共同戦線と洒落込もうか
「よく私の考えていることがわかったね。もしかして以心伝心?」
「何わけわからないこと言ってるんですか。そこまで聞けば分かりますって」
僕はいい加減に中野さんの再現をやめてカウンターの自席に戻る。
「止めちゃうの?」
「疲れました。飲み物奢ってください」
「えー、今回も?」
「さも何回も奢ってくれたように言うの止めてもらっていいですか?」
未だかつて一度しか奢ってもらってないですよ。
「朽葉お前……仮にも女子に何回も奢らせていたのか…」
「龍宮さん…この人の言うことを真に受けないでください…」
「酷いなあ……わかばも、『仮にも』ってなんだよー。で?どうしてわかったの?」
「目立ちたくてキョロキョロしてるってことは普通に考えて、誰かに発見してもらいたくて自分もその誰かを発見したいってことですよね?」
これは前置きだ。と言っても先輩の推理を語ってるだけなので要らなかったかもしれない。
「ということは、誰かと待ち合わせをしてるって考えるのが妥当ですよね。そして、僕らは普段待ち合わせをするときにそんなことはしませんよね?」
「そうだと言い切れる?」
「いや極々稀な例外を知っていますが…それは置いておきましょう」
僕はその例外を思い浮かべる。奴は待ち合わせをするたびに何かしらの目立つ行動を取るのだ。本人曰く「秤が俺を見失わないようにするため」らしいが、その多くが服装に関するもので、服を見るくらいなら顔を見ればわかると言いたくなる。
「その例外は置いておくとして、普通はラインその他メッセージアプリで自分の現在地を送り合ったりするのでそんなことはしませんよね?」
「それをしていないということはできない可能性がある──なるほどな、筋は通っている。しかしだ──」
龍宮さんは釈然としない顔で続ける。
「──どうして、中野さんは私の傘を持っていたんだ?それも、ずっと昔に失くした傘を」
「「……………」」
それについて、僕たちは沈黙するしかなかった。
「何か仮説はある?」
何か目配せしてくる先輩。軽く息をつきながら返す。
「ないですね。決定的なものは」
様子から察するに、それは先輩も同じようだ。
仕方無い、か。そもそも僕にはそれを拒む理由はない。いつかのときと違い、勝負ではないのだから。そして、先輩もそれで解決できるなら構わないと思ったのだろう。別に先輩の側にも拒む理由はないはずだが。
「私も。じゃあ、私達には初めての───」
「そうですね……初めてですが──」
「「──共同戦線と洒落込もうか」洒落込みましょうか」
これは僕らの初めての協力。
これは僕らの初めての合力。
僕らのここでの体験に、意義を後付されたなら、それはきっとありふれた、力を合わせるということなのだろう。それはきっと使いまわされた、協力の尊さなのだろう。
そして、それはきっとどうしようもなく刹那的な『何か』なのだろう。まだ、名前が付くには早すぎる、ありがちで陳腐な『何か』なのだろう。
───それでいい。
なぜなら僕は──『陳腐』で『ありふれた』、平凡な物語が大好きなのだから。
そうして僕が紡ぐのは推理とも呼べない思いつき。
考えられるパターンの数々。
それらを蓋然性の最大公約数でくくって、天秤にかけて、あり得るものを抽出してゆく。
蓋然性と辻褄の天秤で、幾星霜のパターンから最適解を選び抜く。
正解のニアイコール、近似値たちを選び抜く。
先輩が再現するのは現場の状況、当事者の心理。
それらを辿ったその先の、ゴールとなるべき『答え』を見つけ出す。
現場の状況、人間の心理その全てを脳内でトレース。
ホワイダニット?ハウダニット?
それらは全て、たった一つの解放で解決される。
それらの答えは全て脳内でイメージした状況から読み取れる。
完璧に再現された状況は、複雑な思考を必要としない。
──ただ、見ればいいのだ。
自分が再現した状況を。
──ただ、感じればいいのだ。
自分が再現した心理を。
─────本当の推理パートは、ここから始まる。
次回から推理パートです




