第1話 終わらぬ課題
「………おおぉぉぉ!」
夏休みの宿題が終わっていなかったオレは、放課後学校に残って課題をやらされていた。
「クッソ………マジで終わる気配しねぇ……」
そう呟きながら、少し休憩しようとシャーペンを机に置いて伸びをした。
それと同時に、後ろから誰かの声が聞こえてきた。
「ほら、早く終わらせないと日が暮れちゃうでしょ! 伸びなんかしてないでやらないと」
雛瀬だ。
黒髪のショートボブで、学年一可愛いとか言われている。
性格は超絶シャイ。いつも教室の隅っこで本を読んでいる。誰かと喋っているのは見たこと無い。
でも、学力はトップクラス。
だから結構モテてるらしい。
「いやぁ、集中力持たないんで」
「無理にでも集中してやろうよ」
「まぁ、実はオレ天才なんで。本気でやれば数分で終わっちゃうの。だからダイジョブ」
シャーペンでペン回しをしながら、どや顔でそう答えた。
「じゃあ本気でやってよ」
「え……っとですね。実は今手を怪我していまして……」
「やれ」
「はい。」
それから2時間後。ようやく数学のプリント一枚を終わらせることが出来た。
なぜかオレの宿題が終わるのを待っていた雛瀬は、塾の時間に間に合わないと言うことで30分ほど前に帰っていってしまった。
「なんで待ってたんだろう………まぁ良いか。そろそろオレも帰ろっかな……」
カバンに筆箱を投げ入れて、チャックを閉め肩にかけた。その時、後ろから誰かの声が聞こえてきた。
「あれ、雛瀬いないじゃん」
面倒臭いやつが来たぁぁぁ!
オレは心のなかでそう叫びながら、返事をした。
「………さっき帰ったぞ?」
「あ、そうなの? 今日こそは一緒に帰るぞ、とか言ってたのにな」
「塾らしいぞ。てかなんでオレなんかと帰りたいんだよ」
「………さぁ〜? なんででしょうねぇ」
「はぁ………まぁ、なんでも良いか」
いつも謎に雛瀬の話をよくしてくるこいつは、山下海人だ。
「ま、いいや。一緒に帰ろ~! クラブサボってきたから」
「おう………。てか、そんなにサボりまくってて大丈夫なのか?」
「夏休みの宿題未だに終わってないヤツよりは大丈夫」
……くっ。言い返せない!
もうすぐ冬休みだってのに、宿題終わってないんだからな。
「よし。帰ろう!」
そう言って家に向かって歩き始めた。
「おい! 無視すんなよ………」
次の日
教室のドアに手を掛け、ゆっくりとずらして教室に入った。そして、小さい声で挨拶をした。
まだ朝早いので、教室には海人一人しかいなかった。
「おはよ」
「おぉ! おはよう! 陽翔!」
会とはオレが挨拶をすると、決まって大声で挨拶を返してくれる。
「相変わらず声がでけぇな……」
オレは両手で耳を塞ぎながら、海人にそう言った。
「悪かったな!」
そう言いながらオレと肩を組んできた。
「暑苦しいわ。どっか行けよ!」
「………まぁまぁ。良いじゃないの。コレぐらい引っ付くぐらい許してよ〜」
「ジュース奢ってくれるなら許す」
「えぇ!?」
そう言うとパッと組んでいた手を話した。
そんなしょうもない会話をしていたとき、後ろの方から急にあいさつをされた。
「おはよう」
後ろを振り向くと、顔を赤く染めた恥ずかしそうにしている雛瀬が居た。
「ん? あぁ、雛瀬か。おはよう」
「………雛瀬か……ってなによ………悪い?」
「いや、そうじゃなくて挨拶されてビックリしただけだけど………雛瀬が挨拶してるの初めて見たし」
「………」
そんなやり取りを始めると、なぜか海人が逃げるように離れていった。
「海人?」
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
まだ朝早いので、教室にいる生徒はオレと海人と雛瀬だけになった。海人が離れていって二人っきりになったので地味に気まずい。
「………終わってない夏休みの宿題やるわ」
「………えっと………わからないところがあれば………教えようか………?」
「うん。《《あれば》》教えて。まぁ、オレ天才だから分からないところなんて無いんだけどね」
そんな冗談を言いながらオレは机に座り、新品の夏休み数学冊子の1ページ目を開いた。
「………助けて」
「………えぇ。ホントに?」
「………すまん」
雛瀬はたったの2分で、バカにも分かるように教えてくれた。
「解けたぁぁぁ! ありがとう!」
感謝を伝えると、雛瀬が恥ずかしそうに視線をそらした。
「………いいよ」
「雛瀬ってなんでオレには勉強教えてくれるんだ? 他の子が教えてって言っても無視してるじゃん」
「え………」
え………? どうした? 何で急に静かになるんだよ……
「いや………別に………」
「まぁ、オレは勉強教えてくれるの嬉しいけども」
「嬉しい………?」
「うん」
そう言うと、何故か雛瀬は教室を出ていってしまった。
出ていく時に「嬉しい……」と、何度か呟いているのが聞こえた気がした。
何が嬉しかったのかわからないけど、気を取り直して数学冊子を進めようとペンを握り直した。
「あ………ちょっと雛瀬ぇ! 今のところ忘れたからもっかい教えくれ!」




