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16.真冬

 肉厚な植物は肉の代わりらしく、大人しく食べていたが矢張り肉が食べたい。貯蔵庫から燻製肉を夜中に取って食べているのがバレたが、俺の家だからと押し切った。


 今日は誰も村の外を歩いていない。

 当たり前だ。もう冬のど真ん中、ではないが冬の唯中。工房も一段落したのか稼働していない。


 そんな冬の静寂も嫌いじゃない。

 そう思いながら村では少し離れた位置に居を構える姉二人の家の前にやってきていた。


 かなりの雪で半袖は少し冷えるなと考えていると、俺の家も似た様なものだが、装飾が鉄の輪だけの無骨な木の扉が開く。


「やぁ、アーサー。約束を守る人は好かれるよ」


 出迎えてくれたのはクロ姉。

 二人は俺と同じであんまり外の温度を気にしないタイプだからかいつも通りの、半袖の衣服にロングスカート。


 雪が降る中では寒々しい格好だが、俺も人の事は言えないので特に指摘はしない。本人がそれで良いのなら野暮だろう。

 クロ姉が俺を見上げ、空白の時間が生まれる。

 中に入って良いかを聞くと、了承される。


 俺が聞いたにも関わらずさも自分から言い出したかの様に中に入れと促されるから中に入るとシロ姉が釜戸に薪を焚べていた。特に匂いはしないから恐らく湯なのだろう。

 だがこんな雪の中を歩いて来たんだからせめて茶の一つは欲しい。


 そんな俺の思いが伝わったのかシロ姉は戸棚から茶葉を取り出して鍋に適量入れていた。

 そんなアバウトな作り方だったかと思うが、不味くなければそれでも良いかと思う。


 次第に部屋に茶の香りが広がる。


「はい、お茶」

「ありがとう。本題だが、どうして呼んだんだ? 俺が居なくても二人ならどうにかなるだろ。もしかして何か高い所の物でも取って欲しいのか?」

「特に理由は無いよ」


 俺が出された茶を一口含むと、二人は声を揃えて応える。


 特に理由が無いのならこんな日に呼び出さないで欲しいが、二人に挟まれて茶を飲めるなら悪くは無い。多分。

 コップが空になると柄杓で掬われた茶が追加され、再び飲む。


 今日の仕事当番はシロ姉なのか良く動いている。

 クロ姉は俺にもたれかかって少しずつ茶を飲んでいるが、シロ姉が隙を見て追加していた。


「シロ、熱いのは苦手だって知ってるでしょ」

「そうだったかも」

「……淹れてくれたから飲むけどね」


 珍しくクロ姉が感情を見せたと思ったが、直ぐに元に戻る。

 シロ姉はわざとやってるのが良く分かる。自分もそうなんだから、クロ姉の猫舌を忘れる事は無いだろうからな。


「アーサーはあったかいね」

「熱いの飲んでるからか?」

「そうだね」


 クロ姉が僅かに体重を乗せるから、コップをテーブルに置かせてから、俺の肩に頭を置ける様に少し深く座る。


「ふふっ、狙い通り」

「そうかい」

「クロだけずるい」

「シロ姉もするか?」

「する」


 二人を両肩に乗せた所為で茶を飲めないが、それも悪く無いと思って背もたれ代わりのベッドに身体を預ける。布と羊毛で出来たベッドは程良く反発するから嫌いじゃない。

 する事が無いと思ってぼんやりしていると、珍しく二人の寝息が聞こえる。


 折角寝てるのを起こすのも忍びない。

 肩から落ちない事を祈りながら俺も少しだけ目を閉じると、次第に眠気が訪れる。


 このまま寝てしまおうか。


 そう思ったが欠伸をして、眠気と闘う。俺まで寝たら多分夜中に起きて変な時間に腹が減ると思う。

 だから此処は我慢して眠気を振り払い、待つ事数十分。屋根の模様を眺めていると、先にシロ姉が起きた。


「久しぶりに寝た気がする」

「そんなに寝てないのか?」

「ううん。でも、そんな気がしただけ」


 シロ姉との会話で起きたのか、猫みたいな声を出してクロ姉が俺の肩に顔を擦り付ける。


 可愛い姉だと思いながら頭を撫でるとシロ姉も頭を出してきたから頭に触れる。

 二人は昔からこうだなと思っていると、風の音が響く。


「外、風強いね」


 シロ姉がそう言うと、扉がノックされる。

 こんな時に来客があるのは珍しいのか二人は顔を見合わせている。


 二人から完全に予定外っていうのが伝わってくる。


 クロ姉が扉を開けると、羊毛で編まれたコートを着込んだ小さな子が立っていた。

 中に入るとシロ姉が茶を差し出し、少女は冷ましながら飲み始める。何用かと見守ると、少女は恥ずかしそうに喋り始める。


「お肉、余ってませんか……?」


 その一言で俺は偶にある食糧不足だと察して立ち上がる。

 姉二人はあまり食べないから余ってるだろうが、俺の家もかなり余ってる。


「先ずはこれを食べると良い」

「燻製肉持ってきてたんだ」

「夜まで居ると思ってたからな」


 少女は俺から燻製肉を受け取ると、食べずに仕舞った。


 大きさは二人分だから親と一緒に食べるのだろうと思ったが、それだけでは可哀想に思えたから少女を抱え上げる。


「二人とも今日は楽しかったよ」

「そう」

「それなら良かった」

「さて、俺の家に行こうか。肉が待ってるぞー」

「……ありがとうございます。アーサーさん」


 流石に俺の名前は知っているらしい。

 だけど俺はこの子の名前を知らない。


 カレェとルゥはもう直ぐ働き始める中でも活発な方だから自然と名前を覚えたが、あの二人より小さいとなると狩りに出てる俺は知らない子供も出てくる。


 名前が分からないが、ただ少女と呼ぶのも憚れるから適当に返事をして少し離れている俺の家に向かう。


 中に入るとシャルがクゥと一緒に何かを飲んでいた。

 美味いと感じる香りがするから恐らくシャルの持ち込んだ都会の何かだろう。


「あ、おかえりアーサーくん」

「ああ」

「その子は?」

「肉を分ける。偶にあるんだよ、足りない家ってのが」


 そう言うと理解してくれたのかシャルは貯蔵庫から大量に燻製肉を取り出して袋に入れる。


 少女を下に下ろすと、タイミング良くシャルが肉の入った袋を手渡す。

 手渡すというよりかは、押し付けるに近いが。


 貰い過ぎたと思ったらしく少女が何かを言おうとしたが、シャルが先制して止める。


「小さい内は沢山食べないと、だよ! それにアーサーくんも何も言わないから受け取って。お姉さんは外から来たのにお肉貰ってるから、そのお礼」

「……ありがとう、ございます」

「気を付けて帰るんだよ」

「はい……!」


 少女が帰ると、シャルが俺にスープを用意する。

 良い香りだとは思うが、肉厚で歯応えだけ良い植物の前例があるから躊躇うと、シャルが口を開く。


「その、勝手に半分もお肉分けちゃって良かったの……?」

「今のベースで食べてたらどうせ他所にお裾分けだ。何も気にする必要は無いさ。それに、俺に遠慮するのは窮屈だろ。シャルがしたい様にすると良い」


 そう言いながら燻製肉を手に取って食べると、燻された香りが口に広がる。


 生の新鮮な肉を知ってるとそっちが好きになるが、年を取るとこの風味も悪くないと思える。

 シャルのスープは、香りだけは良かった。味は無いから良い香りのする湯っていうのが妥当な評価かな。

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