先輩は解説をすっ飛ばす
まだまだ文章が拙いですが、温かい目で見守ってほしいです
「じゃあ、この未完の小説〈図書室の殺人〉の内容を簡単に説明するね」
桜庭奏先輩はそう言って僕、朽葉秤の顔を見た。
その手にあるのは図書室に置きっぱなしにされた文芸誌の中の未完の小説〈図書室の殺人〉。
「余計な背景とか登場人物の名前とかは飛ばすね」
「いや飛ばさないでくださいよ」
至極全うと思われる突っ込みだが先輩は不満そうな顔をした。
「それ関係あるの?事件の解決に?」
「いやいや!あるに決まってるでしょ!何言ってるのこの子、みたいな顔するのやめてもらっていいですかっ!?」
「探偵が事件を解決するのにそんなこといちいち考えるとでも?」
「考えるに決まってるでしょっ!ちょっと、やめてくださいよその『これだから素人は』みたいな溜息っ」
え…なにこれ、僕がおかしいの?
「本当に必要ないから。犯人ならわかってるし」
「いやいや!って……え?」
……なんか…今とんでもないこと言いませんでした?
「だから犯人はわかってるんだよ。どうでもいいから詳細は省くけど途中の独白で明かされるの」
ほら。
そう言って先輩はそのページを開いて僕に渡した。なるほど確かに独白している。
──『これで奴を殺せたはずだ。フフッ。このトリックは誰にも見破れない…。例えあの探偵でもな』
…なんでこういう人って無駄にフラグ立てたりするんだろう?
「ていうか、そもそもどうして未完なんですか?この小説」
「んー?打ち切られたみたい。最後の話の直後の号に載らなくて、図書室においてある限りそれ以降ずーっと載ってないから」
最悪だ…普通、探偵の謎解きの直前で打ち切るか?よっぽど酷いラストだったのだろうか。唐突なぽっと出のキャラが犯人とか。
「でもこの小説面白くてさ、作中の図書室とこの図書室の基本構造が似てるんだよ」
そう言って、先輩は何かのプリントに簡単な見取り図を書いてくれた。
───────────窓───窓──────
ドア
─────────│
│
カウンター │
│ 死体
│
─────────│
なるほど。現実の、僕たちがいる図書室には死体があるはずの場所に死体と張り紙をされたミッチーが置かれている。先輩は作中の事件現場の再現をしているのだ。
「ドアには鍵がかかっているんですよね?」
「そ。でもこれは教室に使われるレベルの鍵だから破ろうと思えばいくらでも突破する方法はあるよ」
僕らの高校で使われている鍵は、中学校や小学校で使われている鍵と大差ない。一応教室ごとに違う鍵があるのだが、鍵と同じサイズの鉄板があれば開くと噂されている。
「じゃあ密室でもなんでもないですね。犯人は簡単に被害者を殺せるんじゃないですか?」
「ところがどっこい」
先輩は首を振った。使う人初めて見たよ「ところがどっこい」。
「無理なんだよ、犯人には。───絶対に」
「どうしてですか」
つまり、まだ提示されてない条件がある。
「犯人はわかってるって言ったよね。犯人とは違う人物がドアの外で待っていたの」
うわぉ。なぜこれを言い忘れるんですかね。絶対わざとでしょこの人。
「その人が共犯者だっていう可能性は?」
一応訊いておく。とはいえミステリーとして考える以上、その蓋然性は他と天秤にかけても低い。
案の定先輩は首を振った。
「私もそう思ったけど、作中ですでにその点は指摘されて否定されてる」
でしょうね。そんな簡単な話がトリックな訳がない。
「じゃあ、ドア以外から侵入したわけですね。ちなみに殺した方法は何だったんですか?」
「それが、毒殺なの」
毒殺ね。じゃあ撲殺とかと違って誰でも殺せるわけだ。
でも──
「毒殺なら密室とか関係ない気がしますけど」
「ううん。被害者は近くの自販機でコーラを買って、図書室に入るまで開けなかった。これは確かだよ。作中に書いてある」
また作中ですか。よくネタを割る話ですね。
一応ページを番パラパラとめくってみる。なるほど確かに、図書室で買いたてのペットボトルを開けるシーンがある。
「あっ、そうだ。言っておかなきゃいけないことがあった。探偵役曰く、この事件の真相は季節に関係があるらしいよ。ちなみに季節は冬ね」
「冬にコーラ飲むんですか?」
「別に可笑しくないでしょ。私も普通に飲むよ」
寒くないのだろうか。まあ生温いコーラよりはマシかもしれないけれど。ひょっとして被害者は寒さで…いやそれはないな。
「さ、これで条件は全部提示したよ。早速、勝負を始めよっか。
勝負内容は至ってシンプル。この謎をどちらが先に解けるのか。──楽しもっか、頭脳戦を」
「上等です」
次から本格的な推理がスタートです