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真実の恋は一途に瞬く  作者: 真崎 奈南
二章、

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15/34

面影は真実に7

 ティアラの視界がくらりと揺れた。彼の突然の訪問の理由に、頭の中が真っ白になっていく。


「結婚式ではとびきり美しい花嫁にみなが湧き立つだろう」

「ロナルド様、お待ち下さい!」


 我慢できずにティアラは声を上げた。アルフレッド以外の男性との結婚など考えられない。その思いは強いというのに、それ以上言葉にすることが出来ない。

 貴族ならまだしも、相手は王子だ。しかもアルフレッド亡き今、王位継承権を持つのはロナルドただひとり。

 逆らったことで遺恨を残してしまったら、いずれ彼が王になったとき首を落とされたとしてもおかしくない。

 とは言え、アルフレッドを簡単には諦めきれない。もう一度会いたいと、その顔をみたいと願う人が現れてしまったから尚更だ。

 完全に黙ってしまったティアラの肩にロナルドは手を乗せ、猫撫で声で話しかけた。


「俺は昔から、伴侶にするのはティアラだと決めていた。ずっとあなただけを想っていた。ティアラ、俺と結婚しよう。幸せにする」


 幸せ。その言葉を心が拒絶する。

 きっと、ロナルドと結婚しても幸せにはなれない。望む相手が違うからだ。

 幸せを想像し、思い浮かぶのはアルフレッドだけ。アルフレッドの隣でないのなら、幸せになどなれない。

 そこでティアラは気がつく。逆らい首を落とされるのも、好きでもない彼の元に嫁ぐのも、どちらも結局は同じようなものかもしれないと。

 下した結論と共に、ティアラはロナルドへと真剣な眼差しを向けた。


「正直に言います。私の心にはまだアルフレッド様がいます。そしてこれからもずっと、アルフレッド様を想い続けるでしょう。ロナルド様は、そんな私と本当に幸せになれると思いますか? 愛し抜くことができますか? きっと逆です。いずれ私を疎ましく思う時が来るはずです」


 言い終えると同時に、室内がしんと静まり返った。

 ロナルドはただじっとティアラを見つめ返していたが、突然、表情を歪めた。同時に、ロナルドの爪が力いっぱい肩へと食い込み、ティアラは痛みで小さく悲鳴を上げる。

 逃げようとしたけれど、できなかった。すばやく両肩を掴まれてしまったからだ。


「ふざけるな。どうしてこの俺が、死んだ人間にいつまでも勝てないと思うのだ。息ができなくなるほどたっぷり愛してやる。アルフレッドなんか思い出さなくなるほど、俺に惚れさせてみせる」


 そのままロナルドが顔を近づけてくる。口づけなどしたくないと、その一心で必死に抵抗する。

 しかし男の力に翻弄されるだけで、気が付くときつく抱きしめられていた。


「無駄だ。三年前のあの日、お前は俺だけのものになったのだから。決して逃げようなどと思うな。自分のためにも、家族のためにも」


 耳もとで嬉しそうに囁いてきた声音から分かったのは、ロナルドがアルフレッドの死を喜んでいるということ。

 そしてこれはティアラだけの問題で済まされないということ。

 頬にロナルドから口付けされ、ティアラの心の中で嫌悪感と怒りが大きく弾けた。

 反射的にロナルドの体を力いっぱい押し返した瞬間、バタンと勢いよく扉が開かれた。

 部屋に飛び込んできたのはイヴォンヌで、ふたりのただならぬ様子に顔を青ざめさせる。


「ロナルド様! 出迎えもせずに申し訳ない。……ティアラがなにかご無礼でも」


 足早にロナルドの前へと歩み寄ってきたイヴォンヌは、恭しく頭を下げた後、探るような視線をティアラとロナルドの間で彷徨わせた。

 それに対して、ロナルドはおどけた様子で肩を竦めてみせた。


「いや。なんでもない。それよりイヴォンヌ、なかなか姿を見せないから不在かと思ったよ。いてくれて良かった。話がある」

「そ、そうですか。話とは、なんでしょうか」


 ティアラは耐えられなくなり、「失礼します」と呟いて、部屋から出ようと歩き出す。

「待ちなさい、ティアラ」とイヴォンヌの慌て声が追いかけてきたけれど、ティアラは足を止められない。


「ティアラ。半月後、俺の誕生日にあわせて使いを送る。楽しみにしている」


 ロナルドの声が響き、扉を押し開けようとしたティアラの動きが止まる。しかしティアラは返事はおろか振り返ることもせず、そのまま部屋を後にした。

 廊下に出ると、食堂の壁にもたれ掛かって立っていたラディスと目があい、ティアラは立ち止まる。

 ラディスに話しかけようとしたけれど、なにかひとつでも言葉を発したら泣き崩れてしまいそうな気がして、ティアラは俯き、開きかけていた口をきつく閉じた。

 そして、ラディスが壁から離れた気配を感じ取り、逃げるように歩き出す。


「ティアラ」


 ラディスの苦しげな呟きに、自然と両足に力がこもった。

 小走りで自室に飛び込み、驚き近づいてきたボルメへと「お願い、ひとりにして」とだけ告げて、ベッドに身を投げる。

 枕に顔を埋め、声を押し殺して涙を流したのだった。



 ひとしきり泣いた後、ティアラはベッドに座って、ぼんやりと考えを巡らせていた。

 ロナルドの元に嫁ぎたくない。自分の命と引き換えになったとしても、破談にできるならそうしたい。

 けれど行動を起こせば、自分だけで済まない。両親や兄までも巻き込むことになる。

 家族の明るい笑顔と、ロナルドの最後の言葉に不敵な笑みが脳裏に蘇り、ティアラは両手で頭を抱えた。

 もう従うしかない。誰も彼には逆らえないのだから。

 そう考え、ティアラはハッと顔を上げた。ロナルドと対等に渡り合える人がいる。


「……アルフレッド様」


 夢でも思い込みでもなく、本当に生きているというのなら、これほど心強い味方はいない。アルフレッドが目の前に広がる暗い未来から救い出してくれるかもしれない。

 会いたい。会って話を聞いてもらわなくては。流行る気持ちを抑えきれずに、ティアラは勢い良く立ち上がり、扉へと真っ直ぐ進んでいく。

 廊下に飛び出すと同時に、向かって来ていたボルメと目が合う。


「ティアラお嬢様、気分はいかがですか?」

「心配させてしまってごめんなさい。きっともう大丈夫。ねぇ、お兄様は部屋にいるかしら。まだ家を出てはいませんよね?」


 慌てて走り寄って来たボルメに笑顔を見せてから、ラディスのことを問いかける。今すぐ会って、朝の話の続きをしたい。


「実は、ラディス坊っちゃまはロナルド王子と共に王都へ戻られました」

「……そんな」

「お嬢様の顔を見てから帰りたいと願い出たのですが王子様が聞く耳持たずで、休暇は終わりにして俺の警護に加われと」


 大きな態度でそんなセリフを吐くロナルドの姿が容易に想像でき、ティアラは怒りで拳を握りしめる。

 ラディスから話が聞けないなら、どうしたらいいのか。考えるとすぐに違う方法が頭に浮かぶ。ティアラは急ぎ足で廊下を歩き出す。


「お嬢様、どちらへ?」

「温室に。紅茶もお菓子もいらないから、悪いのだけれどまたしばらくひとりにして」


 立ち止まらぬままに振り返り、戸惑うボルメにそうお願いする。

 そのままティアラは大急ぎで屋敷を出た。しかし、向かったのは温室ではなく馬小屋だった。



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