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12.帰還

 焔王龍の解体を始めると今回はその甲殻を持って帰りたかったから可食部位ではない甲殻をその辺に置いて荷車を引っ張る。


 シャルはその場に残した。爬竜種に肉を齧られるリスクがあるからな。

 予想通り荷車を運べば大物にありつけると勘違いした爬竜種がシャルに撃ち殺されていたが、遠距離主体にも関わらず五匹居ても臆せず倒せる腕前は流石と言える。


 因みに焔王龍で美味しい部位は普通の肉だけでなく、薄く切った舌らしい。


「かなり載せたねぇ」

「草食竜三匹と焔王龍の甲殻、尻尾、爪、頭。まあまだ載せられるが今回の目的はこいつを仕留める事だから帰るがな。あと、森の中で一回夜を明かす。使った場所は覚えてるな?」

「うん。だけど一気に帰ってもよさそうだけど……?」

「暴竜のお陰でスムーズに進めたと俺は見てる。何が居るか分からないからな」

「そっか……うん、そうだね」


 荷車の引き手を下ろしてシャルに任せれば力を込めて動かし始める。

 知人狩人が護衛依頼が偶にあると言っていたがこれはそんな感じだろうか。人を守って行動するのなんて何年振りか。あれはあれで楽しかったが、モールデンからすると苦い記憶かもな。


「うぎぎ……重いぃ……」

「代ろうか?」

「ううん。お姉さんを甘くみないでよ! アーサーくんは辺りの警戒よろしくね」

「……了解」


 少し歩みが遅くなるが、引いてくれるのは有難いから文句は言うまい。さっきの焔王龍に比べればどんなドラゴンも小物に思えてくるから安心して荷車を引いて欲しい。


 森の中に入るとドラゴンの鳴き声が木霊するが、俺達が使った地点は矢張り穴場なのかドラゴンは居なかった。


 相変わらずテントを建ててドラゴン避けの香炉を炊いたシャルは今日は先に夜の見張りをさせてくれと言ってきた。

 だが荷車を引いて腕が疲れているのを見抜いた俺はテントの中にシャルを投げ入れて問答無用で俺が一日見張りをした。


 シャルも寝ない事には慣れているのか夜中に出てきた。


 俺は試していないから知らないが、旅する狩人はどれだけ寝なくて済むのか気になって聞けば徹夜は辛いと言ってきたから俺に背後を見せた瞬間に刀で後頭部を突いて気絶させた。

 無理をすれば死に繋がるのだから大人しく寝ていてくれ。


 そうして朝陽を感じた俺がテントに声を掛けると随分とぐっすり眠れたのか弱々しい声が返ってくる。


「お、おはようございますぅ……」

「少し此処で待ってろ。周りを見てくる」

「……うん」


 刀を持って外に出れば辺りに小型ドラゴンの気配はしない。だが強い気配が隠れているのを見抜いた俺は刀を抜く。


「絶衝!」

「グルルルゥ……」

「迷彩竜の縄張りか。厄介だし、今日も一泊するかね」


 茂みから出てきたシャルは迷彩竜の痕跡を見て慌てて武器を手にしていたが、俺が手で制してキャンプ地に戻ると不思議な顔をしていた。


「戦わないの?」

「ああ」

「アーサーくんなら倒せると思うけど……」

「手傷は負わせた。向こうも賢い竜の一つだから俺達に手出しはしないだろうが、今日の夜に此処を出よう。朝には村に着くさ」

「夜かぁ……あっ、夜が嫌とかじゃないよ! 今日はバッチリ眠れたから徹夜だって出来るし――」

「村に着いたら寝てくれて構わない。周りには俺から言っとくから」

「そこまでしなくていいよぅ! 私だって出来るもん!」

「……そうか」


 本当に年上なのか疑いたくなる言動だったが二十三よりは年上なのは確定だ。アリアさんや姉二人もそうだが俺の知る女性はみんな若く見えるな。


 釣具を垂らして時間を潰せば、あっという間に夜を迎えた。夜のこの森がどんな様相なのかは知らないが、迷彩竜が居たのならそれ以上の脅威は居ないだろう。

 アレも中々上位の存在だから、暴竜以外になら大抵勝ち星を上げる強者だ。


 小型のドラゴンが荷車を狙っている所為か常に闘気が俺を纏うが、白銀の闘気でも威圧効果は充分なのか飛び出すバカは居ない。

 楽に森を抜けると星が輝く北の入り口に戻ってこれた。

 空の感じを見るに村に着くのは朝方。村にとってはかなり景気の良い朝を迎える事になりそうだ。


「はぁ……アーサーくん、あとどのくらい?」

「この平原と奥に見える森を抜けて少ししたら到着。朝の良い時間に着きそうだ。代ろうか?」

「ううん! やるよ!」

「疲れたら言えよ」

「まだ大丈夫! 沢山寝かされたからね!」


 存外、根に持つタイプなのだろうか。

 ともかくあと少しであるのは事実。この時間帯に暴れ回るドラゴンは珍しいからスイスイと進んで村の周りを囲う森を抜けて進むと柵が見える。


 いつもは自分が引っ張っているから轍を見れば帰ってきたという感覚になるから、今日は新鮮な気分だ。


 太陽も良い位置。

 耳を澄ませば村が動いているのか物音もしっかりと聞こえる。荷車の音以外をこうして聞くのも初めて。

 今日は良い事がありそうだ。


 そうして柵を抜けると姉二人が立っていた。

 いつもと変わらない無表情だが、少し眠そうにも見える。流石に偶然だろうが、二人は俺が近付くとシロ姉がシャルを指差す。


「同じ匂いがする」

「流石に分かる訳ないだろクロ姉……え、分かる?」

「うそ」


 微笑むクロ姉だったが、シロ姉は嗤っていた。


「アーサーは臆病だから女の子に手を出せない」


 そういうからシロ姉を抱き締めた後身長差を活かしてクルクル回れば楽しそうな声が聞こえる。


「そういう意味じゃない」

「じゃあどういう意味なんだ……」

「私もやってよ。シロだけズルい」

「後でな。今は狩りの成果が優先だから」

「……仕方ない」


 むぅむぅと膨れるクロ姉を撫でて後にすると、意外なモノを見たと言わんばかりのシャルが荷車を引きながら俺の事を覗く。


「どうした?」

「仲がいーなーって」

「小さい頃から一緒だからな。それよりも此処からは俺が引くよ。シャルは温泉の傍にある小さな小屋に入っててくれないか? ベッドも使って良いし、中のヤツにはアーサーの友達って言えば通じる」

「うん、わかった。それじゃあ後はお任せするね」


 村に入って俺の家に入ったシャルを見てから荷車を引くと、想像よりも軽くていくら狩人とはいえ男と女の違いが出てくるなと感じた。


 そのまま引いて村の真ん中に荷車を置くと、朝の洗濯物やらを干している主婦の一人が俺を見つけて声を上げる。


「アーサーくんが帰って来たよーー!!」

「本当!?」

「肉はあるのかしら……」

「アーサーの家に誰か入ったらしいぞ、しかも女だとか」

「あいつもそういう歳だからなぁ」


 色々な声が聞こえるが、村人の群れが割れると正面から村長がやってくる。


「お疲れ様、アーサー」

「こいつで間違いないのか?」

「私が見た通りの濃い紅色だ。これでまた村が救われたよ。村を代表して感謝する。ありがとう」


 周りの村人も今回がそういう依頼だと分かっているからか囃し立てる。


 命のやりとりがあれど、俺は外に出て楽しめたから感謝されるのは毎回遠慮したいと心の中で思っている。

 だけど村がそうすると決めたのなら、村の一員でもある俺はそれに従おう。それで満足してくれるのなら、安いものだ。


「双子の姉妹には会えたかな?」

「入り口で」

「今回は特異な個体だと遅れて気付いたみたいで珍しく落ち着きがなくてね。会えたのなら良かった」


 確かに今回の焔王龍は普通の個体とは違った。

 一歩間違えれば今頃アレはこの村を壊していただろうし、シャルが居なければもっと時間を掛けて倒していただろう。


 後で二人に会う時間を作ろう。


 それよりも今は素材に飛び付かんとするみんなをどうにかするのが優先度が高そうだ。甲殻を見て工房連中もうずうずしている。


「いつも通りみんなで分けてくれ! 今回は討伐したドラゴンの肉も持って帰ってきたから楽しめると思うよ!」


 その言葉で荷車に向かって村人が飛び付いた。


「あと旅の狩人とも会ったから俺の家で休んで貰ってる。助けられたから、見慣れないだろうけど優しくしてやってくれ!」


 素材と肉の分配に夢中な村人からは生返事しか返ってこない。シャルの事を排斥する様な働きはしないと思うが、この調子だと誰だこいつみたいな空気になりそうだな。


 とにかく俺も疲れた。家で寝よう。

 そうすると姉二人が俺の両手を掴む。振り解けるが、逃さないという力を感じるから手を引かれるままに進む。


「アーサー、今日は私達の家に来て」

「シャルを置いてくのは――」

「いいから」


 そうして俺は姉二人の家で寝た。寝る前に見えた二人の顔は満足のソレで、俺は頭を撫でられる感触を覚えて、意識を手放した。

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