第5話 二人きり
電車に乗り、席に二人で並んで座った。言い方が悪いかもしれないが、住んでいる場所は過疎地の上に、夜なのでいつものことだが電車に乗っている人は誰もいなかった。
つまり車内に二人きりというわけだ。
さすがに隣に女子が座っていて二人きりというのに、全く緊張しないわけでは無い。しばらくの間、沈黙が流れていた。
「………雛瀬って明日は塾あるの?」
俺は気まずい空気に耐えられなくなったので雛瀬に話しかけてみた。
「ひゃっ! えっ………あ、ごめん………えっと、明日? 明日は………確かあったと思う………」
「そうなのか? じゃあ明日も待ってて良い?」
「………うん。全然良いよ」
待ってると言っただけなのに、とても嬉しそうにそう答えた。
「じゃあ待ってるわ。………あ、もうすぐ着くぞ」
「………うん」
ちょうど電車が駅に到着したようだ。俺はカバンを背負って、ドアの前に立った。
「帰り道どっち?」
駅を出ると2つに別れた道に出ので、一応聞いてみた。
「………あっち」
そう言いながら雛瀬は俺の家の方とは逆の右の方を指さした。
「あぁ、逆か。じゃあバイバイ、また明日ー」
軽く手を振りながら言うと、雛瀬も少し恥ずかしそうに小さく手を振って「ばいばい」と言って帰っていった。
家の方へ向かって、小さくガッツポーズをしながらスキップで帰っていく雛瀬の後ろ姿は、何故か嬉しそうに見えた。
「……あぁ! 明日塾終わる時間遅かったんだ! 雛瀬に言うの忘れて……あ……」
慌てて振り向いた時、もうそこには雛瀬の姿はなかった。
「あぁ〜……、まぁ、明日でいいか」
俺はカバンからイヤホンと音楽プレイヤーを取り出して耳にはめると、家に向かって歩き始めた。
「なんかちょっと緊張したなぁ………。なんでだろ………」
電車で二人きりだったからだろうか。いつも会う教室では感じたことのない気持ちになったのだ。
「まぁ、なんでも良いや」




