おふだを剥がせば
第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞応募作品です。テーマは「おふだ」。
また謎ジャンルの話を書いてしまいました。人が死ぬのでホラージャンルにしていますが、怖くなかったらごめんなさい。
そこは山というよりも小高い丘のようなところだった。
今はきちんと整備され公園になっているが、その端には公園ができるずっと前から小さな鳥居と祠のような物が作られていた。
自治体と地元の学者が祠を開け調査もしたが、土着信仰なのかよくわからないままだ。
だから時々手を合わせたりする人もいるが基本的にはその祠には誰も気を留めなかった。
ある日、その鳥居に千社札が貼られていた。
千社札は迷惑なものとして昨今禁止している神社仏閣も多いが、そもそも神社かどうかも怪しい祠に貼られても剥がしたり怒ったりする人もいない。当然放置された。
すると一枚から、二枚目、三枚目と千社札は徐々に増えた。今ではかなりの枚数が貼られている。
いつからか、それらに混じって奇妙なおふだが貼られていた。でもやはりそれを気にする人はいない。公園に遊びに来ていた子供達も殆どがそうだった。
「これなんだろ」
「なんて書いてあるか読めねー」
「なんかキモいな」
そう言って皆がそこから離れる中、一人の男子だけが興味を持った。何の気なしに剥がそうとおふだの角に爪を立てる。
「やめた方が良い」
突如、誰もいない筈の背後から声がして少年はびくりと振り返る。と、美しい女が立っていた。
「それにはね、凄いモノが封印されている」
女は不気味な声で言う。
否、正確には姿が若々しいのに声は八十を越えていそうなそれだから不気味なのだ。
「凄いもの?」
「そう。剥がせば魂を刈り取られ、この世には戻ってこられなくなる」
荒唐無稽な話をされ、呆けた少年に「説明はしたからね」と女は言う。
「何やってんの?」
友人に声をかけられ、少年はハッと我に返る。もう女の姿は見えない。
少年は友人達に女の話をするが、笑い飛ばされた。
「やべー、なんだそれ」
「ちょっと寝てたんじゃね?」
その言葉に反発心を覚えた少年は「じゃあ証明してやる」とおふだを剥がした。
何も起きなかった。
その場では。
笑い者にされた少年は、いつもとは違い独りで先に帰った。
悔しくて、悔しくて、涙で霞んだ目でよく見もせずに四つ辻に飛び出した。
そこにトラックが来ているなど知らず。
ピロン♪
「報酬が出たか。どれどれ」
女は空中でピンチインの動きをした。すると目の前に画面が開く。
「ふん、これだけか。まあ年が少し若かったしな。……さあ次はどこに貼ろうかね」
女は歩きだす。手にしたおふだには、この世のものではない言語でこう書いてある。
『異世界転生チケット』
女は「私のスキルは【他人を転生させるおふだ】でした。人の心を操って転生させまくった報酬で若さが!美貌が!お金が!笑いが止まりません」という小説の主人公です。
勿論架空の小説ですよ。
お読み頂き、ありがとうございました!
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