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真実の恋は一途に瞬く  作者: 真崎 奈南
四章、

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気高き純愛は永遠に2

 ずんずんと進んでいきたエーリルが憤りを隠せぬままにロナルドを見た。そしてその眼差しはティアラにも向けられる。


「正妃になるのは私です。お忘れなきよう」


 忠告の言葉を投げつけられ、ティアラは身を強張らせた。俯いてじっと動かずにいると、エーリルはふんっと不機嫌に鼻を鳴らして踵を返した。


「うるさい女だ」


 一気に遠ざかっていくエーリルの後ろ姿へと忌々しげに呟いたロナルドへと、ティアラは大きく首を横に振る。


「いいえ、当然の主張です。正妃はエーリルさんなのですから。全てにおいて私より優遇されるべきです」

「硬いことを言うな。好きな女の方を優遇してしまうのもまた当然だろ?」

「そんな訳にはいきません。出来ないなら、ふたり同時に娶るのはお止めになるべきでは?」


 慣例に従ってまずは正妃であるエーリルを、そして彼女が世継ぎを産み国母となった後に第二妃としてティアラを迎え入れる。

 そうしてくれたら、ティアラにとってこれ以上喜ばしいことはない。

 それだけの時間があれば十分に、アレフレッドとどこかに身を隠せるだろう。

 しかし心の片隅で抱いたそんな期待は、ロナルドの不敵な笑みで簡単に打ち崩された。


「あぁ、その通りだ。俺も出来ることならお前だけを娶りたい」


 ロナルドの言葉に背筋がぞくりと寒くなる。

 いくら気が合わなくても、今のティアラにとってエーリルはなくてはならない存在だった。

 ロナルドからキスされそうになっても、部屋に誘われても、正妃の存在をちらつかせてやんわり断ることができていたからだ。


「正妃をエーリルではなくティアラにしたいとずっと父上に訴えかけているが、兄さんが死んでからすっかり覇気がなくなった父上はオークス伯爵に言いくるめられていて、首を縦に振らない。イヴォンヌも手を貸してくれないし」


 表情を凍りつかせているティアラには気づかぬまま、ロナルドは楽しそうに耳打ちする。


「……いっそ、邪魔者を消してしまおうか。そしたら自然とお前が正妃となる」

「なっ、なんてことを言うのですか!」

「なぁに、世の中には不逞な輩が多いんだ。どこかへの移動中に金品目当てで襲われ、運悪く命まで落とすことになったとしてもおかしくない」


 ロナルドの言葉が、三年前にアレフレッドの身に起こった出来事を連想させる。

 まさかロナルドが関わっていたのではと考えた途端、怒りがこみ上げ、ティアラの心がざわつき出す。


「……私は正妃にはなれません。その器ではございませんので」

「どうして。お前の方が品があって良い女なのに」

「本来なら私はロナルド様の妃にもふさわしくないのですよ? お忘れですか…私の心にはあなたではない別の御方がいることを」


 冷静な声でティアラはロナルドに告げる。ロナルドが狼狽えたのはほんの数秒だけだった。眉間のシワを深くさせ、ティアラを睨みつけた。


「ティアラは兄さんを忘れられないと言っていたが、それは本当か?」

「えぇ。どうして嘘をつく必要が?」

「騎士団長が、ストゥムでお前を見かけたと言ってた。男と一緒だったとも。本当は、心の中にいるのは兄貴ではなくそいつなんじゃないのか?」


 やっぱり気付かれていたかと動揺する一方、幸いにも相手がアレフレッドだとまでは分かっていない様子に安堵する。


「アズミルに男がいるんじゃないか?」

「馬鹿げています。もし仮にそんな男性がいたのならば、私はとっくに嫁いでいるはずです」


 ロナルドは「ふうん」と納得がいかないような声を発するも、それ以上の追求はせずに歩き出す。


「まあいい。とりあえず食事にする。腹が減った。はやくついて来い」


 ティアラは「分かりました」とだけ返し、きつく口を閉じた。

 ロナルドの後に続きながら、ストゥムの件に関して話しておいた方が良いかもしれないと、ラディスがはやく部屋を訪ねてきてくれることを願ったのだった。




 久々に味気なく感じる食事をやっとの思いで終えると、ティアラはすぐさま食堂を離れた。

 自室に戻ると大量に持ち込まれた花が明らかに少なくなっていて、ティアラがボルメに問う。

 五、六人の侍女を引き連れやって来たエーリルが「私ももらう権利がある」と言い張り、好きなものを選んで持っていってしまったのだと聞かされる。

 残されたのは黄色い小花の鉢植えがふたつと、「死守しました」とやや疲れ顔のボルメが抱きしめているティールの花瓶だけ。

「じゅうぶんです。ありがとう」とティアラは笑顔で花瓶を受け取り、ボルメにも今日はもう休むようにと告げたのだった。

 しばらく花を眺めたりして心穏やかに過ごした後、ティアラはワンピースの白いナイトウエアに着替えてベッドに入った。

 しかしなかなか寝付くことができなかった。苦しい気持ちのまま、夜の帳が深まっていく。

 サイドテーブルに置いた柔らかなランプの明かりはすでに消え、窓から差し込む月明かりだけが室内を照らしている。

 そんな中で思い出すのは、先ほどのロナルドの言葉。


『どこかへの移動中に金品目当てで襲われ、運悪く命まで落とすことになったとしてもおかしくない』


 そしてラディスは襲った連中は手練れだったとも言っていた。

 ロナルドが、アレフレッドを陥れるために何者かを差し向けたのかもと思わずにいられない。

 だとしたら、自分はアレフレッドを亡き者にしようとした相手に嫁ごうとしているのではと、ティアラは顔を青ざめさせる。

 アレフレッドは本当に自分の前に現れるだろうかと不安に駆られる。

 城に来てもう四日目。まだ四日だとは感じられないほど、ティアラはアレフレッドを待ち焦がれていた。もう一度私を攫いに来て欲しいと。

 花瓶には二輪のティールの花。それがいくつまで増えたら、再びアレフレッドに会えるだろうか。

 それともいっそ、ここから逃げ出してしまおうか。もちろん見つかればただでは済まないため、それこそ命を捨てる覚悟でだ。

 小さくも強い覚悟が心の中に芽生えた時、キイッと窓が小さな音を立てた。

 ティアラはベッドの上ですばやく身を起こし、息をのむ。窓から静かに室内へ侵入した人影が、そのままベッドまで歩み寄ってきた。


「ティールの花を増やして帰るつもりだったんだが、起きていたのだな。眠れないのなら、少しだけ話しをしていっても?」


 甘く響いた声音と優しく頭を撫でてきた温かな手に、ティアラは口元を綻ばせた。

 月明かりと共に見るアレフレッドの顔はいつも以上に美麗だった。


「……心からお待ちしていました」


 そのままティアラは手を伸ばし、アレフレッドに力いっぱい抱きついた。

 アレフレッドはほんの一瞬目を大きくさせた後、持っていたティールの花をランプの横に置き、両手でしっかりとティアラを抱きしめ返しながら、ベッドに腰かけた。


「大丈夫か?」

「……はい。もう大丈夫です」


 抱きついたまま笑顔で見上げてきたティアラの額にアレフレッドは口付けを落とす。


「アレフレッド様、いったいどうやってここに?」

「俺は子供の頃、やんちゃだったんだ。二階部分の屋根に登って歩き回っては、みんなをひどく困らせていた。この部屋の窓から侵入するくらい、今でもそんなに難しくない」

「気をつけてください。誰かに見つかったら大変ですし、万が一落ちたりでもしたら」


 そこで身を震わせたティアラにアレフレッドはふふっと笑いかけ、「あぁわかってる。ありがとう」と軽く抱き寄せた。

 アレフレッドは一旦ベッドを離れ、持って来たティールを花瓶に生けてから、ゆったりとした足取りでティアラの元へと戻り、さっきと同じようにベッドに腰かけた。

 そのままティアラは引き寄せられ、アレフレッドの膝に頭を乗せる。



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