賊退治って認識で、いいのよね?」


「規模こそ大きいが、その認識で合っている」


 フィオナちゃんの質問に、お役人さんは大きく頷いた。

 強制依頼を受領したその日のうちに、王国東部へと向かう必要があるので、とっても急な話だよ。


「チッ、対人戦は望むところだが、レベル30の大台に乗せたかったぜ……」


 トールが自分のステホを睨みながら、小さく舌打ちした。

 彼のレベル──というか、一軍のメンバー全員のレベルが、現時点では29なんだ。


 新スキルはレベルが10の倍数のときに取得出来るので、29と30の間には、大きな差が生まれる。

 あと数日、マンモス狩りをしていれば、レベル30に到達していたはずだから、タイミングが悪かったね……。


「お、お役人さん……!! あ、あのっ、ルークスくんは……?」


 シュヴァインくんがおずおずと、お役人さんに重要なことを尋ねた。

 王国東部の防衛という、国家の存亡を左右する強制依頼。一軍メンバーの中で、ルークスだけが、これを押し付けられていないんだ。

 彼はパーティーのリーダーであり、対人戦なら大活躍出来る暗殺者だよ。それなのに、強制依頼を出さない意味が分からない。


 ──その理由は、すぐに判明する。


「銀級冒険者かつ暗殺者であるルークスには、別の強制依頼がある」


 お役人さんにそう言われて、ルークスは音もなく前に出た。

 そして、みんなと同じように、幾何学模様が描かれた紙を受け取る。

 彼はそれをステホで撮影して──困ったように、首を捻ったよ。


「ルークス、どうしたの?」


「オレのだけ、依頼内容が違うんだ。王都に召集だって」


 私がルークスにステホを見せて貰うと、『王都で編制される暗殺部隊に加入せよ』という強制依頼が、アクアヘイム王国の名前で出されていた。

 誰を暗殺するための部隊なのか、それは記載されていない。

 お役人さん曰く、国中の暗殺者には、この依頼が出されているんだって。


「ルークスが抜けた状態で、ワタシたちは帝国の荒くれ者と戦うのか……」


「みんな、ごめん……」


 ニュートが少し難しそうな顔をすると、ルークスがしょんぼりしながら謝った。

 フィオナちゃんは努めて明るく、笑顔を浮かべながら二人の背中を叩く。


「国からの命令なんだからっ、ルークスが謝ることないわよ! 大丈夫っ、あたしたちは上手くやるわ!」


「オイ、こっちには俺様がいるンだぜ? ルークス、テメェは自分の心配だけしやがれ」


 トールにも激励されて、ルークスは力強い眼差しを取り戻す。


「うんっ、分かった! みんな、必ず生きて、また会おう!」


 なんか良い感じに纏まって、お開きかと思ったけど……お役人さんは、コホンと咳払いを挟み、私にも幾何学模様が描かれた紙を渡してきた。


「雑貨屋の店主、アーシャ。キミには再び、この強制依頼だ」


「ああ……。ですよね、だと思いました……」


 ステホで撮影してみると、『ポーションの大量生産に貢献せよ』という内容の、強制依頼が受領されたよ。

 前回は第二級国家事業で、その重要度は国家存亡の危機より、一段低いくらいの依頼だった。

 けど、今回は第一級国家事業。つまり、国家存亡の危機に直結する依頼だね。

 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] スイとか王子とか見つかったらやばい存在なんだからさっさと国出れば良かったのに…まぁあのアンデッドダンジョンの最下層はクリアしてみた方が良さそうだけど てかこんなに強制依頼ばっかの国冒険…
[良い点] 選択肢の幅が広い展開って最高だよね(*´ω`*)妄想が捗るゾイ [気になる点] 装飾品のペンギンをテイムしたけど、この状態でまた新しく装飾品効果を使ったらペンペンが呼び出されるんですかね?…
[一言] やっぱり高額の家をこの国で買うのは早まったというかアインスが王になる前に外国逃亡も視野に入れてた方が良かったんじゃなかろうか?
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