Magic or Logic
「つまり犯人は、遠隔で火を付けたってことだよな?」
整理してみる。
「そうなるな」
雨上蒼也は、肯いた。
思考をまとめるために目をつぶる。まだ何人か残っている風紀委員の方々の目が気にならないこともないけれど、敢えてそれらを総て意識の埒外に追いやる。
取り敢えず浮かんだ選択肢は2つだ。
①犯人は理論的で科学に則ったやり方で火をつけた。
➁犯人は魔法その他、僕が知ろうとしても知れない方法で火をつけた。
これは考えるまでもなく①だろう。いわばこれは前提だ。
勿論ミステリーの中には魔法や超能力、タイムリープなどを駆使したものはあるし、それらはかなりの確率で面白いことが多い。けれど以前に少し読みかじったところ、あれはごくごく正道を行く推理小説だった。事前になんの伏線もなく超能力を使っていたことがオチなのだとしたら、駄作の誹りは免れないし、何より『驚天動地のトリック』とは程遠い。
「雨上に聞くけど、人体自然発火現象と聞いて、まず最初に思い浮かぶのはなんだ?」
「ねぇよそんなもん。あいにく死体には詳しくないんだ。お前と違って」
「人を死体目当ての猟奇殺人鬼みたいに言わないでくれ」
「……誰もそこまで言ってないだろ」
ああ、確かにそうか。まあいいや。
「ちなみに僕が人体自然発火現象と聞いてまず最初に思い浮かべたのは生ゴミの発火だった」
まあ、創作物の中とは言えご遺体を生ゴミ扱いするのは忍びないけれど。
「生ゴミの山って発火するんだよ」
「そうなのか?」
「簡単に言うと腐敗してって熱を蓄えて発火するらしいけど。……詳しくはググってくれ」
「……朽葉お前、本当は知らないだろ」
いや詳しい理屈までは知らないよ。
「それと同じことが死体にも言えるんじゃないか?いわゆる人体自然発火現象もそんな理由だと言われている……………らしい」
「ん?何か最後に不安な言葉が付け足されたぞ?」
「だから詳しい理屈は知らないんだよ」
追求が細かいな。
「まあなんでもいいが、朽葉の意見だと犯人の意志に関係なく勝手に燃えたってことになるぞ」
「そうなる」
「じゃあ違うだろ」
「そうだよな」
うむ。前提がまだ不十分だ。あといくつか条件を立てて絞っておこう。
「そもそも犯人は何で死体に火なんて付けたんだろうな」 「残念ながら書いてない。作中では明かされてないんだ」
「それすら不明なのか」
①犯人は放火をしなければいけなかった。
➁犯人は別に放火をする必要はなかったけど、何か見立てとか意識的な理由で火をつけた。
どちらだろうか。この選択肢は簡単に断定できるものじゃない。
再び目を閉じる。思考が回転していく。要らないことを、不必要な事項とそれにかける思考能力を手放していく。
①の場合考えられるのは、例えば証拠隠滅。殺害の、もしくは自分に関する証拠を炎で燃やした。
あとはアリバイ工作だろうか。それとも不可能殺人にすることで立件できなくなることを狙った?いや、不可能殺人は蓋然性が低い。あるとすれば証拠の隠滅かアリバイ工作だろう。
➁の場合はどうだろう?
まず考えられるのは、見立て殺人。
アガサ・クリスティの名作、『そして誰もいなくなった』がその走りと呼ばれるそれは、推理小説においてしばしば不可解な行動への解決策として用いられる。
何か犯人には何か切実な理由があって被害者を炎で包まなくてはならなかった。
そんなことがあるだろうか?
あるかもしれない。あるいは単に犯人が狂気に支配されていたのかも知れない。少し陳腐な言い方ではあるけれど、それは本人にしか分からない。
①と➁。どちらもありそうな理由だけれど、絶対に正解はそのどちらかだ。
二者択一。矛盾するそれらは、ただ一つしか選べない。
量る。測る。計る。
蓋然性の天秤で。合理性の秤で。
「天秤が────傾いた」
「ん?なんだ?」
僕は目を開けて雨上を見る。
「動機がわかった。万人が図書室に放火した理由が」
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