表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/31

2.村に帰還

 荷車を引いて道を歩く事数日。

 道中、ドラゴンに襲われる事も無く平和に帰り道を歩いていると薬師の調合に使う薬草が生い茂る箇所を偶然見つけたから採れるだけ採って腰のポーチに仕舞う。


 そんな事をしながら歩くとようやく俺が居を構える村が見えてくる。


 その近くで偶然大きめの眠る草食竜を見つけたから鉄刀で頸を落として余っている縄で荷車の後ろに縛り付けて運ぶ。

 新鮮な肉は村の活力だから、これは予想外の手土産が手に入ったな。


 解体の手伝いには顔を出そう。手伝えば差し入れとかしてくれるし、俺は料理出来ないからこういう村人とのコミュニケーションは大事だったりする。

 俺が肉を扱うとなると串に刺して直火で炙るのが限界だ。実際開拓外領域ではそれで過ごす事も多い。


 俺の住む村はドラゴンという存在が現れる前は交易の中間地点の様な街だったみたいだが、今では三十に満たない村人が運営するドラゴンの被害に毎日怯える、しかしそれでいてやる気に溢れた村だ。


 かつての街の名前は失われており、今ではユポポ村という名前で親しまれている。名前に意味が込められているのかは今ではすっかり忘れられているが、その名前だけが伝わっている。


 俺は外に出て狩りが出来ればそれで良いから余り気にした事は無いけど。


 ゴールまであと少し。


 そうなればドラゴンの被害も少しは薄れるが、村の柵に小さな傷が付いているのが目に入る。

 爬竜種が現れた可能性が高い。男衆に柵の強化を進言した方が良さそうだな。


 そんな感じで荷車を引いていると、村の入り口近くで遊んでいる子供二人が目に入る。向こうも俺に気付いたのか駆け寄ってくるが、俺としては大人の目が届かない場所には出て欲しく無いというモノで。


 だけど小さな村に閉じ込めるのも子供には無茶な話だって分かる。俺も小さな頃は開拓外領域でドラゴンと戦っていたから、強くは言えないが少しは注意しようとするも、明るい笑顔で俺の元へと来るものだから何も言えなくなってしまう。


「にいちゃん!」

「おかえりー! 肉は!?」

「ああ、あるよ。今回は少し多めに集めたからな。今夜は新鮮な肉が食えるぞー」


 俺がそう言うと子供二人は瞳を輝かせて俺と共に歩き始めた。

 この子達は開拓外領域に適したスキルを持ってないから俺の様には戦えないけど、それでも男の子だから手頃な木の枝でチャンバラをしていた。


 年相応だと思っていたけど木の枝はもう要らないのか投げ捨てると荷車を見ながら後ろ向きで歩く。

 危険だから前を見ろと言っても聞いた試しが無いから何も言わずにいると先に俺に声を掛けた子供――ルゥが両手を広げる。


「にいちゃんみたいに外に行けたらなぁ」


 その言葉はもう片方の男の子――カレェも同意見なのか歩きながら武器を扱う様な手振りで俺に問いかける。


「今度簡単な依頼着いてっちゃダメ?」

「ダメだ、何があるか分からないからな。それよりも――いや、なんでもない」


 村の為に――そう言うのはまだ早いだろうと言葉を紡ぐ事を辞めた。十にも満たない子供に外への期待を無くさせる言葉は俺には出せない。


 まだ子供で、ドラゴンの恐怖を正確に理解していないから出る意見だなと思いながら荷車を引っ張る。


「とにかく連れてくのはナシだ」

「ちぇー」


 二人が揃って拗ねたのを見るも、このやりとりは何度も繰り返しているから二人は直ぐに機嫌を戻す。


 村の広場まで荷車を押せばワラワラと村人が集まってくる。

 俺が外に行かないと新鮮な肉は手に入らないし、何より俺の存在は村を安定させると村長が言っていたから俺は明るい笑顔でみんなに告げる。


「今回の狩りも成功だ! 肉と素材の配分はいつも通り任せるよ!」


 その言葉に各家庭のご婦人方が肉に手を伸ばす。草食竜が一匹荷車の後ろに居たのを見た何人かは眼が燃えていた気がする。


「柵に傷があったからなるべく早く直した方がいいと思うよ」


 その言葉に男衆は任せろと言って村を囲う柵の修理へと向かい始めた。

 多くの男性は小型ドラゴンを殺すには至らないけど撃退させるだけの弓の腕前だから暫くは歩きでの見回りの頻度が増えるかもしれないな。


 櫓からの視認だけでは抜けもあるのは当たり前な話だ。男衆が村の防備を怠らないから俺も帰る家があるってもんだ。


 それよりも今回の狩りは刄王竜の角と爪がメインだったから工房の連中が刄王竜の素材を手にして戻っていくのを見ると、俺とそんなに歳の変わらない青年が俺に近寄る。


 幼馴染とも呼べる仲で、未来の工房長。


 腕は確かでこいつに任せれば大抵の事はどうにかしてくれるから俺はかなり頼ってる。かつてはドラゴンを倒せるのを羨ましいと言われた事もあるが、俺としては武器を作れる技術に頭が上がらない。


「アーサーよお、見た事もねぇくらいでけぇ角だが、ほんとに刄王竜か? 亜種って言われても俺は納得出来るぜ」

「正真正銘刄王竜だ。今までの個体より一回り……それ以上か? 大きかったけどな。それと、こいつの事研いでくれよ」

「げっ!! お前アーツ使ったのかよ! こりゃひでぇ……」

「直せないのか?」


 俺がいやらしく問うと、刀を預かって声高に宣言した。


「このモールデン様に直せねぇ武器なんざねぇよ!!」

「ははっ、そうか」

「だが少し時間寄越せ。流石にこれだけ刃毀れしてたら直ぐにとは言えねぇな。次の狩りがいつかは知らねぇがそれまでには直しといてやるよ。新しい刀は親父達が試行錯誤するだろうから時間が掛かるだろーがなってぇ! その左腕はなんだぁ!?」

「あ、そういえばやられたんだよ。これも直してくれ」

「補強して更に硬くしたやんよ!」


 そう言ってモールデンは工房に戻って行った。

 新しい刀にも期待しているが、今の刀でも充分事足りるからのんびり最高な一振りを作ってくれと思いながら見送る。


 すると婦人会のリーダー――アリアさんが俺の肩を叩いた。アリアさんは俺の正式な初陣を認める為に貢献してくれた人だから、なんとなく頭が上がらない。

 どうかしたのかと問うと、頭の無い草食竜についてだった。


「中々の大きさで、私らだけだと解体出来なくてねぇ。手伝ってくれるとありがたいのだけど……」

「勿論! 俺も解体して持って帰れば良かったですね。竜の解体は慣れてるんで任せて下さい」

「ごめんね、帰ったばっかりなのに」

「ははっ、気にしないで下さいよ。それに、そいつの解体は元々手伝う予定でしたから」


 嘘ではない。

 明日やろうと思っていたが、やはり鮮度は大事なのだろう。俺も美味い肉の為ならと思えば腹の底から力が湧いてナイフを握る手に力が入る。


 婦人会の人達と協力しながら解体を進めると、各部位無駄にせずに分ける方に成功した。今はお昼を少し過ぎたくらいだから、分けられた肉は今夜にでも出る事だろう。


 婦人会の主な仕事は食糧の分配とか燻製など。詳しい実態は知らないけど、この人達が居るから俺達村人は飢えずに済んでいるという面もある。

 後俺が居ない間は俺の家を掃除したりしてくれて大変助かっている。


「アーサーくん、かなり鮮度が良いけど帰りに仕留めたの?」

「村の近くで眠ってたんで、丁度良いからゲットしちゃいました」

「これだけ鮮度が良いお肉は久しぶりだから旦那も喜ぶわぁ。また仕入れられたらお願いね?」

「ははっ、その時は任せて下さい。それじゃあ俺は戻りますね」


 折角だから左腕に力瘤を作って応えておいた。


 村の一部から湧き出る温泉の隣に立つ小さな小屋に向かい、中に入って装備一式を取り外す。鋭鱗竜の素材から作られた防具を突き破って腕に傷を付けた今回の個体はかなり強かったと振り返ってポーチをベッドに置くと採取した薬草が溢れる。

 そういえば採取したなと思い出して今から薬師連中に渡すかと考えたけど今日はもうゆっくりしたいから狩り人の特権で得た温泉に向かう。


 先に返り血などの汚れを落とす為に身体を洗ってから中に浸かると、心地良い温度の湯に包まれる。

 狩りの後のこの時間は落ち着くと考えながら過ごしていると、俺の唯一の同居生物である温泉ペンギンのクゥが肩を並べて湯船に浸かる。


「ただいま、クゥ」

「クゥー」

「気持ち良いよな」

「クゥ!」

「俺はもう出るから、上気せない程度にしとけよ?」

「クゥワー」


 身体の水気を取って碌に着替えないでベッドに倒れると、誰かが布団を掛けてくれたのを感じたけど、確認せずに眠気に身を委ねた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ドラゴンに焦点を当てた作品ですか、かっこいいですね。冒頭から始まる戦闘描写は痺れました。ドラゴンを使った武器ってかっこいいですよね。自分はドラクエが大好きなので、よくゲーム内でドラゴンシリーズの武器を…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ