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15.冬の村

 冬となって少しが経つ。

 完全にドラゴンの気配もしないが、男衆はこの寒い中見張りを怠らない。俺が生まれるよりも前、冬に適応した爬竜種が来たのは未だに記憶に新しいものとの事で。


「にいちゃん寒くないの?」

「今年は少しあったかいからな。ルゥは暑くないのか?」

「寒いよ! 薄着なの村でにいちゃんだけだよ」


 今俺は工房の前でルゥと共に座っていた。工房は素材さえあれば冬でも遠慮なく大量に薪を利用するが、その熱は外にも伝わるから暖を取る人も少なくない。

 俺は自分の装備が出来上がっていくのを見るのが好きだから見ているだけで、暖を取るつもりでは来ていない。寧ろ少し暑いと思うが、ルゥは寒いらしい。


 いつも一緒に居るカレェは風邪をひいたらしく家で療養中。薬師が診たところ寒さによる一般的な風邪との事で備蓄されている薬草で作られた薬を三日も飲めば治るとの事。


 そんな訳で俺が一人工房見学をしているとルゥが寄ってきた。


 俺の服装は麻の半袖に長ズボン。

 一年通して変わり映えのしない格好だが動きやすいから好きだ。少し身長が伸びたから足下が若干見えているが、寒さは感じない。


 寒さは感じないというと語弊があるが、俺はあくまで寒さと暑さに人よりも耐性があるだけだ。

 きちんと温度の変化は感じるし、そうでなければ暖冬からどうかも測れない。狩人なら普通だと思っていたがシャルは気温に弱いと言っていたな。


「ぼくが大人になったら何になるんだろ」

「さぁな。好きな事をすればいいさ。ただ、外に出るのはオススメしないがな。ルゥは何がしたいんだ?」

「ぼくはねー……にいちゃんの武器とかつくろうかな!」

「おお、それは頼もしいな。それなら来年か? 確かそろそろ働き始める年頃だろ?」

「うん! 次の春から見習いなんだ!」

「はは、頑張れよ」

「にいちゃんも凄い素材持って帰ってきてよね!」

「ああ、約束だ」

「うん! 約束。えへへ」


 少年らしく純粋な笑顔を浮かべる姿は、村の為に働く一人としては見ていて頼もしく思う。それが俺の為だと言ってくれるのなら尚更。


 工房では炉に火を熾したついでなのか冬場にも関わらず鉄の精製やバリスタの弾を作ったりしていて、鋳型に溶けた鉄を流し込む様子が見られる。

 かなりの高温だから冬の寒さも熱気で飛ばされる。


 俺の身体を測ったからソレを基に素材の切り出しをするチームも羽根ペンを動かしている。

 焔王龍の防具。

 倒したから分かるが、硬く頑丈なんだろうな。甲殻をほぼ無傷で手に入れられたのは幸運かもしれない。


「ぼくも工房に加わるのかぁ」

「……カレェはどうなんだ? いつも一緒だから工房志望か?」

「カレェは農場だよ。お母さんが婦人会と農地の手入れ一緒にやってるから農場にするって」

「そうか」


 そんな話をしていると、ふと背後に気配。

 背もたれなんて無い簡単な四角い椅子だから回って後ろを見ると姉二人が立っていた。


「気付かれた」

「アーサーも中々鋭くなったね」


 手には雪が持たれており、今にも俺の頭に乗せようとしていた。

 年齢を考えろとツッコミを入れたくなったが去年は雪合戦をしたから二人は遊びは嫌いじゃないと思い出す。


「あ、おねぇちゃん達だ」

「やぁ」

「君も遊ぶ?」

「……うん!」

「ほら、アーサーも立って」

「強制なのか」

「冬でも身体を動かすんだよ。春に鈍ってたらいけないからね」


 それらしい事を言うが、要はこの二人が雪合戦の気分なんだろう。工房に雪玉が飛ばない様に距離を取って姉二人に対して俺とルゥのチームで雪玉を投げ合う。


 ルゥは年相応に弧を描く投球で、時折当てていた。

 それだけなら微笑ましい雪合戦。だが姉二人の目的は別にあった。


 姉二人はルゥに対しては避けられる様に調整した玉を投げるが、俺を狙う玉は確実に仕留めるという勢いのある豪速球。

 なんとか避けつつ反撃をするも、ルゥの投げる玉の様に当たってあげるなんていう優しさは無かった。


 一時間くらい遊んでいると姉二人が飽きたのかルゥの放った雪玉を優しく手に取って圧縮し、終わりと一言告げた。


「もー終わりー?」

「うん、終わり」

「アーサー、温泉に入ってきなよ。その後、そうだね……冬が強まったら私達の家においで」

「いや行かなくても良いだろ」

「来て」


 無表情で二人に見つめられると逃げ場が無い。

 ルゥは終わったからと工房の椅子を片付けて帰ってしまい、話を逸らす事も出来ない。都合よくシャルが出てくればと思うが、今頃は温泉に居るだろうから叶わない。


「……分かったよ。そんなにシャルが嫌か?」

「嫌じゃないよ」

「寧ろ感謝してる」

「それじゃあ何で?」

「ヒミツ」

「ミステリアスな女性が最近の流行りだってさ」

「……そうか」


 俺の考え過ぎなのかと思いながら家に帰るとシャルが居ない。クゥも居ないから二人で温泉にでも入ってるのだろうと思って俺も温泉に入るべく準備をする。


 一度シャルが入ってる時に偶然俺も入った時はまた声にならない悲鳴を上げて俺にこれからはこれを穿いて入る様に言われたからその通りにして温泉への扉を開ける。


 目に入ったのはクゥが頭に雪を積もらせて浸かっていたこと。


「逆上せてないか?」

「クゥー」

「それなら良いんだが……シャルは寝てるのか。流石に人間が温泉で寝るのは良くないよな」

「クゥワ」


 シャルの隣に腰を下ろす。

 その肌は俺達の言う白い肌とは違って、本当に白い。俺達はこうやって見比べると若干赤い気がする。村長もそうだから俺達はそういう肌色なんだろうな。


「シャル」


 返事は無い。


「起きろシャル」


 肩を叩いても起きないから布を濡らして顔に被せると、勢い良くシャルが起きる。濡れた布は良く吸い付くから俺もこれで起こされたのを覚えている。


「なにするの!?」

「逆上せるぞ」

「逆上せないよ! 着替えるから……あれ?」


 シャルが力を失った様に崩れる。

 クゥは目を閉じてるから、折角入ったばかりだがシャルの腕を掴んで意識の確認を行う。

 大丈夫かと問えば力の無い笑いが返ってくる。意識はあるらしい。

 だが立てない様だからそのまま抱えるが、直ぐに体調が戻ったのか元気になった。


「アーサーくんも気を付けるんだよ!」

「言われなくても気を付けてる」

「着替えるからまだ出ないでね!」

「五分で着替えろ」


 久しぶりにクゥと二人だけの湯だとリラックスするが、そろそろ上がるかどうかという時に雪が強まる。吹雪とは呼ばないが、頭が寒く感じる。


 クゥはそもそも雪とか氷に耐性のあるペンギンではあるが、湯にも耐性があるからこの程度では動じないと言わんばかりに頭に更に雪を積もらせる。

 先に出ると言えば左腕を上げて応えてくれるから、俺はそのまま出ると釜戸に薪をくべるシャルが居た。


「着替える」

「あ、うん」


 どうやらシャルにとって異性の裸は慣れないものらしく、部屋が温泉と居間しかない俺の家では必然的に着替えが目に入る。


 そんな事を意識しては村では暮らせないと言いたいが、シャルは恐らく冬が明けたら出て行く。俺の勘がそう言ってるから、多分当たる。

 だからその間はせめて暮らしやすくする為にこうやって着替えを見られない様に配慮しているが、正直面倒。


 村の人間もそうなのか一度聞きたいが、聞いて回るのも変だから聞くに聞けない。俺の意識がおかしいのか非常に気になる課題だ。


 着替えを終えて釜戸の熱で調理しながら暖を取るシャルは見慣れない植物を茹でていた。

 緑色なのは当たり前だが、分厚い。あと茹でてる湯の色が茶色くなってる。


「俺の家で変な事をし始めたな」

「いや! これはちゃんとしたものだよ! アーサーくんも食べていいから!」

「美味いのか?」

「歯応えはあるよ。アーサーくんはお肉の方が美味しいって言いそう。はい、出来ました〜。シャルロッテ特性ステーキフォリウム〜」


 召し上がれと言われて鉄の串で刺した植物を食べると確かに歯応えは良かったが、肉の方が美味いと感じた。嫌いではないかな。

 食感は嫌いじゃないと告げると干し肉を渡された。


 俺の扱いが雑な気がするから、もう一枚奪って食べた。

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