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3.スキル

 ベッドに横になってそのまま翌日まで眠れたみたいで小さな窓からは朝陽が覗く。

 誰かが掛けてくれた――誰かは大体分かるが――布団から出る。


 テーブルには差し入れとして作られた料理が置いてあったから食べると、やはり鮮度の高い肉は美味いなと改めて思わさせられる。

 出来る事なら昨日の内に食べたかったが、一狩りした後の眠気には抗えなかった。


 今日は村人として村に貢献する用事は特にない――正確には狩りの翌日は休息の一日とする事が最早お決まりとなっているから俺としても無駄に外に出て何かをする気にはならない。

 無駄が嫌いなだけでもしかするとこの後外に出る、なんていう事は偶にある。


 そうなると何をするかだが、届いている肉を焼いて食べるだけではない。寧ろ狩りの後には大事な事がある。


 それはスキルの成長。


 ドラゴンが現れる少し前に人間亜人問わずスキルと呼ばれるモノが発現した。大体はその人の得意な事がよりやりやすくなるといった内容だが、中には特異なモノも存在する。

 その最たる例が、この村では俺。


 ドラゴンの縄張りとなった結果開拓外領域と呼ばれる様になってしまった、かつては普通に人々が訪ねる事の出来たフィールドでドラゴンの脅威を跳ね除けて行動出来るスキルの持ち主。


 俺のスキルは『狩人:祖龍の系譜』。

 山を越えた先の村にいる狩人は普通の『狩人』らしいが、俺は未だに後半の意味を知れないでいる。いつか分かる時が来ると良いのだが、多分知れないまま終わりそうな気もする。


 まあ、それは置いておくとして。


 スキルは成長する。

 ただし勝手に成長するのは稀で、基本的にはスキルポイントと呼ばれるそのスキルに関わる行動をして得られるポイントを振り分ける事で成長する。

 他にも成し遂げたモノに由来して勝手に()られるスキルもある。俺も大型のドラゴンを倒してるからそういうのはそこそこ覚えていたりする。


 そういう例外を除いて、スキルにはスキルツリーと呼ばれる枝分かれした成長の道が存在する。

 だからポイントの割り振りはかなり重要となってくる。


 大きな一本の枝を伸ばしながら分岐した枝に力を入れる人も居れば、満遍なく広げていく人も居る。


 スキルの成長は目を閉じて念じれば己の精神世界に入れるからそこで行う。それが普通とされているからベッドに横になって目を瞑る。


 俺のスキル成長方針は他には目もくれず一番長い枝に力を注ぐもの。分岐した先に有用なモノがあっても初めて触れた時からコレのみに力を注ぐと決めた。


 姉代わり二人曰く極振りと呼ばれる行為だが、それで上手く行ってるから俺はこのスタンスを変える気は全く無い。


 今回の刄王竜討伐はかなりのポイントが貰えたから久しぶりに俺が上げている唯一のスキル――斬術を上げられた。

 スキルツリーは末端に行く程要求ポイントが高いから最初の頃と違って大型のドラゴンを何体か狩らないとスキルレベルが上がらなくなってきている。

 このペースだと次に上がるのは結構先かもしれないな。


 久しぶりにレベルを上げられた事に満足していると、スキルレベルが上がってアーツを覚えられたのかその情報が流れてくる。


 アーツはそのスキルでの、謂わば技。


 先の刄王竜討伐の際に最後に俺が一刀の下に斬り裂いたのもアーツによるモノで、アレは断割というアーツ。俺の技量に応じて真っ二つにする技だから表皮を集める時には使わない。

 その威力は断ち割るという名前の通り一撃必殺に近いが、ソレに至るまでに消耗するであろう刃を犠牲にするから刃毀れが激しい。


 だから普段は使わないが、あの個体には使わざるを得なかった。


「さて、今回は……」


 アーツの習得は必ず起こる訳では無い。


 だけど今回得たのは二つ。

 スキルレベルがキリの良い数字になったからか、一つの道を突き進んでるからか。一気に二つ覚えるのは久しぶりだ。


 得られたアーツは「闘気」と「飛剣」。


 闘気は攻撃を強化するモノらしい。

 大きく分けて五段階あるらしく、初めから一定の闘気を持って戦えるそうだが、攻撃を当て続けるとより洗練された闘気を得られる仕組みになっているそうだ。

 後は感情にも依存するらしいから戦う気持ちが無いと闘気は収まるとも説明があった。


 肝心の闘気の効果は武具の性能強化と自身の活性化、あとは闘気の練度によって弱い存在を威圧出来ること。闘気を纏ったモノは全てが一段階以上の強化となって表れるらしい。


 狩人はそれだけで自然治癒能力が高いから薬師の薬液を使わずとも一定の回復はする。だけど闘気があればそれ以上の回復をより早く行える。戦う身としてはかなりありがたいアーツだ。


 続いての飛剣はその名の通り、斬撃が飛ぶらしい。

 射程までは教えてくれないが、剣の振りに影響されると考えると完全に空に逃げた龍以外にならかなり便利なアーツとも言える。問題は威力がどれだけ落ちるのかだが、このレベルで覚えるアーツが弱いとは思えないから期待値は高い。


 今の武器は愛刀ではないけど、鉄刀でどこまで出来るのか把握しておく事も大切だ。

 刄王竜との戦いの後みたいな状況が今後現れないとも言えない。だから自己鍛錬とアーツの性能チェックは欠かさず行なっている。


「さて、やりますか」


 鉄刀を持って外に出る。

 藁人形のスペースは周りに壁があるから誰にも見られずに安心してアーツを使う事が出来る。壁が無かったら断割とかの余波が影響してご近所さんに要らぬ迷惑を掛けるからな。


 とりあえず闘気はやる気。

 そう思って藁人形を敵だと考えてみると、身体の内から徐々に白銀のオーラみたいなモノが湧き上がる。


 藁人形を実際の敵として認識するにはかなりの思い込みが必要だからこの程度なのか、それとも実際に敵と遭遇してもこれだけなのか。

 とにかく自分から流れる闘気を感覚で操って鉄刀に纏わせると、刀が淡く輝く。


「ハッ!」


 試しに藁人形を斬ってみれば驚く程簡単に斬れる。


 代償に刃毀れなんかはしないし、これはかなり強いと思った。そのまま藁人形を刻めばあっという間に無くなる。敵と見做したモノが消えたからか闘気も鎮まる。

 刀を鞘に収めると闘気の火種とでも呼ぶべき気配まで鎮まる。武器を抜いた時が発動条件なのか、はたまた敵が居る事が条件なのか。この辺の説明が無いからアーツは確かめなくては実戦で失敗する事もあり得る。


 今のところ俺はそんなミスはした事無いけど。


「藁人形の追加生産頼まないとだなぁ」


 スキルやアーツについては完全に説明されないのが普通だったりする。だから俺は鵜呑みにしないでこうやって試しているのであって、とにかく何でも斬り刻みたい狂人なんかではない。


 斬術のレベルを上げると何かを斬りたいという欲求は確かに高まるけど、まだ普通の狩人だと信じたい。

 今度姉代わりに話すのもアリかもしれないが、あの二人は俺とかとは違う考えを持ってる節があるからそれで良いと言いそうだ。


 そんな事より。

 闘気は今後の戦いでも有利に働くであろう事が判明した。


 強いアーツは歓迎だ。俺は開拓外領域からみんなの為に肉を持ち帰るヒーローなんかではない。俺は俺が探検したいから動いてるに過ぎない。


 俺のやりたい事と村の利益が偶然合致してるから、今が成り立ってる。村の外に出られないなんて考えたら、俺はどうにかなってしまいそうだ。


 さて、次に試すのは飛剣だが、この場所では距離が限られる。

 山を越えた所の狩人は弓をメインに扱うが、そいつが言うには遠距離武器は距離で威力は変わるというもの。


 近過ぎても、遠過ぎてもダメ。

 その原理に倣うのなら適正な射程が存在する訳だがそんなモノを此処で測れる筈もない。


「とりあえず放ってみますかね」


 距離を取ってアーツを使う意識をする。集中してから鉄刀を勢い良く振ると光を伴う三日月状の斬撃が飛ぶ。

 藁人形は綺麗に切断されているから斬れ味は変わらないか、上がっているか。


 俺には遠距離の攻撃が無かったからこれもまた嬉しいアーツだと思っていると、アーツは掛け合わせられるという山越え知人狩人の言葉を思い出す。


 俺のアーツは基本的に掛け合わせるのは人間ならばあと腕が二本欲しいという結論だが、鋼風龍を倒して得た真空波と闘気、飛剣を合わせれば面白い事になりそうだと思い付く。


 鋼風龍を倒して得た真空波は刀を抜き放つ際に生じる空気の流れから鋭利な見えない斬撃を生む抜刀術の一つ。

 既に半分になった藁人形に向けて三つのアーツを掛け合わせた一撃を放つと予想以上の威力が生まれる。


「これは、名前を考えないといけないタイプの技だ……!」


 幸い藁人形の後ろは壁が無いから被害は少ないけど、藁人形が消し飛んだ事実を前にして俺は新しいワクワクに胸を膨らませた。


 他にも何か出来ないかと考えていると家の中からクゥの餌を催促する声が聞こえたから中に戻った。

 クゥの好みな魚が無くて焦ったが、肉をあげたら機嫌が良くなったみたいで安心した。

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