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17.越冬

 シャルの持ち込んだ不思議な食糧と燻製肉で過ごし、時折村周りの森を見て回るなど、狩人らしい事をしていると当たり前だが時間は過ぎるもので。

 寒い冬も明けて、よくやく春が訪れた。


 春。

 それは始まりの時期。

 十二を迎えた村の今後を担う存在がそれぞれの持ち場に配属され、この村を支えていく。

 その中には俺の知るカレェとルゥも含まれる。


 俺も狩りが解禁されてはいるが、今日は気分じゃない。

 シャルにもそう言って今日は俺だけ休暇にしてあるから久々に村の農場にやってきたが、俺の知らない間にかなり拡張された様だ。


 まず単純に植えられる植物の量がかつて見た時より増えている。

 あとはキノコの栽培もしているのかそれらしき建物が見える。

 養蜂もしているのか知人狩人の所にあった巣箱も見られ、知らぬ間に農業面での発展が行われていた。


 あとは川も隣接しているから漁業も出来る。

 俺の知る限りでは桟橋だけだったが、投網が出来る様になっているのはかなりの改革だと思う。クゥの食べる魚が尽きないのはこういう所に理由があるのかと感心させられる。


「アーサーじゃないか! 久しぶりに釣りでもするかい?」


 農業の取り締まり役である村でも大きな発言権を有するカナヤさんが話かけてきた。

 農地に顔を出すのは年単位で久しぶりだから、カナヤさんとも顔を合わせる回数が減った。けどこうやって迎えてくれるのは有難い。


「お久しぶりです。今日は……新人の働きを見ようかなと」

「今年は農作業志望者が五人も居てなぁ。工房連中に睨まれそうだよ。ま、偶にはそんな年があってもいいだろ?」

「ははっ、そうですね」


 そんなに子供が居た事に若干驚くが、此処に訪れる前に三人の女の子が薬師が集まる建物に向かっていたのを思い出す。

 女の子は基本的にどんなスキルでも薬師に配属されるから今年は子宝に恵まれたのだろうな。


 神の授かりもの、村の未来はしばらく安泰だな。


「にいちゃん! 狩りは?」


 子供が入ってくると、先頭に居たカレェが俺目掛けて走り出す。

 他の子は俺と接点が無いからカレェの行動に驚いていた。中にはカレェを見る目に何かしらの感情を含む子も居た。


「今日はみんなの働きを見るから休憩だ」

「えー! 肉はーー?」

「ははっ、後で取ってくるさ」


 俺と話せるのがそんなに珍しいのか、カレェは既に未来の取り締まり役になりそうな勢いで居るが、カナヤさんを見ると全員がまばらに並んで姿勢を正していた。


「知ってると思うが、農地の取り締まり役カナヤだ。農地は薬師の扱う薬草やキノコの栽培だけじゃなく、魚も扱う! 薬師と連携しているから、そこにいるアーサーが使う薬液を作る事に俺達も間接的に関わってる! それを忘れずに、農業をやる。分かったか!?」

「はい!」


 子供達が揃って返事をする。

 元気なのは良い事だ。冬に肉を分けたから中には腹を空かした子も居るかもと思ったが、この分ならあの子だけだったんだろうな。


「良い返事だ。それじゃあそれぞれの役割を改めて説明していこう。中には農業を既に手伝ってる子も居るが、それはあくまで上澄み。詳しい話をしよう」


 カナヤさんが子供を連れて奥に向かったから、俺はどうしようかと悩むが、農地の人が俺を知っているのか釣具を貸してくれた。

 久しぶりに桟橋に立って糸を垂らす。カナヤさんの説明を聞きながら数分待つと、餌に食いついたのか重みを感じる。


 中々の大物が釣れそうだと思って引き上げると、見た事も無い魚が釣れた。


 桜色とでも言うべきその色は食事に適した魚には見えない。桟橋に下ろすと活きの良い魚らしく跳ね回る。

 尻尾を持って農地の人に見せると、少しだけ驚いていた。


「縁起の良い魚だよ、春を代表する魚さ」

「食べられるんですか?」

「生憎観賞用だなぁ。でもこいつが居るって事は他の魚も沢山いるさ。カナヤさんに報告しておくよ」

「分かりました。それじゃあ俺は戻りますね」

「おう、気ぃ付けてな」


 農地につなげる繋がる道を抜けて村に戻るとテスト用の金属に勢い良く金槌を振り下ろすルゥの姿が映る。


 親方直々に教わっているらしい。

 何度か打っているのか、迷いが見られない。俺の武器を作る未来は遠くないのかもしれないな。


 他の連中は焔王龍の素材について話し合っていた。

 端材が何かに利用出来そうだと話しているのが聞こえる。相変わらず工房連中は声が大きい。

 村が豊かになるなら焔王龍を狩るのも悪くないと思っていると、俺を見つけたモールデンが話から抜け出して寄ってくる。


「次の狩りの予定は決まったのか?」

「いつも通り肉集めだな」

「あー、じゃあその次だ」

「特にないな」


 それなら、とモールデンが俺の耳に顔を寄せる。


「焔王龍頼めねぇか?」

「そんな小さな声で言う事か?」

「狩りの自由を奪うのは申し訳ねぇ。だからあんまりでかい声じゃ言えねぇのよ。察してくれ」

「狩れたら狩るよ。それで良いか?」

「おう!」


 そう言って戻っていったモールデンはまだ加工していない焔王龍の甲殻を指でなぞって何かしらの説明を始めていた。

 何をする気なのかは分からないが、頑張れと心でエールを送る。


 いつもの場所から椅子を借りてルゥの様子を見守っていると、姉二人も春の陽気に浮かれているのか頭には花の冠が載っていた。

 シロ姉は紫の花、クロ姉は白の花で作ったのかお互い良く似合っている。


「アーサーだ」

「野生のアーサーが現れた」

「二人の中で俺はどんなイメージなんだ……?」

「良い子」


 口を揃えて言われると嬉しさ半分気恥ずかしさ半分。

 二人にも椅子を出そうとすると遠慮されたから俺は自分の椅子に座ると、後ろからシロ姉、前からクロ姉に密着されて視界が塞がれる。


「見えない」

「いつでも見れるよ」

「ルゥが不慣れな様子は今しか見れないだろ?」

「……それもそうだね」

「それじゃあまた後で」


 二人が去ってルゥを見ると、若干腰が入っていないのを親方に見抜かれて指導が入っていた。

 新人鍛治職人はこういうのが見れるから面白い。

 一年もすれば立派な身体付きになって鉱石も向き合うのだから、人の未来とは不思議なものだと思いながらルゥを見る。


 午前の最後なのか残りの力を出し切る勢いの一振りは、親方から見てそれなりなのかその感覚を忘れるなと言っていた。


 昼休憩に入るらしく婦人会の人達が燻製肉を渡していた。

 良いものを見させてもらったから次の狩りではかなりの量の肉を仕入れ様と思っていると、俺の隣でルゥへとへとな様子で椅子に座る。


「……にいちゃんだ」

「おう、俺だ」

「狩りは?」

「今日は休みだ。明日か明後日には行くさ」

「燻製肉も悪くないけど、新鮮な肉が食べたい……」

「ははっ、そうだな。だけどあと少しもすれば良い事があるさ」

「えぇー、なぁに?」

「さぁな」


 俺も燻製肉を貰って齧り付くと、午後の作業が始まった。

 薬師の方からは独特な匂いが漂う。ルゥは裁縫も習うのか年老いた職人数人とドラゴンの鱗を繋ぎ合わせていた。

 他にも竜皮紙にする際の余りから出来た端材による竜皮の裁縫もするらしい。


 そうして陽が傾いた頃、村の真ん中に荷車が現れる。


 荷車の上には草食竜が丸々一頭積まれており、この時期に降りてきたドラゴンを仕留められるシャルは改めて凄いと思った。


「みんなー! 新しいお肉だよー!」


 その言葉に婦人会のみならず工房、農作業を終えた人達が色めき立つのが伝わる。


 俺はかなり自由な考えをするタイプだと思ってるから、別に初狩りと称されるモノを他所の狩人が果たしても何とも思わない。

 だけどこうやって客観的に肉の有難さを見ると今までの自分はかなり頑張っていたのかもしれないと思える。


 解体はまるで見せ物の様に行われ、その日はシャルが村人とかなり話していたのが印象的だった。

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