10.斬撃と射撃と
距離を詰めて先ずは俺に一撃与えた尾を斬る。
一発で斬れないのは分かるから何度も斬撃を与えて傷物にしていくが、かなり硬くあと少しという所でロープが千切れたのか起き上がった焔王龍はまだ繋がっている尾を振り回す。
「あと一発残ってるから――」
「それはまだとっておいてくれ! 他に有効そうな弾で代用!」
「わ、分かった!」
「グルゥアアアアアアアア!!」
「お喋りは気に障ったか?」
焔王龍が再び飛ぼうとした瞬間、絶衝を放つと脅威の一つだった尾がようやく千切れる。後で回収するとして、今は尾が千切れて動揺している焔王龍を叩き落とすのが先決。
再度絶衝を放つと翼に傷が生まれ、突然の事態に焦ったのか焔王龍は落ちる様にして着地する。
降りてくれれば此方のもの。
刀を抜いたまま大きく振って比較的脆い場所を狙って五つ程の連撃を加えると流石の焔王龍も俺を厄介と見たのか足で俺の居た位置を踏み締め、咆哮を上げる。
「グルゥアアアアアアアア!!!!」
さっきも喰らった大音量の咆哮だが、それと比較すると此方の方がかなり五月蝿い。思わず耳を塞ぎたくなるソレは今までのどのドラゴンよりも大音量。
そして焔王龍を中心に圧力が生まれているのか平原に生える植物が押されているのが見えた。
こいつの身体を見た感じだが、やられてから本気を出すタイプには見えない。
初めから本気を出すから余計な傷を負わない――野生に生きるドラゴンにしては綺麗な身体を見てそう思ったが、本気になる必要なんてないのが真実だったらしい。
シャルは遠距離を保っているからこれに気付いているかは分からないが、俺は気を引き締めて刀を握る。
闘気はまだ群青色だが、鋭いモノに変わっている。
刀に再び纏わせれば螺旋を描く。流石に甲殻を斬れと言われると怪しいが、他の脆い部位なら斬れる。
「グルゥアアアアア!!」
真正面にブレスが吐かれるが、当たらなければ熱いだけ。俺は焔王龍を見据えて刀を構える。
「オオオオ!!」
ブレス直後の硬直を狙って首を軽く斬れば血が流れる。噴出に勢いが無いからいずれ止まるだろうがそのまま側面に刃を当てて走れば一筋の傷が生まれる。
俺を追う様にして回った焔王龍の傷が見えたのかシャルが傷口に向けて狙撃すると予想外の刺激だったのか身体を強引に動かして焔王龍が低く唸る。
シャルも動き回って狙撃しているから焔王龍からすればかなりのストレスだろう。
シャルの狙撃の腕は確かだ。
俺の作った僅かな傷を狙って、しかも動き回る相手に対して当てられる技量は遠距離を主とする狩人の中でも高い方だと思う。
まだ俺に当ててないし、狙いも上手い。ドラゴン用の武器が当たったら洒落にならないが。
年上と呼ぶには少し子供らしさがあるが狩人の腕前で見れば開拓外領域を自由に歩ける腕前だと理解させられる。
それだけ戦えるのなら安心して狙撃を任せられる。
俺も少し派手に動くとしよう。
そんな俺の想いに応えてか闘気が荒れ、刀に鋭く纏わりつく。
「オオ――」
「アーサーくん!!」
「お?」
気合いを入れて斬り掛かった瞬間シャルの呼び声に反応して止まる。絹を裂くような呼び声は俺を止めるには充分だった。
焔王龍の足踏みを避けると危ないと感じて全力でその場から本気で逃げる。
「グルゥアアアアアア!!」
吐かれた炎が渦を巻いて駆け巡る。
普通のブレスは一定方向に放たれるがこいつはどうやってるのか謎だが炎に捻りを加えて進路を変えた。その結果足下を燃やすに至っていて、シャルの叫びが無かったら今頃消し炭になっていただろうな。
逃げた方向でシャルと合流出来たが、焔王龍は完全に空を飛んでいる。
「ありがとう」
「ううん。口に溜めたのが見えたから」
「それよりもあいつを落とす良い方法ないか?」
俺がかつて戦った時は平原ではなく森の中だったからそんなに飛ばれなかったし、飛ばれても木を駆け上がって尾にしがみついて甲殻の隙間に刀を差し込んだからその戦法は今回は使えない。
シャルのロープはまだ取っておいてもらいたいから何か他に代案が無いかを訪ねると焔王龍が俺達に向けて炎の玉を空から放ってきた。
「ハァッ!!」
炎の玉を斬り裂いて難を逃れると、シャルが唖然としていた。
タイミングがズレると大怪我では済まないが、慣れていれば簡単に出来る。弩砲でも撃ち抜けば出来そうなもんだけどな。
「どうした?」
「炎って斬れるの……?」
「硬くないしな。流石にブレスは――飛剣を覚えたからいけるか?」
「試すのはやめようね!? プロメティオスのブレスは危ないから!!」
「五月蝿いなぁ。俺もそんな事はいきなりしないよ」
それよりもアレが未だに俺達を狙っているから何か打開策は無いのかと問い詰めると無い事は無いと返事があったからさっさとそれをしろと伝える。
空を飛ぶ敵から一方的に炎の玉が放たれると、シャルが専念出来ないだろうから近くに立って炎の玉を斬り捨てる。
その間も空に対して狙撃するシャルの弾は俺の目にはきちんと当たっていると確認出来るから任せていると、シャルが弾を詰め替える。
遠距離武器を扱う為のスキルは確か俺のスキルにも有った気がするが、短かった。
スキルが当人の才能を表すというのはそういう点から言われる所で、狙撃するシャルを見て俺には向かないなと思いながら焔王龍を目で追う。
極振りはしていないだろうが高い射撃術。
多くを扱える弩砲は汎用性重視なのだろうと思っていたが、弾がきちんと刺さる様子から威力もあると分かる。
流石は旅する狩人の武器と言ったところか。
「だがまあ、隠れるには不向きな武器だな」
「え、そうかな?」
俺の呟きが聞こえたのかシャルが返事をし、再び爆破音。
「その音で位置はバレるだろう。盲竜には有効かもしれないが」
「銃声の事? 極力抑える装備もあるから気にした事ないかなぁ。今は狙撃重視の装備だから少し五月蝿いかもね」
「……遠距離は良く分からんな」
「アーサーくんは剣一筋な感じだもんね」
会話をしながらシャルがある程度当てると炎の玉も効かないとようやく理解してくれた焔王龍が大地に降りる。
着地を狙えればと思うが、龍の羽ばたきは鍛えられた狩人でも耐えられない風圧を放つ。スキルによっては耐えられるとも聞くが俺は耐えられないから着地を見てから距離を詰める。
「グルゥアアアア!!」
「怖いのはお前のブレスなんだよ! 絶衝!!」
翼を畳まれる前に斬り裂くと片翼は潰せたのか立派な翼に深い傷が生まれる。
あまり血は通っていないのか出血こそ少ないが、これで空に逃げられないと考えた俺はそのまま足下を刀で斬り周る。
「グルゥ!」
首を回した焔王龍の大口が近くを通るが、バックステップで躱す。
シャルに頼らずとも時間が経てば降りてくる時学んだ俺はそのまま脆い所を斬っていくと、焔王龍の動きが少しおかしいと感じ取る。
「アーサーくんはそのまま攻撃してて! もう少しだから!」
「……了解!」
シャルの策ならば気にする必要は無い。
これがさっきみたいなブレスの予兆だったら逃げていたが、シャルの言葉を信じて刀を振ると、腹を裂いた一撃がいつもよりも良い感触だと気付く。
闘気の色が変わった。
群青色から黄金に。より練られた闘気は静かに刀を纏う。
焔王龍も俺の変化に気付いたのかその巨体からは想像も出来ない軽やかな動きで後ろに飛び退く。
初めと同じく顔を見合わせる形になった俺と焔王龍だったが、シャルの策が効果を表したらしく、焔王龍は身体を跳ねさせると動かなくなった。