シャルロッテ
マーチ子爵家の次期当主。
シャルロッテは名前を呼ばれるのを、胸を高鳴らせて待っていた。
今日はシャルロッテがマーチ子爵家の跡取りだと認められる日。
この日の為に日々、貴族らしくあろうと勉強してきたのだ。
何せシャルロッテはマーチ子爵家の跡取りだとはいえ、幼い頃は平民として母と暮らしていた。父がたまに訪れるのを、訳あって一緒に暮らせないからだと聞いてはいたが、まさか子爵家の当主で、自分がまさか貴族様だなんて。
父と母は、若い頃からの恋人同士だった。
悲しいことに身分の壁で一緒に暮らせなかった両親だけど、七年前になんとかお許しが出て、共に暮らせるようなった。
長い長い間引き離されていた二人は、今でもこちらが恥ずかしくなるほど仲が良い。
記念日に限らず愛をささやき合い、贈り物を交わす両親みて、シャルロッテはいつしか自分も二人のように幸せな結婚をしたいと願うようになった。
自分が子爵家の跡取りとなったからには、自分を愛してくれる方を婿に迎えたい。
幸い、婚約者のジーンは自分のことを大切にしてくれた。
ジーンは子爵家より身分がある伯爵家の次男。
彼に釣り合わないのは自分の方だった。
母とともに子爵家に入ってからは、その遅れを取り戻すために頑張った。
何せ平民育ち。マナーのマの字もあったものではない。
文字の読み書きも危うかった。食事の時、何故ナイフもフォークも、何本もあるのかわからなかった。
ダンスとは、祭りのときに皆で手を繋ぎ、ときに手拍子しながらくるくる回ることをいうのではなかった。
必死で学んだ。
使用人の方がそれらを自分より理解し、できることが悔しかった。
その悔しさが彼女をさらに頑張らせた。高みへと導いた。
学園ではそれでも後妻の娘だと馬鹿にされかけたけれど、婚約者のジーンはかばってくれた。ジーンは自分の頑張りを解ってくれたのだ。
使用人より劣ると悔しくて泣く自分を慰めてくれて、いつも自分を優先して大事にしてくれた。
そう、婚約者のジーンは今、シャルロッテの隣で彼女と同じく順番を待っている。
順番とは、この国伝統の、とある行事のため。
それは新年を祝う会の行事のひとつ。
その年、爵位を受け継ぐものをこうして王城の広間にて言祝ぐのだ。
正しくは爵位をもつ跡取りの顔見せである。
広間の横の控え室でまち、名前を呼ばれたら順に、赤い絨毯の上を歩いて玉座の前まで。
貴族たちの花道だ。
何より、王族の前まで行き、声をかけてもらえることが誉れ。
そうすることで「あの家の次期当主はこの者なのだな」と、他の貴族たちもわかりやすくなる。
……王族。
実は学園にはシャルロッテの二つ年上に王太子さまが通っていらっしゃった。
子爵位とはいえ、今後のため何とかお目にかかりたかったのだけれど、それはなかなか難しくて諦めたのだ。
やはり王族は自分たちと住む世界も、考え方も違うのだと、シャルロッテも学園で学んでわきまえた。
それに王太子さまの婚約者は五つも年上だとか。
政略とは、そういうこともあるのだ。王太子さまがお気の毒には思うが、シャルロッテにはどうもできない。
シャルロッテは来年学園を卒業したあとにジーンと結婚することになっていた。そのタイミングで父から爵位を継ぐことになっていた。
ジーンはシャルロッテの家に婿入りしてくれるのだ。
本来はもう少し父に頑張ってもらって、二人でゆっくりと領地などの勉強をしていけばと思っていたのだが、父から早めにジーンに仕事を引き受けて貰いたいと頼まれたのだ。
家庭の事情で早い継承はまれにあることだとか。
爵位を受け継ぐことに不満はないから、早まっただけと二人で頑張ることにした。
それにこの控室にいる中では、今年はシャルロッテが一番若くて、きれいだ。
だから余計に緊張もするけれど、気分も良かった。
あの方たちは、三十はいってるわよね……それなのに今まで爵位を受け継げなかったなんて。お家や領地に問題でもあったのかしら。私はそうならないよう頑張らなくちゃ。
あら、あちらは以前、学園でみたことあるわ。辺境へわざわざ嫁がれたって聞いたけど……じゃあ、あの方が辺境伯? 良かったわ。田舎暮らしはお気の毒と思っていたけど、なんだか大切にされてそうじゃない? 何あのドレス、きれい……。
そんな観察をしながら順番をまった。
このような場合は爵位の低いものから呼ばれる。
シャルロッテは三番目だった。
二人の男爵継承者の後。
「マーチ子爵家」
呼び出しが扉の前で、恭しく、けれどよく通る声で名前を読み上げる。
いよいよだ。今日のために頑張ってきたのだ。
「レイチェル・マーチ子爵令嬢と婚約者のジーン・クロイト伯爵子息」
――え?
3話ほどのお話になると思います。よしなに。




