初対面
コツコツ、頑張ります
僕、朽葉秤は困惑していた。
その理由は一重に僕の委員会にある。
我が式折高等学校では生徒全員が何かしらの委員会、もしくは何かしらの係に所属する習わしがある。
部活の方は全員が入部しなければならないわけではないけれど、中には委員会に係に部活に生徒会まで兼任する猛者が居るというのだから驚きだ。
何はともあれ、僕は無事に図書委員を押し付けられた。楽なものや目立つ役職はさながらバーゲンセールのように一瞬で売り切れてしまったからだ。
とはいえ図書委員就任を拒絶するための明確にして確固たる意志が僕にあるはずもなかったので、とりあえず神妙に図書委員の肩書を拝命しておいた。
「相方となる先輩がいるから未経験でも大丈夫だ……
といいねぇ?」
図書委員の担当となる司書の先生の談だ。初めての委員会のミーティングでローテーションが決まるやいなや僕のところにわざわざお越しになって、こう仰られた。これを聞いて不安が増したのは言うまでもない。
そして今、気が重いながらも図書室の扉をノックする。
ほんの少しだけ躊躇う。嫌な予感がしていたからだ。
けれど、僕は恐る恐る扉を開けた。そして後悔した。
そこで僕を待っていたのは──
──「死体」と書かれた紙を貼り付けられた某世界一有名な外来種のネズミの人形と
「……むぅ。上手く殺せないものね」
物騒なことを口走りながら考え込む女子高生の姿だった。彼女はこちらに背を向けているので顔は見えない。けれどかなり背が高いことが、男子高校生の端くれである僕よりほんの少しだけ低いだけだということが窺える。
「あのー、すみません…」
恐る恐る問いかけてみる。なんかもう直感が告げていた。やばい人だ──と。
「………」
うわぉ。返事なしですか。なんてこった。
「僕、一年の朽葉って言います。一応、金曜日担当の図書委員なんです。あなたは……?」
先程から嫌な予感はしていた。そもそもなぜこの人が図書室にいるのか。図書委員が開けるはずの図書室に。まだ開いていないはずの図書室に。
女子高生はようやくこちらの方を向いた。
少し長めの、流れるような艷やかな黒髪に白い肌。大きな茶目っ気のある笑みに、それと相反するように落ち着いた雰囲気を併せ持つ。
その横顔に西の窓から差し込む光が映って───掬に絶えない陳腐な表現を許してもらえるなら────とても神秘的とでも形容するのがふさわしいだろう。
その横顔は今、どうしようもなく救いようもないほど、優しく親しみ深い笑みを浮かべている。
───まあ、美人と言って差し支えないんじゃあないだろうか。
「私は二年の桜庭奏。君と同じ、金曜日担当の図書委員だよ」
──あぁ。やっぱりそうだ。
嫌な予感はストライクショットで的中したんだ。
「よろしくね。朽葉クン」
事件はまだ起きません(?)