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11.暁鐘

「アーサーくん! 早く斬ってー!」

「了解!」


 何が起きてるのかは分からないが恐らく筋肉をどうにかする毒を蓄積させたのだろう。

 知人狩人も矢にそういう毒を塗って大型ドラゴンと戦うと聞いた。まさかそんな便利な技術を目の前で見れるとは思わなかったが、シャルの感じからそこまで長くは効かないんだろうな。


 刀を抜いて一撃、腕を回して斜めに一撃、横に薙いで一撃、切り上げて一撃、最後に振り下ろしの一撃を当てれば遅れて血が噴き出す。


 その僅かな時間で毒が切れたのか焔王龍はピクリと動き出す。完全に動ける様になってからては回避が間に合わないから横に払いながら斬り下がると片翼の潰れた焔王龍が再起の咆哮を上げる。


「グルゥアアアアアア!!」


 繰り出せた斬撃は六つ。

 だがそれでも黄金の闘気となった今であれば充分なダメージとなって蓄積されているはずで、俺は刀に纏い切れなかった僅かな闘気を身体に回して目を細める。


 五つある内の三つ目となる黄金の闘気。

 残り二つを残しているにも関わらず俺はある程度の物なら斬れると確信に近い感覚を覚えていた。

 故に吠える焔王龍に向かって駆け出して、脚を削ぐ。流石に太い骨を両断するには色々と足りていない。


 何でも斬れるという自惚れはしない。

 ただ斬れるもの、そうでないものが漠然と分かるだけ。


「グルゥアアアア!?」


 削いだ理由は怯ませる為。

 俺の思惑通り肉を削がれるのは中々の苦痛なのか焔王龍から、多分悲鳴が聞こえる。

 そのまま後方の柔らかい肉を同時に斬れば焔王龍から血が噴き出す。運良く良い血管を斬れたみたいだ。


「グルゥ……」


 流石の焔王龍でもこれだけ出血が続けば疲弊するらしい。

 良く見れば初めに付けた腹の傷を塞ぐ余力は無いのか血が垂れている。刃の通りが悪くても一応は斬れていたが、後になって活躍するとはな。


「グルゥ――」


 喉を膨らませて一度上を向く焔王龍。

 近場は不味いと判断して即駆け出すと、俺を追う様に咆哮が上げられる。


「アアアアアア!!」


 咆哮と共に吐き出されたブレスは先程も見せた変則的な動きをするもの。

 今回はシャルの声が無くてもブレスの予兆を感じ取れたから難なく避けるも、炎が弾む様に辺りに広がる。


「アリか!? そんなの!!」


 尚も吐き続けるブレスは密度を増して平原を駆け巡る。

 既に焦土となっているが、この一撃で更に残された緑が減った気がするが俺は逃げながら絶衝を放つとブレスが斬れる事に気付く。


「ハハハッ!! 斬れるなら、全部斬り捨ててやる!!」


 普通のブレスとは違って炎の玉と似た性質なのか斬れる。斬ったブレスは軌道を更に変えて明後日の方向へと飛んでいく。


 刀を振り回してブレスを凌ぐと逃げながら何度か射撃していたシャルが焔王龍の左眼を貫いたのか常のモノとは違う声を上げた焔王龍がのたうち回る。


「ガァアアア!!!」

「やった……!」


 ブレスの群れを斬り裂くと喜ぶシャルの姿が目に入る。

 聞こえた声からして偶然なのかもしれないが、もう片方潰せば目の見えない焔王龍の完成だ。


「そのままもう片方も潰せるか!?」

「そ、それは難しいかなぁ……」

「狙え!!」

「は、はいぃ!!」


 流石に動き回る焔王龍の瞳を狙えというのは冗談も込めてはいるが、片方出来たからもう片方もやって欲しいのが本音で。

 まだ弾が残っているのか動き回って弩砲を構えたシャルは放ち始めた。甲殻の及ぶ箇所は弾かれている様に見えるが、頬の辺りなんかは流血が見られる。


 仲間が居るとこんなにも楽なのか。

 だけどシャルは旅する狩人。いつまでも一緒という訳ではない。シャルに任せるのも程々に焔王龍と距離を詰めて、一閃。


 首周りに傷を付けられたが、刀を振り抜くには硬い甲殻が邪魔で中途半端な位置で止まる。

 暴れる前に引き抜いたが、それと同時に焔王龍は顔を左右に激しく振る。


「抜いて正解だったな」


 隻眼の焔王龍は尾も失い、片翼も使い物にならない。

 だが俺は勝ったとは思えなかった。


 焔王龍は確かに多くの血を、今でも流している。本気で逃げに徹すればブレスも凌げる。片脚は肉を削いだから動かせば痛みが走ると思われる。


 だがそんな負傷を負わせても、ドラゴン相手に勝ったと俺は思えないでいる。だから闘気も未だ黄金のソレ。


「グルゥアア……」


 片目の痛みは薄まったのか、だけど血の涙を流す焔王龍と正面に立ち会って刀を向ける。


 俺の剣術は我流。スキルレベルに応じてそれらしい動きが強引に様になってるだけのもの。

 対して向こうは長く野生に生き、野生のルールを骨の髄まで染み込ませた猛者。片目が失くなって尚、初めて対峙した時と比べるとやや薄まってはいるが強い覇気を漂わせている。


「グルゥアアアアアア!!」

「オオオオ!!」


 焔王龍が下ろす足を避けて腹を裂く。

 向こうはもう筋肉に力を入れる余裕はないのか収縮させる真似はしない。血が降りかかるが、俺としてもそうであると助かる。

 身体にも回る闘気は焔王龍の一撃から俺を生かしてくれる。


 俺の連撃とシャルの射撃。

 合わされば傷が増える。

 シャルは適正な距離とやらを保っている事に加えて俺が焔王龍の近くに居るから無傷。俺もなんとか避けているから防具を痛めるだけで傷らしい傷は尾の一撃以来無し。


「オオオオ!!!!」


 今は攻めるべきと頭で理解した俺は攻める。例え焔王龍の爪が俺の連撃を弾こうと、身体を力の流れに沿って上手く使って強引とも呼べる太刀筋で斬り込む。


 その甲斐あってか、焔王龍に少なくない傷が生まれていた。

 だが手負いのドラゴン程怖い存在はいない。事実焔王龍は一度上を向くと俺目掛けて普通のブレスを放つ。


 だが、()()()()()()


「絶衝!!」


 抜刀と同時に闘気と真空波を纏った三日月の斬撃を放てば、ブレスは縦に裂ける。

 そのまま進めば相手の顔面に当たるが、ブレスの異変に気付いた焔王龍は片翼を器用に使って横へ逃げる。


 ブレスが通じない相手は初めてなのか、俺と向き合う焔王龍は血が足りていないのか少しだけ息を乱しているのが分かる。

 お互い次が最後だと理解して、俺は刀を納め、焔王龍は両翼を広げる。


 シャルは何をしているのか分からないが、俺と焔王龍の間に静寂が生まれる。息を吐き出せば、良く音が響く。


 俺は納めた刀に手を掛けて、焔王龍は口の端から炎を垂らして。


 合図は無かった。

 焔王龍が大口開けて駆けると同時、俺も駆け出す。交錯するのは一瞬で、俺が刀を抜いた姿勢で立ち止まり振り返れば、焔王龍も此方を向き、身体から血を噴き出して倒れる。


「グルゥ……」


 長く思えた戦いに終止符が打たれた。


「やった! 倒せたね、アーサーくん!!」

「ああ」

「発火器官は貰っても良い? 肝も欲しいなぁ……」


 シャルが元気に俺の近くへ駆け寄るが、まだこいつは死んでいない。強者として君臨したこいつは死の間際、俺に最後の抵抗を出来るにも関わらずソレをしない。


 文字通り死力を尽くせばかつて対峙した個体と同じくブレスの一つを放てるだろう。

 だが訪れる死を受け入れているのなら適したアーツがある。特に使わないと思っていたが、こんな時に使う日が来るとはな。


「我祖龍にまつわる者」


 死を受け入れた焔王龍、故に闘気は収まっているが刀は明け方の光を反射して冷たく光る。


「暁鐘に従い、汝に死の祝福を与えん」


 頭部から僅かにずれた骨と骨との隙間を見抜いて刃を差し込めば、焔王龍は完全に亡き者となったのか生の気配を無くす。


 アーツ「暁鐘」。

 無抵抗となった生命に一切の苦しみを与えずに殺す慈悲深い技。大抵のドラゴンは死の寸前まで足掻くから使わないと思っていたんだがな。


 シャルは俺が何をしたのかなんとなく理解しているのか何も聞いて来なかったが、朝陽の到来で刀に着いた龍の血が妖しく光を反射する。


「さっさと解体して、さっさと戻ろう」

「そうだね――って早い!?」

「ドラゴンの解体途中に襲われるのは御免なんでな。肉は帰りに草食竜が居れば良いから――」

「プロメティオスのお肉は美味しいよ」

「持って帰ろう」


 美味い肉は正義だ。

 これからは草食竜以外の肉も持って帰るのも手かもしれない。暴竜と草食竜だと草食竜の方が美味いが。

 これから討伐したドラゴンは時間があったら食べ比べて持ち帰ろうかな。

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