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18.春の狩り

 新たな働き手を見てから二日。

 シャルの仕留めた一匹の草食竜がそろそろ尽きそうな頃。朝早くに俺は村長の家に呼ばれていた。内容は書かなくても分かるが、話はちゃんと聞いている。


「草食竜はやはり私達の村には欠かせない存在だ。少し多めに狩ってきてもらえないだろうか? 勿論アーサーの気が向いたらで構わないよ」

「いやぁ、そろそろ動かないとって思ってたんで丁度良い話ですよ。春の外は綺麗なもんですから、観光ついでに仕留めてきますよ」


 そう言って席を立つと、村長が今から出るのかと問うから勿論だと答える。

 今日は今から出ないと間に合わないだろうし、何より春は始まりと同時に別れの時期でもある。


「気を付けるんだよ」

「了解」


 そう言って村長の家を出ると、装備を整えたシャルが俺の家から出てくる。村の活動が始まってマラヤから弾を作ってもらったと言っていたし、俺がその立場ならそうすると思う。


「アーサーくん、おはよ!」

「おはよう、シャル。もう出て行くんだな。俺も装備を整えたら草食竜を狩りに出る。またいつか会えたら、その時はよろしく頼む」

「……アーサーくんは止めないんだね」

他人(ひと)の自由を止められる程、俺は偉くない。それに俺が思うに、狩人は自分の意思に反する行動は出来ない。今まで旅を続けてきたシャルが出て行くのは必然だ」


 俺がそう言うと、シャルは笑って駆け出した。


 さよなら。

 その一言だけだったが、共に一つの季節を過ごしたから淡白な言葉には聞こえなかった。


 大切な想いが込められていそうなソレは、だけど俺には良く分からない。


 家に戻るとクゥが魚を食べていた。

 テーブルの上に置かれた装備は磨かれていて、シャルは俺とクゥに何かを残していったのだと再確認し、装備を身に纏う。


「行ってくる」

「クゥワー」


 村に置かれた荷車を引っ張って、外に駆け出す。

 久しぶりに引く荷車だが、問題無く動ける。


 今回の狩りは採取メイン。


 肉もそうだが、見ていると鉄も少なくなっていると感じた。だから西の岩壁をメインに活動しよう。

 あそこは鉱脈があるのか様々な鉱石が取れる。知らない鉱石は工房連中に喜ばれるから、悪くないだろう。


「焔王龍に適した鉱石でもあればナイフの一つは作れるかどうか。端材がどの程度出るのか聞けば良かったな」


 甲殻や鱗をそのまま利用する防具とは違って、武器は研磨剤やコーティング用の鉱石が必要になってくる。

 今の所研磨剤として優秀なのはかつて人間が栄えた時代にも使われたとされる星の結晶。


 小さな生物の死骸や特殊なドラゴンが吸収するとされる液体状の物質などが堆積して作られたもの。


 殆どの物は無色透明だが、何かしらの理由で色が付いた物は高価な装飾品として知られている。

 色が付く理由は不明。色付きは星の涙と呼ばれて区別される程度には珍しいそうだ。


 そんな訳で荷車を引いて二日。

 西の岩壁、その近くにあるいつもキャンプ地として利用するポイントに着き、岩清水が流れる場所から水分を補給して荷車を置く。


 西の岩壁は荷車を引くのに適した構造はしていない。

 段差が多く、隙間に落とせば今までの苦労が無に帰る。だから俺は岩壁では袋を利用して活動している。


 マラヤの錬金で作った竜皮の袋は大容量で丈夫。

 戦う時に下に置けば、荷車と違って直ぐに戦闘に移行出来る。流石に大型ドラゴンを解体して全部を入れるのは不可能だが、採取メインならコレで充分。


 袋を担いで岩の足場を跳ねて動けば、様々なドラゴンが生息する岩場に到着する。


 竜種がいる。

 龍種もいる。


 肉になりそうなドラゴンが春となってから本格的に動き始めたのだろう。中には食欲旺盛なドラゴンに襲われるドラゴンも居る。


 弱肉強食の世界が広がっていて、心が躍る。


「さて、俺も動きますかね」


 鉱石は先に取っては邪魔になる。一々キャンプ地に戻っては直ぐに日が暮れてしまう。


 それに逃げる時に知らない鉱石を落とすなんて真似は避けたい。

 だから先にドラゴンの肉を集める。


「あの龍は美味かった記憶があるが……村長は草食竜って言ったしなぁ。ドラゴンの肉なら許してくれないものか」


 刀を抜いて白銀の闘気を纏えば爬竜種は俺から遠ざかる。


 邪魔者が居なくて助かると思いながら、草食竜を襲おうとした瞬間の龍に絶衝を放つ。


 斬撃は大きく放たれ、二匹を同時に仕留める。

 俺としては龍の方は片翼落とせれば御の字だった。だけど無駄に危機に聡い龍故に縦に放った斬撃に対して吸い込まれる様に頭部を晒した。


「幸先の良いスタートだ」


 落ちた龍と草食竜を手早く解体して袋に肉を詰めると、俺から逃げた爬竜種が徒党を成して俺を囲む。

 鶏冠(とさか)の発達した個体は恐らく群れのリーダーだろう。

 体高もあり、鉤爪も他より鋭く見える。


「俺から肉を奪うのか」

「ギャアッ!!」


 俺に向かってリーダーが鳴くと小物が飛び掛かる。

 爬竜種は個体にもよるが、首が細い。攻撃を見極め、焦らず一匹ずつ首を落としてしまえば脅威度は比較的低い。

 あくまで狩人目線の話だが。


 狩人というスキルの恩恵はかなり大きい。

 騎士や暗殺者などのスキルでは開拓外領域は渡り歩けない。包括的なスキルである狩人だからこそ、満遍なく力を伸ばせて外を歩ける。


 俺は斬術しか上げていないが、スキルレベルを上げれば自然と狩人としてのレベルも上がる。


 満遍なくスキルツリーから伸びるスキルに割り振りをした熟練の狩人には劣るだろう。

 だが俺は俺の強さを疑わない。


「ギ、ギィッ!!」

「遅い!」


 すれ違いと同時に首を刎ねれば、いつの間にか俺を囲む爬竜種は死体となっていた。

 ふと昔を思い出して、こんな群れと戦うのは避けていたのを懐かしむ。昔の俺なら間違い無く一匹ずつ釣り出して戦っていたな。


「血の匂いが強い。ドラゴンが集まるだろうから、一旦肉を積みに戻りますかね」


 膨らんだ竜皮の袋を肩に担いで戻る。

 荷車に袋から出した肉を積めば、少しはスペースが埋まる。これだけでは足りないからまた狩りに向かおうとすると背後から気配を感じる。


 刀に手を掛けて待つと、一匹のオオカミが現れる。


「動物が居るなんて珍しいが、俺の肉が目当てなら死んでもらおう」

「ガウガウ!!」


 仕掛けてきたから敵と見做し、闘気を纏う。

 ドラゴンに比べれば遅い噛みつきを避けて首に刃を滑らせるとオオカミは死んだ。

 手応えが普通の動物と若干異なったが、死体は残っている。刃に着いた血を振り払って鞘に納める。


 このキャンプ地もそろそろ変え時かもしれない。

 俺が此処を使うから、肉の匂いを覚えた動物が現れるのは珍しくない。前にも似た事は起きている。


「良い場所だったんだがなぁ」


 新しくドラゴンの手が伸びない場所を探すのは簡単では無い。だけど岩壁付近ならそういう場所は多いから案外直ぐに見つけられそうでもある。


 オオカミが他にも来ない保証は無い。

 狩りは何日か行う予定だから今日は新しいキャンプ地を探すのも悪くない。


 個人的には大きく回った所の岩に囲まれた場所なんかを狙っている。


「さて、移動しますかね。ゆっくり移動すれば日暮れ前には着きそうだ」


 荷車を引っ張って移動を開始した。

 肉を載せてるからドラゴンから狙われて面倒だったが、その都度斬り殺して進んだからかなりの時間を取られた。


 中には肉になりそうな個体も居たからきちんと解体してある。


 ドラゴンに襲われたから予定より遅れての到着になったが、かつて見つけたポイントは岩の洞窟とも呼べる場所。

 冷んやりとした空気が漂う、所謂穴場に着いて今日の活動は一時終了。


 夜のドラゴンは気性が荒い個体が多いから、無理に戦う必要も無い。

 適当に解体して食べられそうなドラゴンを載せたから、勝手に味の評価を始めてその日を終わらせた。


 やっぱり草食竜が一番食べやすいけど、他のドラゴンも中々美味しくて俺は好きだ。これなら村長も文句は言うまい。

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