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8.北の平原にて

 朝の森は澄んだ空気が漂っていた。


 シャルは俺が寝ていないのを少し気にしているみたいだから暴竜の恐怖が過ぎ去ったと思って外に出始めた爬竜種を一刀の下に殺して元気だと伝えた。


 最近久しぶりにスキルレベルが上がったから意識すればいつもより刀を扱えていると認識出来る。暴竜との戦いではそんな余裕無かったからな。

 若干引かれた気がしたけど無視して森を真っ直ぐに進むと半日程掛けて抜け出す事が出来た。


 見た所平原ではあるが、これ以上進むとなると村長の占いから外れると思ってキャンプ地に適した場所を探すとかなり太陽が傾いた頃に湖を見つけたからその周辺に陣取って焔王龍が現れるのを待ったが、来なかったからシャルが釣りで魚を確保してくれたので焼いて食べた。


 今日もまた夜を迎えて、朝を待つ事になった。


 平原は森と比べると比較的安全度が高い。爬竜種が大移動でもしない限り龍も通過地点としか思わないから草食竜を求めた肉食ドラゴンが現れる程度。

 そう思って寝ずの番をしていると草食竜の群れが北からやってくる。数は大体五十と言った所で、俺達からは離れた所でのんびりと歩いているのが見える。


「草食竜の移動は避難を意味するらしいが、焔王龍の兆しか?」


 戦いは都合良く昼間に起きる訳では無い。

 何度か狩りに出ているが夜に戦ったドラゴンも存在する。狩人は夜でも目が効くから支障無く戦えたが、焔王龍が相手ともなれば仮に暗闇で戦っても見えるだろうな。


 焔王龍は王の名を冠する生態系の頂点。脅かせる存在は数が限られてくるから基本的に動き回れる内の王は強い。刄王竜の特徴は身体的なもので硬い表皮に鋭い角や爪だが、同じ王でも炎王竜の場合は鉄すら溶かす高熱のブレスが最たるものだと思う。


 今の愛刀になる前の刀――鉄鉱石と鋭鱗竜の鱗を合わせて造られた刀を、息耐える寸前の仕返しとしてら放たれたブレスが掠めただけで鋒が溶けて壊されたのは今でも思い出せる。

 死の間際でなかったら俺が死んでいたかもしれないからな。


「村長の依頼なら遅くても明後日には現れるだろうし、草食竜の土産でも持って帰りますかね。あんだけのんびり歩いてるなら近くに脅威は居ないだろうし」


 幾ら草食竜の危機察知能力が優れていてもテントから離れる事に変わりは無いからシャルを起こす。


「アーサーくんの代わりに――」

「あそこの草食竜狩ってくるから、念の為に起こした。行ってくる」

「え、あ――」


 何かを言おうとしたシャルを無視して草食竜の群れへと荷車を引いて駆ける。


 大方寝ないのかとかそんなものだろうから無視するのが一番だ。知り合いの狩人に俺のスタイルを話したら遠い目をされた。

 とにかく俺は村の子供が俺みたいに肉を食えない幼少期を過ごして欲しくないから依頼のついでに仕留める。


 六年も狩り出ていればこの程度の余裕は生まれるから、つい生まれたての次世代について考えてしまう。


「この前みたいに頸を落とした丸々一匹とは言わないが、三匹程度には犠牲になってもらおう」


 刀を抜いて一匹の頸を落とせば突然の仲間の死を感じて群れが騒つくのが伝わる。幼い個体は血の匂いに慣れていないのか混乱して鳴き声を上げている。


 それでも人類を衰退に追いやったドラゴンの一匹かと思いながら俺を敵と見て頭突きをしてくる個体を避けてすれ違い様に頸を落とす。


 全ての個体が逃げる選択をした所為か目的の三体に届かないと思っていたが、運の良い事に小さな個体が遅れてやって来たのを見て仕留める。

 はぐれた個体は倒しやすい。特に戦いに向いていないドラゴンはそうだ。反面、群れを作る爬竜種のはぐれた個体でも油断すれば肉を抉られる一撃をもらう事は良くある事らしい。


 その場で解体して肉を積めば成体二つ、幼体一つ。本当なら生体三つが目標だったが、それでもかなりの量に変わる。

 竜皮紙の素材として皮も綺麗に剥ぎ取ればそこそこの重さが生まれる。


 俺の身体に合わせて改良を重ねて拡張された荷車が重くなると仕事をした感じが出るから嫌いじゃない。


 それに今回はシャルという代わりの運転手も得られたから俺は遠慮無く素材を積み込む予定だ。確か初めて焔王龍を仕留めた時に耐寒性能の高い防具が作れそうだと職人達が言っていたからな。


 今更だが、ドラゴンはその呼び方で分けられている。

 先ず空を縄張りにする龍と、大地を縄張りにする竜。

 そこからさらに龍であれば焔王龍や華閃龍など、竜であれば刄王竜や鋭鱗竜とかに分かれる。後は色違いの個体は亜種とか言われる。


 俺は大型のドラゴンはきちんと覚えてるけど爬竜種は色違いだけじゃなくて骨格ごと違ったりするからまとめて爬竜種と呼んでいる。


 キャンプ地に戻るとシャルが引いていた。

 草食竜相手なら簡単に倒せるだろと言えば俺の速さは異常だと返された。


 刀と弩砲では勝手が異なるだろうから俺は普通だと言っても信じてもらえなかった。


「ソムノプスも一応ドラゴンだからね」

「お前は草食竜をそう呼ぶのか」

「他にも草食の竜は居るからね。一番復興の進んだ地域だとドラゴンに名前付けたり特徴を記した本があったりで楽しかったなぁ」


 俺もそういう場所に行きたい。発達してれば武器防具の改良や新しい物も直ぐに出来るだろうから楽しいんだろうな。

 確か都会、と言うんだったかな。


「焔王龍もそう呼ばれる個体が居るから通じるけど、亜種も居るからあそこだと確か……プロメティオスだったかな。メスは色違いだからプロメティアス」

「面白いな」

「学者さんが居るからね。素材とハンターからの特徴で名前を決めてるんだよ。それにしてもこんな東の果てでも焔王龍っていう呼び方は浸透してるんだね」


 ドラゴンの名前よりも俺は今いる場所が東の果てという言葉に驚く。

 ユポポ村よりも発達した場所があるだろうからそこを中心としているだろうなとは考えていたが此処はかなり離れているのか。


「ここは東に位置してるのか?」

「うん。世界の真ん中は開拓都市オルガンにするのが普通だから、ここはかなーり端っこ。オルガンでも見た事ない個体が居るから探検してて楽しいよ! アーサーくんは村から離れて旅しないの?」


 シャルと出会うのが早ければ、その言葉に乗っかていただろうな。

 だがそれはするにはもう遅い。


「しないな」

「どうして? それだけ強いならオルガンでも優遇されるよ?」

「村のみんながドラゴンに殺されるのは許せない」

「……そっか」


 俺が思うに狩人の数は足りていない。


 シャルの口振りからすると開拓都市オルガン出身でも無いだろうから村を飛び出したと推測出来る。


 俺の即答は心に引っかかる部分に触れたかもしれないが、俺はそんな事でパフォーマンスを落として欲しくないからシャルに気にする事は何一つも無いと告げる。


「村の為って思えるのは凄いよ……」

「時間がそうさせた。俺もシャルに出会うのが何年か早かったらチームでも組んでその辺を彷徨うフリーの狩人になっていただろうよ。いい歳なんだからウダウダ悩むなよ」

「あ! 女性に年齢はタブーだよ!」

「暴竜に触れる方がよっぽどだ」


 人の年齢なんてどうでも良いだろうに。

 俺の周りには歳の差があっても結婚して子を成すのは結構当たり前だし、姉二人は昔から見た目が変わらないから何歳なのか尋ねたら百は超えているとか冗談を返してくるし。


 やはり僻地だから都会的な人間との価値観は違うのだろうか。俺としてはドラゴンを刺激して倒せない狩人の方が恥ずかしく感じるが。


「アレは仕方ないの!!」

「それに歳を気にする程老けてないだろ、二十三とかか?」

「え、そんなに若く見える?」

「少なくとも四十には見えないな」

「流石にまだそんなに歳取ってないよぅ!!」


 そんなやり取りをしながら夜を過ごしている内に、二人で森から上る朝陽を目にした。夜を塗り返す太陽は見ていると安心する。


 俺は朝陽を見るのが嫌いじゃないから朝食用の魚をシャルと一緒に釣っている最中に眺めていると、俺の餌に魚が掛かったらしくシャルが代わりに釣り上げてくれた。

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